5-1



学期最後のイベント、クラスマッチの打ち合わせのために集合がかかった。
今回からあの坂下先輩も復帰して、今こうして私たちの目の前にいる。
今まで代行してくれていた人たちから引継ぎをしているようだ。
そんなやりとりに気を取られていると、続々と生徒たちが現れていた。
今回は各クラスからクラスマッチの代表もいて、今日の生徒会室はいつにもなくごった返している。
代表の人たちには準備や進行役等のメインの仕事をしてもらう。
生徒会はクラスマッチでは裏方の仕事となり、各部門への橋渡しや得点の集計などをする。
生徒会長の指揮のもと、着々と下準備が進められていた。
しばらくすると、代表たちの担当を決めるために別々に話し合うことになった。
去年まで私がしていた写し書きも、隣の席で後輩のミーナがパソコンに入力してくれている。
目立ってする仕事もなかったので、一真と揃って一枚の紙を眺めて唸っている。
「今回はどこが本命だろうな?」
学年全体での競技になるため、十二クラスの戦いとなる。
広報部が会報のために、クラスごとのデータがあげてきているのだ。
過去の成績、運動部所属の人数、それに担任の性格まで――他のさまざまとしたものの相乗効果で士気に関わってくる。
こんな裏データは表にまでは出ない。
記事のための基準になるために作られているものを、誰かがいつももらってきているのだ。
七月最後の会報のトップページを飾るネタになる。
「そうねー……、やっぱ運動部の比率が多い、ここじゃない?」
「確かに、過去の戦歴を見ると上位に入ってるしな」
本来の仕事とは裏腹にどこのクラスが優勝をするかの予想を立てていた。
「よく考えてみれば、君たちの間に僕の入る隙間なんてこれっぽっちもなかったみたいだな――今みたいに」
「――え?」
一真と同時に顔を見上げれば、そこには坂下先輩の姿。
今みたいにというのは、肩が触れ合いそうな距離間のことを言っているらしい。
「いや、それでもいつか振り向いてくれるだろうとアタックをし続けてきたけど――」
「……」
「きっぱりと恋人だと公言されたし、僕はすっぱりと諦めることにするよ」
「えええぇ!? 先輩たちって付き合ってたんですかぁ!!」
いきなりキーボードを手のひらで叩くような音が聞こえる。
パソコンの画面を見ると、難読不可能な文字が羅列していた。
「おや……、君はえっと――」
「橘美衣奈です」
「そう、橘ちゃん! この二人はめでたく付き合うことになったらしい」
「ダメですぅーーー! 葛葉先輩は響崎先生に『秘密の恋』をしなきゃいけないんです!」
急な話に三人はきょとんとした表情をしてしまう。
誰もが次の言葉を失ったかのようだった。
「――なんだそれ?」
なんとか一真が反応をすることが出来たようだった。
『秘密の恋』って――、今の私の状況じゃない!?
も、もしかして、バレた……!?
一人で青ざめていると、一真が横から突いて気をつけろと合図をしてくる。
「最近、恋愛小説を書いてるんですけど、テーマを教師と生徒にしようと思って、そのモデルにさせてもらおうかなーって」
「モ、モデル……?」
「そうなんです! ほら、実際にある環境を参考にしたほうがイメージが膨らむじゃないですかぁー」
「こんなヤツでいい話書けるのか?」
「失礼な……!」
どうやら、真実は明るみに出ていないようで一安心して一真に突っ込みを入れられる。
単なるミーナの妄想の中の話らしい。
「俺は出てないのかい?」
「そうですねー……。じゃあ、先生のライバルってことでいかがでしょう?」
「そりゃいい。格好良くしてくれたまえ」
あっはっはと笑いながら、坂下先輩は別の場所へと移動していく。
普通、自分が主役になりたいものではないだろうか……。
やっぱり、変わった人だ。
「坂下先輩ってキャラが濃いから、すぐに動いてくれそうだ……メモメモ」
そう言いながらも、実際にはメモを取っていないところを見ると、頭の中のネタ帳に書き込んでるみたい。
こうやって知らぬ間に私もネタにされてるのかな……。
嬉しいような、そうでないような、複雑な気分。
内輪同士でワイワイと騒いでると、背後に人の気配を感じる。
――えっと、これはもしかしなくても。
「あ、響崎先生、どうしたんですか?」
ミーナの担任でもあるので、気さくに話しかけている。
私もその姿を確認したいけど、なんだかいつもとオーラが違う気がして振り返れない。
「なんか、キミたちとても楽しそうだなって」
「え、そうでした?」
にっこりスマイルでミーナはすっ呆けている。
すぐになんで先生がここに来たのかを察知したようだった。
なかなか勘が鋭いコだ……。
「いくら裏方といえ、さぼらない」
「いた……っ!」
「いてっ」
予想外に先生が何かで私と一真の頭を軽く叩かれてしまう。
感触からすると、先生が持ってきていた薄いファイルのようだった。
硬い出席簿じゃなくてよかった――……じゃなくて。
「ちょ……、ミーナだって」
「ミーナはきちんと仕事してるだろ、写し書きを」
パソコンを盗み見ると、さっきあった難読不可能な文字は綺麗に消されていた。
あの会話の間でも手は動いてたらしい。
「先ー生ー!」
「そこの二人、目を光らせておくからな」
生徒たちに呼ばれた先生は最後の最後まで私たちに釘を刺していく。
「先輩たち……ゴメンなさい」
先生が完全に立ち去った後に、ミーナが申し訳なさそうに謝ってくる。
原因を作ったのは自分なのにと負い目を感じているようだった。
「いいっていいって、気にしなくて大丈夫。怒られるのはいつものことだし――ね、一真」
「まぁ――な」
とりあえず、これ以上の雷は落とされたくないので、何かやることはないかをこそこそと確認しに行くことになる。

ある日、生徒会の資料を響崎先生に渡そうと、昼休みの休憩時間に職員室へとやってきた。
「あれ……?」
パッと周囲を見渡すけれど、それらしき姿は見つからない。
せっかく、時間のあるときにやってきたのになぁ……。
そんな思いで残念がっていると声を掛けられた。
「響崎先生ならさっき席を外したばかりだから、しばらく戻ってこないかもね」
隣の席の渡辺先生が迷っていた私に丁寧に教えてくれる。
ま、そんなに重要な資料でもないから……机の上に置いておくか。
内容見ればすぐにわかるだろうしね。
「生徒会役員は昼休みも大変なのね」
「あ、コレはぶっちゃけついでというかなんというか……」
「ついで?」
「この後、購買に行こうかなって」
購買部まで行くのに職員室を通り過ぎるから、一真が預かっていた資料を持っていくかと思いついたのだ。
一緒に先生の顔も見れるし。
「――もしかして、デザート?」
「あ……バレました?」
「そしたら、ご褒美にコレあげちゃう」
渡辺先生の机の上にあったお菓子をくれる。
きっと誰かがみんなのためにとお土産で買ってきたようで、同じものも先生の机に置いてあった。
「でも、先生の分ないんじゃ……?」
「いいのよ。今、ダイエット中だから」
「えぇ!? 渡辺先生、そんなことするほど太ってないじゃないですかー」
「見えない場所についてるのよ」
席に座ったままの姿をよく見てみるけど、そんな風には見えない。
美人だし、性格も悪そうには見えないし、スタイルいいし、結構憧れ的な存在でもあるのになぁ……。
誰もがないものねだりなのかな?
「脱いだらすごいわよー。でも、見せないからね?」
「……残念!」
お互いに小さく笑いながら、そのご好意に甘えることにした。