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家のリビングに貼ってある年間カレンダーを洸くんはまじまじと見ている。
何かあるのかな……?
TVを見ながら気づかれないようにチラ見をする。
カレンダーを前にしてあんなに悩んでる人もなかなかない。
そんな光景を見て少し笑ってしまう。
「――あっ!!」
「わー、ゴメンなさい!!」
「何が?」
「いや、何も……!」
笑ったことに対して怒られると思って即座に謝ってみたもののどうやら違っていたみたい。
少しの間そのまま二人して見つめあう。
――……ん?
「わかった、わかったぞ。何を隠してたかを」
「え、え、え!?」
もしかして、トム&ジェリーのこと!?
せめて、このことは自分から話したかったんだけど――。
「藤波学園の六月といえば――アレだったな。アンケート」
十年くらい前の学生生活を思い出していたようだった。
洸くん時代でも盛り上がってたのかな?
「思い出したんだ?」
「――ん? 俺が卒業生だって話したっけ?」
「坂口先生が話の展開上、教えてくれたんだ。――ちょっと待ってて」
「――……あぁ、『あの時』。だから、あんなことを……」
予想の結末ではなくて、洸くんは頭の中で一人で納得している。
何やら思い当たる節でもあるのかな?
そんな彼を尻目に自分の部屋においてあるカバンの中にあるプリントを取りに行く。
間違って持って帰ってたんだよね。
――あ、コレでコメント取れるじゃーん。
ついでに書くものー……っと。
なんちゃって記者になってから、リビングに戻ってくると苦笑される。
「家でも仕事するんだ?」
「せっかくのチャンスだし」
アンケート結果を見せ、洸くんが入賞しているものに関してのコメントを頂く。
いやはや、まさか自分の家でこんなことをするとは思ってもいなかった。
相変わらずの謙遜ぶりでそれがまた嫌味に聞こえないところがいいんだろうな。
「最近、みんなよそよそしいとは気づいていたけど、こういうことだったのか」
「……そんなトコです」
「俺が学生の時は何気なく書いていたけど、役員側はいろいろと大変なもんだな」
一通りのコメントも取れたし、とりあえず仕事は終了。
こんなことを思いつくなんて、ある意味病気だね。
あ、そういえば――……。
「連覇中の坂口先生から一言。『王座は譲らないぞ』だって!」
「彼なら言いそうな台詞だな」
「坂口先生と仲良いの?」
「年も近いしな。自然とそうなった感じ」
坂口先生の話をしてると、ふいに思い出される先日の言葉。
これは私が作った問題だからちゃんと説明しなきゃ――だよね。
いくら洸くんが”大人の対応”をしてくれていても、一度くらいは面と向かって話しておきたい。
「あの――ね。この間のことなんだけど……」
「この間……?」
「私と一真がどうこうっていう……」
「あぁ……あれ」
急に空気が重く感じる。
それは自分に負い目があるからという証拠だ。
だけど、ここで言わなきゃタイミングを失ってしまう。
「文化祭実行委員長の坂下先輩っていうんだけど……。知り合いになってからずっと付き合ってくれって言われてて」
「そうなんだ」
「三月に怪我で入院していたけど、最近退院したんだって。あの逃走劇をどうにかして回避しようとして思いついたのが――」
「大体の内容はわかった。俺のことは大っぴらに言える立場じゃないのはわかってるつもりだよ」
私の台詞を遮るかのようにそう告げられる。
――ちゃんと顔が見れないよ。
こんなに苦しい思いをするくらいなら言わないほうがよかったんだ。
ただ、自分が助かりたいがためだけに、周りの人を困らせてしまった。
「本当に……ゴメンね」
それだけは伝えておきたくて、そのまま部屋を去ろうと思った。
この行動も逃げなんだろうな。
でも、今の私には他の言葉が思い浮かばない。
「ちゃんと教えてくれて――嬉しかった」
私の背中に向けられて、彼の優しさが伝わってきた。