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「久しぶりに会った後輩と仲良く話してたらいけないのか? まったくもう、やきもち屋さんだなぁ」
「いいえ、そうなるのは先輩の方です。だって――……」
こんなことは言いたくなかったんだけど、背に腹は変えられない。
一真を自分に引き寄せると、当の本人は不思議そうにしている。
それもそのはず、今から予想だにしないことを口にするんだから。
「一真はあたしの彼氏なんですよ」
「――はぁ!?」
「お前、何言って――」
「僕のいない間に君たちはとうとうそういうことに――……しばらく、考えさせてくれ」
まさかこんなにあっさり信じられるとは思わなかった……!
そんな私の発言に先輩は肩を落としながら姿を消した。
「え、今あたしに対して普通に会話してた!?」
「着眼するところ違ってんだろ!? なんてこと言ってんだよ!?」
一真に腕を組んだまま、違うことに興奮してしまう。
当の本人もそれどころじゃないらしく、とんでもないことを言ってしまう私に戸惑っているようだった。
まぁ……それもそうだけど。
「坂下先輩から逃げ切るにはこう言うしかないじゃない」
「だから、言っていい嘘とそうでない嘘が――……第一、あの人に対して失礼だろ?」
「だって、ようやく平穏な生活を送ってたっていうのに……」
「気持ちはわからなくはないけど――」
本鈴のチャイムが鳴り出して、仕方なく会話を打ち切って教室に戻ろうと振り返った。
――……何か一瞬、何かが目に入ったんだけど?
だけど、誰もいなくなった廊下しかない。
「……」
私たちは互いに顔を見合わせ、首をかしげてしまう。
教室に戻ってくると、何か微妙に居心地の悪い雰囲気。
一体、何が起きたのかな……?
着席して次の教科の準備を――って、よりにもよって響崎先生の授業!
――……魔が悪すぎ。
しばらくして授業が始まり、まともに前を向くことが出来なかった。
視線だけを動かして一真を盗み見ると、ペン回しをしている。
あれは何か考え事をしているクセの一つだった。
やっぱり、さっきのはマズったかな……。
後先考えずに口走ってしまったのは失敗なのかも。
うーーーん……、ヤバイ感じ?
「――もと。藍本!! うなだれてないで、授業に集中しろ、集中!」
よりにもよってこんな時に限って、名指しをされて目立たされるなんて……!
いつもの調子で誤魔化そうと思ってたのに、コソコソと話すクラスメートたち。
もう、さっきから一体何なのよ!!
「先生ー、今の藍本には普通に授業受けろってのはムズイ話っすよ」
「ついさっき、ようやく認めてたもんな」
「そうそう」
「何をだ?」
――……認めたって、まさか。
その展開にいくら鈍感な私でも気づく。
一瞬にして青ざめてしまう。
「ちょ……ちょっ――!?」
「昼休みに久しぶりの『ラブコメ』が始まって――っつーか、先生知らないんだっけ? 藍本に超ゾッコンLOVEな坂下さんのこと」
「でも、生徒会役員じゃなかった?」
「役員の坂下……? 聞いたことあるような」
まだ一度も正式に対面していない先生は、かすかな記憶を頼りに思い出そうとしている。
――いや、しなくてもいいんだけど。
もうこの勢いじゃ都留とかめの口はとどまることを知らない。
仮病を使って保健室にでも行こうかな……。
「つい最近退院したらしくって、久しぶりに再会した藍本に求愛してたわけ。……まぁ、それに関してはいつものことだったけど」
「求愛って……」
その表現に思わずほくそ笑んでいる先生。
でも、確かにそれにピッタリかも?
「そしたら、そのコントはいつのまにかここの教室の近くで始まってて、みんな見学してたら――……」
……振り返ったときに何か見えてたのはコイツらかぁ!!
「藍本が笹木を引き寄せたかと思ったら、一真はあたしの彼氏なんだって坂下さんに断言してたもんなぁー」
「おぉーーー」
「キャー!」
それを知らなかった男子はどよめき、女子といえば嬉しいんだか悲しいんだかわからない悲鳴があがった。
一応、あんなんでも女子にはモテるんだよね……。
そんな一真は何も聞こえないという風に両手で耳を叩いて妨害しているようだった。
私もやろうかしら?
「その後は平穏な日々がどうのこうの話してたから、ラブラブな関係を坂下さんに壊されたくないっていうことなんだろうな、うんうん」
「あーあ、見てるこっちが呆れるくらいだったわ」
どんだけの地獄耳してんのよ……。
ここまで目撃されてるとは、明日がどうなるかが怖い。
「……はぁ? キミたちは当の昔から付き合ってたんじゃないのか?」
「それがなかなか当人たちは認めなくて」
私たちが答える隙も与えずに都留が変わりに返答している。
いいような悪いような。
あぁー……後ろめたさすぎるっ!!
「ふーん……。まぁ、これで『隠し事』はなくなったんだし、この話題はこれで終了」
大人の対応らしく、何事もないようにサラリと受け流す先生。
――本心が全く読めません!
その後の授業なんて、まともに頭に入るはずがなかった。