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一週間後には出来上がった『an evaluation form』、日本語に訳すとアンケート用紙。
それが刻まれたこの名刺を左手に握り締め、確実に渡したことを明確にするための名簿の一覧表をバインダーに挟んでいる。
梶島先輩の独断と偏見で采配された各学年ごとのチーム。
一年は一真、二年はリョータ、三年は私を始めとし、後るメンバーは各種委員会の委員長。
ミーナはシステム開発に時間を費やしたため、除外になっている。
各種委員とは例えば――風紀委員や図書委員など、私と同じチームになっているのは、美化、保健、広報委員長。
広報委員は活動をするときに、デジタルビデオカメラを片手に仕事をしている。
日々の学校の活動を収めるためらしいけど、やっと念願の最新式が経費で落とせたらしく泣いて喜んでいた。
均等に割れば六十枚あたりなんだけど、渡された枚数はそれよりも上回っていた。
総代という立場と広報委員がビデオカメラを片手に難しいから、という千夏先輩のこじつけで少し上乗せになってしまった。
すごい不平等な扱い方だ……。
「はぁー……」
トランプのように扇形に広げてみるけど、少々手に余る。
昼休みの時間を利用して配り、猶予は今も含め二日間――……間に合うのかな。
「アレー? 今日は笹木君と一緒じゃないんだぁー」
「もしかして、喧嘩とか?」
「笹木君、元気にしてるー?」
三年のお姉さま方々に発見されるたび、何度となくこうしていじられる。
そのチャンスを狙って今回の仕事をちゃっかりと進めていく。
以外に早くさばけるかもと、この調子に乗って進めていると誰かが呼んでいる声が聞こえた。
リョータがひょっこりと現れ、フロアが違うのにどうしたんだろう?
「藍本先ー輩っ! 先輩を探してる人がいましたよー」
探している人?――……この台詞は嫌な予感。
いや、もしかしたら違うかもしれない……そういう淡い期待を抱く。
だって確かまだ――……。
「やっと見つけたよ。愛しのマイスイートハニー」
やっぱりーーーーーっ!!
語尾にハートマークが付きそうな砂吐きモノの台詞を言える人はこの学校でただ一人!!
坂下拓哉(さかした たくや)、一つ上の先輩で、一応文化祭実行委員長なんだけど……。
のっけの登場のように、少しキャラがおかしい。
黙ってればイケメンだし、結構気が利く人だけど――口を開いたら変な人だった。
――特に、私に対しては。
幾度となく交際を申し込まれたけど、なんとか誤魔化して断り続けていた。
「坂下先輩――……退院されたんですか?」
「そうだよ! ハニーがお見舞いに来てくれたときはどんなに嬉しかったことか」
「そう……ですか」
同じ生徒会役員として、お見舞いに行くという先輩たちに半ば無理矢理連れて行かれたのだ。
入院して少しは落ち着いたかと思いきや、相変わらずなテンション。
坂下先輩がいない間は、その下の委員たちが順番に代行していたのだ。
……って今も両手を広げてカモン状態だしっ!?
ちょっとカンベンしてよっ!
私はここぞとばかりに先輩とは反対に方向転換をする。
「なんで逃げるんだ?」
「なんでと言われましてもー」
案の定、私を追いかけてくる。
あぁ……また前のような生活が再開してしまうのね。
「一目逢った時からフォーリンラブッ! ボクと付き合おう!」
初めて会ったときからこんな感じに唐突に告白をされた。
妙に英語かぶれをしていて、ちょいちょいと米国的にスキンシップをされそうになる。
ここは日本なんだってばっ!!
そこから求愛の日々が続き、入院もしたと聞いて会うことも激減していた。
早歩きをしていたものの、鬼気迫るものもあり途中から走り始めてしまう。
「追いかけっこか? 逃さないぞ」
「ちっがーう!!」
「藍本さん!! 廊下は走らないようにしてって何度言ったら――」
走り抜ける際に聞こえてくる保健委員長の声。
人とぶつかったりして怪我をしたらいけないからという意味なんだろうけど、歩いてたら違う身の危険じゃない!
すると、行く手を男子先輩たちに阻まれる。
「あいもっちゃん。そろそろアイツの愛に応えてやってくれないか?」
「イヤですっ!!」
「坂下は顔がいいからもてるけど、絶対浮気するヤツじゃないし」
「それはわかってます!!」
痛いほど身に染みてる……っ!!
坂下先輩の友達であろう人たちに懇願されるけど、却下よ却下!!
あんなキャラしてる人を、どうあがいても好きになれないでしょ!?
しばらく足止めをされていると、当然追いつかれてしまった。
「そろそろ終了?」
「……まだまだっ!」
隙をついて坂下先輩の横をすり抜けて、また元来た道へと走り出す。
このドタバタ劇をちゃっかりと広報委員長がビデオに録画しているのが目に入る。
「ちょっと! 何撮ってるんですか!!」
「いやー、また愛の逃走劇が始まったなぁと」
「活動と全然違うし!!」
「ちょうどいろいろ試しかったんだよな。一秒間に二十四コマ秒の連続撮影だぜ。今の華麗な技、収めといたぜ」
「信じられないっ」
「ホラ、油売っているうちにそこまで来てるぞ」
振り返ればすぐそこまで追いついていた坂下先輩だけど、私と同じように女子に足止めをされていて、距離はつかず離れずだったようだ。
女子からのモテぶりも未だ健在ってことか。
その隙にまた走り出すと、この問題児を連れてきた張本人は最初に見た位置と変わらない場所にいた。
「リョータァッ!! これを見たんだから、次回からは遠慮してよぉー!!」
「はい……っ!!」
遠くから叫びながら、リョータを追い越し階段へと駆け下りた。
その最中、昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
これで一安心かと思いきや、本鈴まで五分あるためにその続きは終わらなかった。
二年のフロアに下りてくると、廊下に残っている生徒数名がいる。
階段側から人の気配がしたので身構えたけど、見慣れた一真だった。
きっと、一年のフロアで一仕事終えてきたんだろう。
――って、私の一仕事は終わってない!?
「なんだよ、人の顔見てため息つくなんて」
二重の意味を込めてあからさまについたため息に不満げな様子。
「だって、あんなことになるなんて……」
「はぁ?」
「やぁ、ハニー! 今日は授業が始まってしまうからここまでにしとくよ。また明日会おう」
「坂下先輩じゃないですか。退院されたようですね。おめでとうございます」
私の返事も聞くこともなく、先輩と一真は軽く話をしている。
今の先輩は普通なのに、なんで私の時だけああなるの!?
愛だの恋だの言ってるあたり、私に好意を寄せているってことであって……。
それを回避するには――……。
――……。
「坂下先輩。一真とよろしくやっててもいいんですか?」