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「では、今から一人ずつ発表してもらいます。三つ以上案が通った人から帰ってよし」
「今日は金曜だってこと忘れないでねー」
放課後に生徒会役員が一人の欠けもなく集まっていた。
ただ今の時刻、十六時三十五分。
千夏先輩が腕時計をわざと確認して、周囲にプレッシャーを掛ける。
一年から一人ずつ発表していくのだけど、一人あたりが考えてきた案は最低五つ以上。
しかも、かぶったりしたらアウト。
黒板にリョータがそれを書きとめ、ミーナがここに設置されているノートパソコンに打ち込んでいっている。
「惜しい! あと一つ、考えてな」
意見がかぶった者同士が集まり、コソコソと話し出した。
きっと、どちらがそれを取るかとか二人一緒にもう一つの案を出すかだとかだと思う。
そこのルールについては言及されていないので、先輩たちも注意はしないようだった。
いかに珍しいアイデアを発想することが、他人と同じ案にならないかだ。
これが私にとってどんなに難産だったことか……。
だけど、亜衣と話した後のさくさくと決まったこれさえあれば――
「あれ? 今日は何の集会だ?」
ドアが開く音と同時に聞きなれた声がした。
その人物にこの場にいる全員が凍りつく。
「響崎先生!? どうしてここに?」
「いや、電気がついてたから気になったんだ」
偶然、一番近くにいた一真が立ち上がり先生の足止めをする。
黒板もあたりに散らかっているプリント類も見られてはならないもの。
一真の目配せを感じた私は立ち上がり、先生を廊下へと追い出す作戦を取った。
ドアを完全に閉め、生徒会室から一定の距離をとり一息つく。
「え、俺、まずいこと言った?」
「いや、そういうワケじゃ……」
「明らかに変な態度だったけど」
その言葉通り、明らかにみんなの態度に不信感を覚えているようだった。
どうやって誤魔化そうかと必死に考えを巡らせる。
ポケットにしまいこんでいた携帯を取り出して、時間を確認するとあれから小一時間くらい経っていた。
たぶん、この調子からすると今日はあがりのようだった。
――……。
「藍本ー。今、手にしているものは何だと思ってんだ?」
「今日、ハンバーグ食べたい」
「はい? だから、携帯をだな――」
「今はプライベートな話してるのっ。久しぶりに洸くんお手製のハンバーグ食べたいなー」
私の急なおねだりは今抱えている疑問をかき消すことが出来るかな?
少しの沈黙が訪れた。
後ろめたさもあり、これ以上の話も出来ず視線を少しずらしてしまう。
「――そういえば、最近時間がなかったから作ってなかったかもな」
「じゃ、今晩!!」
「今日はもう帰れるしなぁ……。よし、ご期待に添えるとするか!」
よしっ……!!
うまい具合に話をそらすことができた!
一安心していると、最後の別れ際に釘を刺されることになる。
「次、同じことしたら没収だからなー」
くぅーーー……!!
油断して自分の携帯を取り出してしまったことに対する警告。
てっきり誤魔化せれたと思ってたのが間違いだった。
少しヘコんで帰ってくると、隣にいる一真からせっつかれる。
「何をしたら没収なワケ?」
みんなとは壁一枚隔てただけの距離間だったので、二人とも途中から小声で話していた。
だけど、階段を下りる間際に叫んだ言葉は当然聞こえているハズ。
そこは聞かれても問題はないんだけど――。
うまい具合に手で口を隠しながら、周りにバレないように問いただしてくる。
「何、ちゅうしたとか?」
「んなコトあるかいっ」
目に留まった数枚のプリントを丸めて一真の頭を叩く。
「じゃあ、ツッコミ担当の藍本。最後だよ」
「ええぇ!?」
びっしりと書かれた黒板が目に入り、どうやら席を外している間も進行していたらしい。
それらを隅々まで確認することも出来ないままの発表となってしまう。
ギリギリの五つを言い終えると、先輩たちの様子を窺う。
少しして深々とため息を疲れてしまう。
「二つは最初にした注意事項に当てはまるから却下」
「えぇ?」
千夏先輩のきっぱりとした決断に一瞬止まってしまう。
――……あぁ、しまったっ!!
案を考えることに夢中になっていて、そのことをすっかり忘れてたぁ!!
思わず両手で頭を抱え、また考え直さなきゃいけないのかと思うと立っていられなくなる。
「だけど、残りの三つは見事に通ったので、最後にして一番乗りの藍本は今日は終わり」
「ん!? どういう――」
「一つはあまりにもベタすぎて敬遠されていたもの。残り二つはなかなか面白かったよ」
「ということは――一発合格っ!!」
「おめでとう」
梶島先輩のさわやかな笑顔にも浮かれながら、日頃なれない一番という響きにハイテンションになる。
周囲にもプチ自慢をしながら、そそくさと帰りの支度を始める。
といってもたいした準備もないので、カバンを手に取り皆さんに挨拶。
「葛葉ー。今日の晩飯は?」
「ハンバーグッ」
一真の変な質問にVサインをしながら、生徒会室を後にする。

家に帰ると、キッチンでせっせと夕食の準備をしている洸くんの姿が目に入る。
壁にかかっている時計を見ると、あれからさほど時間が経っていないことに気づいた。
「おかえり。以外に早かったんだな」
「ただいま。そう、あたしも予想外の結末で」
「――まぁ、俺的にはいいところで帰ってきたになるけど?」
「……イヤな予感」
「これくらいなら葛葉でも出来るだろ? 着替えておいで」
気を遣われているのかそうでないのか不明。
待ってるからとニコリと微笑まれた意味は、きっと戻ってくるまでということなんだろう。
ハンバーグのタネが仕上がっていて、次にすることといえば――。
「……最初のが大きすぎだと思うけど?」
「そう――ですね」
いい音を立てながら、フライパンの上で焼かれ始める。
だけど、私の配分が悪かったおかげで、均一ではないハンバーグが仕上がることになってしまった。
一応考えてやってみたのに……、思わず他人行儀に返事をしてしまう。
「繰り返していくと慣れていくさ。ありがとう」
そこから先は彼がしてくれるらしい。
ギトギトになった手を洗っていると、インターホンが鳴り響く。
慌てて玄関に向かった頃、勝手に扉が開いた。
勝手知ったる何とやら――、私服姿の一真がお皿片手に家に上がりこんできた。
「ちょ……ちょっと!?」
私の制止も虚しく、許可なしにリビングへと入っていく。
ちょうどその頃には、ハンバーグがお皿に盛られようとしていた。
「ナイスタイミング! 俺の分ももちろんあるよな、葛葉」
――そういうコトか。
洸くんの片手にしているフライパンの中身を確認する。
「……五つ! なんだ、ちゃんと俺の分まで作ってくれてたのかぁー」
「違うわよっ!! あたしが失敗しただけよっ」
「でもさ、二人でこの数はケンカするだろうから、俺がもらっておいてやるよ」
「はぁーーー!?」
何でもいいように受け取る男なんだから。
前向き思考はイイコトだけど、時として邪魔くさいのね。
「ダメですか?」
「……いいよ。でも、この一番小さいヤツな」
結局は料理人の許可を得ただけだし!
っていうか、それおかしいでしょーがっ。
ここの主は私なのにーーー!
「それでも十分っス。洸さんの料理は一度食べたら忘れられないんです」
「これからは男も料理をしなけりゃな。一真君も頑張れよ」
「へーい」
お礼を言った後、ホクホク気分で帰ろうとしていた一真の背中を洸くんは見つめていた。
「そういえば、今日のあれはなんだったんだ?」
ふとした質問に私たちの動きが止まる。
まさか、ここまできて追求されるとは考えていなかった……!
「今はシークレットです」
「今は?」
「――そのうち先生の耳にも入ってきますよ」
一真はそうやって言葉を濁したのだった。