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週明けから始まった中間テストは苦戦したところもあったけど、いつもよりは出来た気がする。
特に、プリントからごっそりな問題にはテンション上がったなー。
思わず声が上がりそうになったし……。
これで、普段どおりの成績なんてないとは思うんだけど。
いつの日も、この瞬間だけは緊張する!
「藍本ー」
帰りのSHRに現れた担任の手の中にはクラスのみんなの成績表があった。
それを目撃すると、騒ぎ出していたが呼ばれた者は慌てて回収に前に小走りを始める。
もれなく私も同じように見たくないものを取りに行くことになった。
担任はそれと私を見比べて、首をかしげる。
「これは間違いじゃないかなぁー。でも、藍本の名前なんだよな」
「……どういう意味ですか、それ?」
「自分で確かめれば一番わかるぞ。ホラ」
少し躊躇いながら差し出された成績表を受け取る。
すぐさま見たのは、点数なんかじゃなく順位の場所。
……本当に?
何度確かめても、私の名前だし、過去の順位も見覚えがある。
なのに、今回だけは――……。
「よく頑張ったな。やっと本気出してくれたのか?」
「ヤダ、先生! これってスゴーイ!!」
言葉と同時に私の片手が担任を叩く。
予想だにしていなかったいきなりの攻撃に、手にしていた成績表が落ちそうになるけど、どうにかそれを持ちこたえる。
「興奮するなら、自席でしろ」
「はーーーい」
体良く追い払われ自分の席に戻るどころか、一真の席へと歩み寄る。
目立たないようにとしゃがみこみ、それを差し出した。
「おぉー。効果てきめんってヤツだな。ちゃんと感謝しとけよ」
「もうちょっと褒めてくれたっていいじゃないー」
「俺が? なんで?」
「友達でしょー?」
「俺じゃなくて、もっと褒めてもらいたい人いるだろー」
「そりゃ、そうだけど――」
「呼ばれたから、そこどいてくれ」
一真が去った席に私が座り込むことにする。
ちょうど壁際だから横向きに座りやすいんだよね。
それにしても、何度見てもデキのいい成績だ……。
「だから、なんでそこに座るわけ?」
「そこに空いた席があったから」
「……ったく」
「で、どうだった?」
「まぁまぁ、かな」
「どれどれ」
ひょいと立ち上がり、一真の成績を覗き込んだ。
――相変わらず、小憎たらしい順位だこと。
「お前も今以上に頑張ればできるって。今回でよーーーくわかっただろ」
「まぁ……そうだけど……」
「これでさらに拍車がかかりそうな気がするな、うん」
「え、誰の?」
「先輩たちの」
「えぇぇ」
ふと気がつけば、何故か教室が静まり返っている。
恐る恐る振り向くと――。
「成績も見せ合えるほどの仲ー」
「熱い熱い」
既に全員の分を配り終えたのか、思い思いの場所にいる割には見るところはちゃんと見ている。
今回は騒いだ覚えはないんだけど……。
バレないようにと声をひそめて話していたけど、そうなると必然的に話す距離が近くなるわけで。
チラリと見上げると、いつも以上に近くに一真の顔がそこにある。
慌てて離れて、自分の席に戻ることにした。
「今更、恥ずかしがる仲じゃないんだろー?」
「うっさいっ!」
「おー、こわこわ」
都留の茶化す言葉にムカついて、つい出てしまった。
その言葉は都留のおちゃらけで誤魔化せたものの、それを見逃さなかった数人は少し驚いた表情をしていた。
やっぱり、私にはある程度のイメージが固定化してると思い知らされる。

携帯にメールが入り、生徒会室に全員集合がかかった。
もちろん、その中には響崎先生も。
「じゃあ、まずは新人のお二人からいこうか」
梶島先輩がいつものように先手を取って切り出す。
というか、ここの二人は見なくても結果は知れてるんじゃ……。
――……。
ホラ、やっぱり。
二、三位という一桁台。
その数字が眩しすぎるんですけどっ!!
「いやー、やっぱりすごいもんだ」
「一番が取れなかったのが残念だよねー」
「うん」
みんなが物珍しそうに上位成績表を見下ろしている。
私のなんか到底見せられないと視界に入らないようにと隠す。
「じゃあ、俺たちの」
追加でテーブルの上に置かれた先輩と一真の成績表。
――……。
さらに眩しさを増した机から目を逸らしてしまう。
逃げてもいいかな。
そろりと後ずさり、何気なくこの場所から消えようとした。
「あいもっちゃーん。さり気なく消えようとしてない?」
鋭い千夏先輩の一言を浴びせられて、身体が固まってしまう。
「い、いえ! 滅相もございませんっ!!」
「そう。じゃ、それをここに置いて」
背に隠していたものを指名されて、少し躊躇う。
あんな成績を見せびらかされた後に、誰だってこんなものを見せたくない。
先生を見ると、まだ知らないはずなのに大丈夫だよという表情をしている。
六人の視線から逃げることも叶わず、いつの間にか何もなくなっている机の上に渋々差し出した。
「……」
その沈黙、非常に重いんですけど……。
みんな言葉にならないほどあきれてるんだー……。
誰とも視線を合わせられなくて、あらぬ方向を見つめてしまう。
怒るなら怒ってよ。
「過去最高順位じゃないか。よく頑張ったな、葛葉ちゃん」
「そうね。響崎先生のレッスン効果がちゃんと出てるじゃない」
「まぁ、十一位ってのが惜しいけどな」
先輩たちの褒め言葉の後の一真のぐさりとくる一言に蹴落とされる。
「でも、ここまで結果が出して無償ってのも可哀想だから……ご飯を奢るくらいのご褒美あってもいいんじゃないですか? 先生」
「まぁ……確かにな」
「よかったですねー! 先輩」
ミーナがキラキラと目を輝かせながら、はしゃいでくれる。
てっきり雷が落ちるかと思ったのに……。
私だけ、二桁だし。
「結果出なかったら、本当に脳トレさせようと思ったけど、必要なさそうね」
「え、本当にやらせるつもりだったんですか……?」
「当たり前じゃない」
「タイミングよく持ってんだよなー。別に俺が買ったわけじゃないけどさ、親が……な」
だから、大人のためのものをまだする必要性は低いと思うんだけど!
「つまんない」
「ちーなーつ先輩ーぃ」
「ゴメンゴメン。でも、やれば出来るってことを証明したわけだし――……、期末も期待してるわよ」
「げげっ」
「ハイ、これ。みんなからの差し入れ。あと、その勤勉に応えて、今回はおまけで条件はクリアってことで。な?」
「――いいわよ」
綺麗にラッピングされたプレゼントを梶島先輩から受け取っていると、お情けでそういうことにしてくれるらしい。
その許可を千夏先輩に取っているあたり、やっぱり裏ボス的存在。
一通りの確認事項をした後は、先輩後輩たちは姿を消してしまう。
本当にただこのためだけに集合したのが泣けてくる。
「ほらみろ、余計に期待させちゃっただろ?」
「だってさー」
椅子に座って受け取ったプレゼントの中身を確認することにした。
――!!
今をときめくお菓子たちが……!!
目を輝かせて、思わずよだれが出そうになってしまう。
「目がハートになってるって」
「みんな好物の与え方を知ってるんだな」
「そうなんですよ。だから、新入生の時から比べると、頬の辺りとかふっくらしてる気がして……」
「五キロしか太ってないしっ!!」
「げー、一年でそんなに? 卒業する頃には今の一回り大きくなってんじゃーねぇの?」
「今をキープするもんね」
「彼女が徐々に太るところなんて見たくないですよねぇ?」
「まぁ……今の葛葉の言葉を信じるとしか」
「だってよ」
はい、肝に銘じます。
とにかく、今回の出来事に関しての教訓。

『飴と鞭を使いこなすべし』