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『今日の一時くらいに藍本家に行きまーす!!』
亜衣からがっちりとデコメールで朝一にメール受信。
それに合わせて、洸くんの行動も決まってしまうんだけど……。
結局、どこへ泊まるのかは話が出来なかったんだよね。
帰ってきてからゆっくり話すよ、と誤魔化されてしまう。
大の大人だし、私が心配することじゃないと思うけど……気になる。
――……まさか、他の女の所!?
だったら、最初からここへは来てないって話。
自問自答しながら、亜衣を待つこと十五分。
車の音が聞こえると、インターホンが鳴り響いた。
予想通り亜衣と亜衣のお母さんが玄関先にいる。
「藍本さん、ごめんなさいねー。このコがいきなり言い出すもんだから驚いたんだけど……」
「あ、いいですよ。気にしないで下さい。その代わり、食事は自炊になりますけど」
「そう思って、これデザートにでもどうぞ」
「……ありがとうございますー!」
どこぞの有名のロゴ入りの差し入れ。
今夜はいっぱい食べるものがあるなー。
――……本当に太るかも?
「じゃ、迷惑かけるけど、うちのバカ娘よろしくねー」
お母さんは娘を無理矢理頭を下げさせると、車に乗りこんで走り去っていった。
重そうな荷物を抱えている亜衣を、リビングへと案内する。
一体、何をそんなに持ってきたんだっ!?
たかが一泊、されど一泊。
どうせ、要らない物も持ってきてるんだろう。
「広ーいっ!! こんな家で一人で暮らしてんだよね!?」
「そ、そうだよ」
「そしたら、いろいろと大変だねー。家事とか」
「ほ、ほら、時々親戚の叔母ちゃんたちが来てくれるんだ」
「あ、そうなんだ。ちょっと、花嫁修業じゃーんって思ったのに」
「あはは……。あたしがするワケないじゃん!」
「――……そうだよねーーー」
亜衣も随分と私の性格を把握してきたらしい。
二人で互いに顔を見合わせ、不敵に笑みを交わす。
うんうん、まだそんなの早いよねっ。
まだ、遊び盛りの歳だもん!

昼下がりから、私の部屋に閉じこもって勉強タイムの始まり。
亜衣はローテーブルを使って教科書類を広げ、私はというと自分の勉強机でもうほとんどが復習になっていた。
だいたいのこともわかってるし、これ以上詰め込めたら頭がパンクしてしまいそうだった。
あとは授業で配布されたテスト向けのプリントを解くだけにしている。
根を詰めてしても疲れるだけだと思い、亜衣の方に椅子ごと振り向くと答え合わせをしているようだった。
答えに納得しないのか、何度も問題と解答を見合わせていると、パッと目が合った。
「今、大丈夫??」
「うん、どうした?」
「あのね、ここんとこなんだけどね――」
質問されたのは、数学の数式。
どうやって、こんな式になるのかがわからなかったみたい。
確かに答えって途中の式を省いてある時もあるから、わからないものにとってはなんでそうなるかが問題になってしまう。
その問題にざっと目を通し、亜衣の答えも確認する。
「これはね――」
今までなら二人でどうにか答えを導き出していたのが、今回はスラスラと答えが出てくる。
これってやっぱりレッスン効果――しかないよね。
ちゃんと頑張れば、自然と結果はついてくるんだ。
なんか……テストが楽しみかも!?

夕食はパスタを作ることにした。
茹でるだけだし、インスタントのソースをかければハイ、出来上がりー。
軽く作り方に目を通して、亜衣に指示を出す。
「沸騰したら、サッと茹でるだけだよっ」
「OKー」
エプロンをしているのも、IHのクッキングヒーターの前に立っているのもやはり彼女。
本人もその違和感に気づいていないようだし、問題ないみたい。
私はいつものように助手に回ってお手伝いをする。
テーブルの上にはほやほやのクリームソースのパスタと、冷蔵庫に既に作り置きされていたサラダ。
「あいもが作ったの?」
「ううん。――おばちゃんだよ」
「へー、至れり尽くせりだね。頂きまーすっ」
本当は洸くんがここを去る間際にパパッと作り上げた一品。
ホント、その言葉が身に染みた……。

夕食を食べデザートも平らげた後に、小一時間程度教科書たちとにらみ合いっこをした。
しばらくすると、亜衣のギブアップの声が上がり、お風呂タイムとなった。
一番風呂を譲り、リビングでテレビを眺めながら携帯をチェックする。
友達たちにメールの返信をした後、洸くん専用のフォルダへと移る。
だけど、思いのほかに洸くんからの返信は少ない。
そりゃ、男の人にそういうコトを期待するだけ損だとは思うけど……。
いつもと違う状況の時くらい連絡してくれたっていいじゃない!?
履歴を探り、電話番号を表示してしばらく考える。
亜衣はまださっき入ったばかりだから、時間的にはまだ余裕がある。
「えぃっ!」
勢いづいて通話ボタンを押して、呼び出し音が耳に入ってくる。
早く出てくれないかなー、こういうのっていつもより長く感じるもんなんだよね。
――……。
って、本当に長いっ!!
三十秒程コールをしてみたけど、反応なし!
「……冷たっ」
「えー、ちょうどよかったよー」
「!? もうあがったの?」
「そりゃ、人様の家で長風呂は出来ないよ。……でも、一つ気になったことがあるんだけど」
「な、何……」
「そんな変なコトじゃないんだけど……。洗面所のところにね、歯ブラシがあるじゃん?」
「そうだね」
それは別に普通のことだと思うんだけど。
「一本はあいものでしょ? じゃあ、もう一本のは誰の?」
「えぇ!?」
あぁーーー!!しまったっ!!
そこまでは気が回ってなかった。
ここはどう切り抜けようか……。
「ほ、ほら。父のだよ。時々、帰ってくるからさ」
「そうなの? だったら、お母さんのもないと変じゃない?」
「母はお気に入りのを持ってるから、向こうに毎回持って行ってるんだよ」
「ふーん……」
とってつけたような理由に納得したのかそうでないのか、とりあえずは落ち着いたようだった。

お風呂上りに一真の様子を窺おうとカーテンをこっそり開けて覗き込む。
張本人はいなかったものの、なにやら動く影が。
「あ、ナナちゃんだー」
「え、もしかして、そこって笹木君の部屋?」
「そうそう。んで、愛猫のナナちゃん」
嫌な視線を感じてこちらを向いたナナちゃんだけど、それが私だと気づくとそっぽを向かれる。
つれないーーー。
ヘコんでいると、一真が部屋から戻ってきたようでナナちゃんを抱きかかえている。
私の存在に気づくと、そのままベランダへとやってきた。
「男の部屋を覗いて楽しいか?」
「だって、疲れたし」
「はぁ?」
ナナちゃんはさっきとは打って変わって、一真に撫でられて気持ち良さそうにしている。
「こんばんは」
「え!? なんで新山がいんの?」
「今宵は泊り込みでテスト勉強なんだ」
「そ……そうなんだ。――ってコトは」
一真が意味深な視線を送ってくるけど、亜衣の見えないところで首を横に振る。
これで伝わるんだろうか……?
「……そりゃ、俺も負けないように勉強しなきゃいけないな」
「えー、笹木君はしなくても大丈夫っしょ?」
「俺もそれなりには努力してるってこと」
「あ、そうなんだ。ゴメン」
「二人とも風呂入ったんだろ? 湯冷めするからさっさと部屋に戻れよ」
「はーい」
その言葉通りに亜衣がUターンするので、仕方なく一緒に戻ることにする。
私一人なら、もう少し長居してるんだけど……。
「笹木君って、優しいトコあるんだねー」
「え、どこが??」
「えぇ!? わかんなかったの?」
「う、うん」
「ホント、こういうコトに関してはニブチンだよねー、あいも」
一体、どこがどう優しかったって!?