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家に帰ると着替えもせずに、目に付くものを洸くんの部屋に叩き込む。
さすがの亜衣も勝手に部屋を覗き込むことなどはしないと思う。
相変わらず、綺麗に整頓されている彼の部屋。
やっぱA型っていう性格が出てるのかなぁー……。
少し考えた後、手にしたものを空いたスペースに置いておく。
あー……、掃除もしなきゃいけないかなぁ。
特に自分の部屋は、両親がいないのをイイコトに無造作に散らかっている。
掃除はコロコロで簡単に済ませたりしてるし。
洸くんには乙女の部屋に無断に入るなって懇願したんだよね。
たまには最新式な掃除機を使って、掃除するか!
階段の下にある収納場所から取出して、まずは一階から。
玄関からざっと掃除機をかけて、リビングも一通り終わる頃にはさすがに疲れてきた。
「主婦って大変だね……。これで食事とか洗濯とかもだよね。まだまだあたしにはムリだっ」
大体の主要な場所も終わったので、一息入れようとソファーに座り込んだ。
すると、家の電話が鳴り出した。
ナンバーディスプレイを確認すると、洸くんの携帯番号。
「もしもし?」
「あー、葛葉? やっと出てくれたな」
「やっと……? 何回か電話してた?」
「携帯にしてたんだけど、反応ないから。もしかして、家に帰っているのかなと思って」
携帯……?
リビングのテーブルに置きっぱなしだった携帯をようやく手に取った。
確かに洸くんから何件かの不在着信。
「ゴメン、気づかなかったよ」
「あの葛葉が? 家電もこれで三回目。何かしてたのか??」
「ホラ、家の片付け&掃除をね」
「……あの葛葉が??」
「……何、その言い方ーーー」
「いやいや。こうでもないと自主的にはしないだろうから、新山にはイイコトをしてもらったかな」
「ふーんだっ」
「はは。今から買出しに行って来るから、少し遅くなる」
「はーい」
そして、短い挨拶を交わし電話を切った。
ずっと手にしていた携帯を確認すると、何通かメールが届いていた。
この私がメールに気づかないなんて……!!
そのうちの一通は当然、亜衣からで着々と『お泊りの準備』進行中だそう。
「はぁーーー」
思わず、深々とため息が出てしまう。
決して、亜衣が泊まりにくるのが嫌だとかじゃなくて、状況が状況だから憂鬱なだけであって……。
腰に手をやり、しばらく辺りを見渡す。
パッと見は違和感はないはず。
「……ま、こんなもんかな」
しばらくすると、車の音が聞こえたので玄関の鍵を開けに行く。
今頃気がついた……一番肝心な場所を忘れてた。
さっき、掃除機をかけたのに全く目がいってなかったのだ。
「ここは大事だよねぇ……」
自分のよく履いている靴が散乱している。
改めて客観的に見ると……汚い。
綺麗に靴を揃えている時に、玄関のドアが開いた。
「たーだいま……って、んん!?」
明らかに私の様子を見て、顔をしかめる。
これ以上何も言わなくてもわかりますっ!
こっちはしかめっ面で対応をする。
「ゴメンゴメン、まさかここにいるとは……」
「そういう驚き方じゃないでしょー?」
「確かに」
「――……。いいです、わかってます。これ以上、イタイこと言わないで下さい」
洸くんの顔を見ないように、リビングへと踵を返す。
その後をついてきた彼がテーブルの上に買い物袋を置く重い音が聞こえる。
何気なくそっちを振り返ると、いつになく量が多かった。
「いつもより多いね」
「そりゃ、そうだろ。約二日間空けることになるんだし?」
「そう……だよね。洸くんはその間どうするの?」
スーツの上着を脱ぎながら、自分の部屋へと上がっていくので今度は私がついていく形になる。
「あーそれ? 実は、いい話があっ――……」
そう言いながらドアを開けた手が止まる。
何か問題でも?
「……葛葉」
「はい?」
「俺が朝出かけた影が全くないんだけど?」
「そう?」
洸くんより先に部屋へと足を踏み入れる。
家中にあった目に付く彼の私物をここへと持ってきただけだけど……。
ここじゃマズかったってこと?
さすがの亜衣も、勝手に人の部屋を開けるような真似はしないと思うけどな。
じとーっと私を見る視線とぶつかる。
「どうやら違う方向にいってるみたいだから、一言」
「ん?」
「ただ入れればいいってもんじゃありません」
ちまちまと説教をされ、私もまだまだだなと考えさせられる。
がさつな女は嫌われることがあっても、好かれることは少ないよね……。
あぁーーー、そういえば一真にもよく言われてたっけ?
「だってさ、隠せばいいんでしょ、隠せば」
「そうだけど、ただそうすればいいってもんじゃないだろ?仮にもA型の血が流れてるはずなのに」
「……どうせ、B型も入ってるもんねっ」
そう、私は数少ないAB型の人間。
Aでもあり、Bでもある。
なんか複雑な扱われ方をするもんだ。
「まぁ、着替えもしないままやる気になってくれたのは嬉しいけど?」
そう言われて、すっかりそのことを忘れていた。
どうやら彼は整理整頓したくなったようで、腰を下ろしてしまう。
ここから先は彼の領域なので、自分の部屋に戻って普段着に着替えることにした。
しばらくすると、夕食のいい香りが家中を漂ってくる。
それに釣られて、リビングへ行くとあと少しで完成のようだった。
「あれ? 片づけするんじゃ……?」
「そうしようかと思ったけど、腹空かしが一匹いるからな」
「あたしは動物かっ」
「んー、違うのか?」
「……っ」
確かにこの時間帯になると、お腹空いたーと口癖になっているから言い返せない。
最近の洸くんは冷たい気がするっ!!
恋人たちの甘い時間はどこへやら。
レッスン計画あたりからどっかに行ってしまったのかな……?
テーブルの上にはまだ中身が残ったままの買い物袋が一つ残っていた。
なんだろうと中を覗き込んでると、隣に洸くんがやってくる。
「あ、それ。俺からの差し入れ。もちろん、ポケットマネーだぞ」
私の好みなお菓子類が多々あった。
少し値段が高いから、なかなか口に出来ないんだよね。
それを奮発してくれたらしい。
「ありがとうー。ちゃんと亜衣の分まであるし」
「それで太っただの言わないでくれよ?」
「言わない言わないー」
――……やっぱり私は現金な娘だ。