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次の日、登校してくると廊下で窓を開けて守ちゃんが立っていた。
なんだろうと思って、私もその隣に立ってみる。
「おはようー。何かあるの?」
「おはよ。ホラ、あそこにいっぱい鳥たちが集まってたから、餌でもあるのかと思ってさ」
「……あ」
そこは昨日一真が与えたパン屑の一帯だった。
思惑通りになっていたことに笑いそうになる。
「なんか知ってるのか?」
「昨日、日直だったでしょ? んで、ゴミ捨てに行ったらパンが捨てられてたから、一真が鳥たちのためにばら撒いたってワケ」
「――相変わらずだな」
「えぇ!? 守ちゃん、動物愛好家のこと知ってるんだ?」
「俺んち、シェパード飼ってるんだけど、たまに家に遊びに来たとき溺愛してるよ」
「シェパード……? 警察犬のか」
「そうそう。でも――」
「やっぱ猫だよなーって」
同時に同じ台詞を言ったことが可笑しくて目を合わしてしまう。
もしかして、息とか合っちゃったりしてる?
あの守ちゃんと!!
「あいつが言いそうな台詞だな」
「そうだね」
「……この間の数学は大活躍だったな」
「守ちゃんまでそんな言い方っ」
「悪ぃ。――ちゃんと勉強してるんだ?」
「週明けには中間だし、たまには頑張ろうかなぁって」
後ろめたいことだから、つい視線を逸らしてしまう。
別にやましいことなんてしてないけど!
あぁ、なんだか守ちゃんの視線が痛いんですけど!?
「ふーん……。藍本も塾に行き始めたのか」
「塾……みたいなもの」
「みたいな?」
小さく呟いたのに、がっつりと食い付かれる。
「いいのいいの! 深く追求しなーい」
脱兎のごとく教室へと逃げ込んだのだった……。

「あーあ。せっかくの週末だってのに、休み明けはテスト……」
「こればっかはねー、学生の定めというかなんというか」
テスト向けに配られた数々のプリントの山を亜衣と二人で眺める。
ここからそっくりそのまま問題が……ってこともあるから、油断ができない。
せっかくわざわざ点稼ぎにくれたチャンスを無駄には出来ないよね。
じーっとプリントとにらめっこをしていると、視線を感じて顔を上げた。
「なんか最近、あいも変わったよね」
「……どういう風に?」
「勉強に対して前向きになったというか」
「え!? ……えーっと、なんでかってーと……。ほ、ほら、お小遣いがかかってるのよ!成績アップをキープ出来たら、プラス三千円!」
「三千も!?」
「でしょ? だから、少しはやる気が出たって感じかなー」
「そうなんだー」
とっさに出た嘘が我ながら上手いと思った。
亜衣もそれに納得したのか、いいないいなと羨んでいる。
こうなったら、本当にそうしてもらおうかなぁー……。
バイトをしていない私たちには親からのお小遣いが生命線だ。
それをするにも一応は学校側の許可を申請しなければいけない。
表向きにはそうなっているけど、申請していない生徒たちは多数いるという話。
役員を務めている私が無許可でしているのがバレた日にはどうなることやら。
その前にバイトをする時間が取れるかどうかだけど……今のところ必要なし、かな。
「そうだ! イイコト思いついたっ!」
急に目を輝かして、亜衣が私を見つめてきた。
聞かない方がいい気がする……。
「あたしとしたことが……今の今までなんで思いつかなかったんだろう」
「何言ってん――……」
「あいもん家、今誰もいないじゃん!! 泊まりでテスト勉強できるよぉーーー」
「えええぇーーー!?」
「わかんないことがあったら、すぐに聞けるし」
「ちょ、ちょっと……」
私の許可も得ていないのに、既にノリノリの亜衣。
今は非常にマズイんだけどっ!!
逆に両親がいた方が即OK出せれる!!
独り暮らしじゃなくて、同居人がいるんですけどー……。
しかも、バレてはいけない人物と!!
「ほ……ほら、家がチラかってんだよねーーー」
「そんなの気にしなーい」
とりあえず、よくありがちな断り方をしてみるけど、簡単に蹴られる。
「それに隣は笹木君ん家だし!」
「それとどういう関係が――……」
「いいよね!? 週末泊まりに行っても!?」
明らかに否定の答えを予想していないテンション。
断れる理由が見当たらなくて、こう言うしかなかった……。
「ぁ……あ、うん」

あーーー、ヤバイ、ヤバすぎて何も思い浮かばないっ!!
先生に何て言おう……。
友達が泊まりに来るから出てってくれって?
確かにあそこは私の家だし、そういう強気な態度してもおかしくはないけど……。
亜衣が来た場合、寝泊りするとこあるのかな?
「むむ……」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いやなんでもないっ」
「……そうか? ――……じゃ、気を取り直して。今日がここでレッスンするのも一段落ということで、小テストします」
「ええーーー」
放課後のいつものレッスンが始まっている。
亜衣はとりあえず家に帰して、それから連絡を取るからとなんとか説得をした。
ブーブーと文句を言っていたけど、そんなの関係なしっ!!
最初から挙動不審な私を尻目に、とんでもないことを言い出した。
最終日だし、当然といえば当然だけど。
「今から全教科。一時間もあれば、問題数少ないし全部出来るかな?早く終わればそれだけ早く帰れるってことで」
「本当!? 日が暮れる前には帰れるんだ!」
薄暗い中で歩いて帰ったりしてた時もあったし、いつもなら平気だけど今は一真いないし……。
「だけど、俺が思った点数じゃなかったら……」
「なかったら?」
「眠れぬ日々が続くってとこかな」
「ぇえ!?」
それってどういう意味……!?
――……。
そんな関係になるなんてまだ早すぎだと思うんですけど!?
でも、そりゃいつかは……って思うけど――……。
「コラーそこ、変なこと考えないー。徹夜でテスト勉強ってことだぞ?」
「そ、そんな変なことだなんて……」
「顔に出てました」
「そんなこと――……あるかも」
ない!って言い切りたかったけど……、私の妄想癖ぶりは今に始まったことではない。
ほわわんとあっちの世界に迷い込んでいたに違いなかった。
「ったく。こっちは真剣に考えてやってるというのに。ヤラシイなー藍本は」
「なっ……!? 先生が言い出したんですっ!!」
「俺が言ったことを勝手にいい方向に想像したのは藍本」
「くーーーっ……」
確かにそのとおりだった。
痛いところをつかれてぐうの音も出ない。
「――……じゃ、開始」
私の頭をポンポンと軽く叩きながら、先生は席を立つ。
顔をふと上げると、正面に立っていたらしい先生は私を観察していたようで苦笑していた。
青くなったり赤くなったりで、絶対おかしなコって思われてる……。
結局、落ち込みながら響崎先生お手製のテストを解いていくしかなかった。

何度も見直しをして、これ以上は無理だと判断して終了の白旗をあげる。
かかった時間は五十分弱。
少し自信ない答えもあるけど、そこそこの出来具合だと……思う。
「うーん。平均すると、七、八割ってとこかな」
「どうでしょうか……?」
先生の期待のいく数字だったのかな?
何か難しい顔しているから、残念!ってオチですかい!?
「……ま、よしとするか」
「ホント!? やったー!」
「他にもなーんか問題事、抱えてたみたいだし?」
「へっ……!?」
答案用紙から視線だけを外して私を見てきた。
思わぬ質問に変な声が出てしまった。
なんでだろう……まだ何も言ってないのに。
「あそこまで見事に難しい顔されてると誰でも気づくって」
「あ……そうですか……」
「で、何事? 俺に関係あったりする?」
「……思いっきり」
「適当に言ってみたのにビンゴか……」
「あの……ね。明日――……」
「明日?」
「明日、亜衣が泊まりに来るって言うんだよね……」
「そんなことだったか――……じゃなかったな」
先生もうっかりしていたのか、簡単に聞き流そうとしていたがそんな内容ではない。
今は一、二を争うトップシークレットなネタ。
同居しているのと付き合っているのと、どっちがより秘密?
――……。
どっちもなー……、バレたら大事だよね。
「訪ねてくるじゃなく、お泊りかー……。うーん……」
同じように唸りながら、先生も頭を悩ませる。
時間に追われているので、二人はなかなかいい案を出すことが出来なかった。
「とりあえず……帰るか」
先生はいろいろ考えているのか、私の返事も聞かずに背を向けて出て行った。
……私も家の片づけをしなきゃな。
いくら友達といえど、最低限のことはしないとね。
あと、先生の私物を隠さないといけないしっ!!
のんびりしてる場合じゃない!
ダッシュで帰宅だーーー!!