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いつもクラスのみんなが登校してくる時間より早めに学校に着くようにしている。
なのに、いつも私より早く来ている人。
高校生になってからというもの、一度たりともそれを譲る日はなかったと思う。
――ある意味、スゴイ。
下駄箱で靴を履き替えながら、いつも入れ替わっているのを確認してしまうのがクセになっていた。
まだ活気のない廊下を自分だけの足音が響き渡りながら、二年D組にたどり着いた。
「おっはようー」
「おはよう、藍本さん」
「守ちゃんはいつも早いねー」
「家……近いしな」
守ちゃんこと、守永裕之(もりなが ゆうすけ)は独特のオーラを醸し出す一匹狼的な存在。
だけど、困った時の守ちゃんと言われるほどクラスのみんなから頼りにされている。
頭もいいし、スポーツ万能、顔だってイケてるし、神様は一人にこんなにも多くのものを与えるなんて。
こんな人と一真はなぜがマブダチで……謎だ。
キャラは正反対なのに、よく一緒にいれるもんだ。
ないものねだりってやつなのかな。
男の友情ってよくわかんないや。
学校の帰り道にチラリと見える、ちょっとリッチなお家が守ちゃんの住んでいるところ。
一度、お宅拝見してみたいな。
「――だったら逆にギリギリに来るもんじゃない?」
「じゃあ、どうして藍本さんもこんな早くから?」
「そ、それは……」
質問返しをされてしまった。
それには答えたくないってことなのかな?
逆にこっちも正直なところ言いたくない。
早起きしすぎて時間を持て余してる、なんて……。
「あたしは――……ホラ、曲がりなりにも総代じゃん? 上にいるものが遅刻常習犯じゃカッコつかないだろうし」
「いい心がけしてんだな。だったら、相方の一真も引っ張ってくればいいのに」
「な……なんでよ?」
時間ギリギリに行動するのは苦手だから、嘘でもない。
一真との話になるとみんながそうなるように、彼もまたフッと笑う。
守ちゃんだけにはいじられたくないっ!
……と何故か思ってしまう。
きっと、冷やかすキャラに似合わないからだよ、うん。
「ま……そういう意味なら、片方だけが頑張っても無駄だと思うけどな」
「――ん?」
そっぽを向かれて呟かれたので、はっきりと聞き取れなかった。
それからはだんまりをされてしまったので、自分の席へとつくことにした。
一番前の列の窓側をキープしている守ちゃんは、自分のスペース分だけ窓を開けて朝のいい空気を浴びている。
私は後ろの方の席でそんな光景を眺めていた。
しばらくすると、他の生徒も登校し始め少しずつ学校がざわつき始める。
このクラスも何人か教室へと登校してくる。
――いつもと変わらない朝……のハズだったのに。
「藍本さん。今日の黒板……よく見たほうがいいと思うよ」
簡単に挨拶を交わしていると、遠くから守ちゃんが話を振ってきた。
言われたとおりに大きな黒板に目をやるけど……。
別に何も書かれていない黒板だと思うけど。
ちょいちょいと右のほうを指差されて、その方向――今日の日付と日直。
「に……日直ーーー!?」
突然の大声と同時に私は立ち上がる。
日直といえば、朝から一日が終わるまで誰からもこき使われる役目。
最初の仕事は、乱れた席をとりあえずは綺麗に並べること。
掃除の後は何もないはずなのに、時々席が蛇行している時がある。
並べた人が悪いのか、座った人が悪いのかは定かじゃない。
後ろから机の並びを一望しながら、気になる席を音を立てながら並べる。
んん……、ここは一真の席じゃない!!
見なくてもわかっちゃいるけど、もう一度日直の名前を確かめる。
日直の組み合わせはその時の席順。
ということは隣の一真であって……、ヤツめまだ登校してこないつもりかっ!?
朝っぱらから怒りに肩を震わせながら、ささっとそれを終わらした。
教卓に立ちまずまずなことを確認して今度は黒板。
短くなったチョークを何個か発見して、新しいのと交換――……。
「げげっ……」
チョークの在庫がある場所を探っていたけど、一番人気の白がなくなっていた。
こういった備品を置いている教室は少し遠くて、こういうチャンスには当たりたくないのが本音。
また誰かが登校してきたのか、またにぎやかになる。
――……。
「コラー! バ一真!! 今日は何だと思ってんのよ!?」
朝の挨拶もなくいつもの調子で登校してきた一真に雷を落とす。
ついでに短くなったチョークも投げ飛ばす。
一体何事かと思いながら、カバンで顔をガードする。
ああいう反応は素早い。
「朝っぱらから何だよ……。また携帯がどうのとかいうわけ?」
「あぁーーー! 携帯もまだじゃない!! ……いや、どうせ他のことでも行かなきゃならないんだからいいのか」
「……はぁ?」
独り言で納得している私の姿に疑問を抱いているらしい。
――バン!!
先生並みに黒板を叩くとようやく一真も気づいたようだった。
「携帯と日誌と……ついでにチョークも取りに行って!!」
「げー……、チョークもかよ」
「あと十分しかないよっ!?」
「へいへい」
「何よ、その返事!?」
教室から出る間際に私に向かってべっと舌を出して逃走した。
「朝からテンション高いねぇー……。昨夜も夜更かししてあたしは眠い」
「またパソコンとにらめっこ? 目悪くなるよ」
深々とため息をつきながら席へ戻ると、少し前に登校してきた亜衣はひじを突いて目を閉じている。
こちらのテンションが低いのは毎朝のことだ。
「二、三チャット部屋開いてたら、抜けるに抜けられなくなってさぁー……」
いつにもなく眠いのかそのまま眠ってしまう。
もうしばらくは時間あるし、そのままにしとくか。
本当、朝だけは苦手なんだよね。
時間が経てば、打って変わってテンション高い彼女になるんだけど。
――って、ことはもしかして授業中に寝てる?
――……。
あえてその謎は解かないことにしよう。