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中間テストまであと二週間をきった。
いつもなら、ここら辺りからテスト勉強しようかなって考え始めるのに。
しかーし、今回の藍本は違います!!
既に勉強地獄という沼に引きずり込まれて抜け出せない。
とてもとても辛い毎日。
――……なのかな?
隣には職業を教員とする響崎先生がいるし、時には先輩後輩に励まされ?なんとかここまでやってきたけど……。
――バンバンッ!!
「いい? ここはゴリ丸よ、赤ゴリ!!」
うつらうつらとしていた者が、思わず目覚めてしまうくらいの音で我に返る。
女の先生の割には結構ワイルド。
今は歴史の授業で、黒板にはびっしりといろんな事が書かれていた。
赤い字で書かれた部分には、今叩いた跡の手のひらがうっすら残っている。
ここテストに出るよーとは言わずに、ゴリ丸という単語で先生は印象付ける。
特に重要なのは赤ゴリと言うみたい。
最初はその仕草に中学校上がりの初々しいみんなはビックリしていた。
慣れというのは怖いもので、叩かれても心臓には耐性が出来るものだね。
よう印象付けと共に眠気と戦っている人たちを目覚めさせる好意でもあるわけだったみたい。
先生なりのパフォーマンスってとこ。
今日の私は違うことを考えたせいでビックリしたけど。
「赤ゴリっと……」
ノートに蛍光ペンで強調する。
使い終わって筆箱に戻していると、横からつつかれる。
「ちょっとペン貸してくれないか?」
「なんで?」
「今日、筆箱忘れてきたんだよ」
「シャーペン借りてきた人に借りればいいでしょ?」
既に書くものだけは借りていたのか机に散らばっていたのを確認する。
「お前、イロイロ持ってるだろ?」
「……そうだけどさ」
「早くしないと消されるだろ?」
「……ったく」
確かに色とりどりのペンの種類がこの中には入っていて、多少重い。
どれを渡そうかと考えていたけど、面倒くさいので筆箱ごと隣の席に置く。
手でお礼をしながら、ゴソゴソと中を探り始める。
男の割に几帳面な一真はカラフルにノートを飾っているようだった。
どっちが女のコなんだか……。
黙々とノートを書き取っているうちに、終了のチャイムが鳴り出した。
「じゃーここまで。ちゃんと書き写しとかないと、抜き打ちで提出させるよ?」
「マジでぇーーー」
「今日は挨拶なしね」
どうやら、チャイムがなったのであきらめていた人たちのブーイング。
先生のその一言で慌てて机にかじりついたのを目にしたためか、号令の挨拶もなしに教室を去っていった。
次の授業のために日直も遠慮しながらも少しずつ黒板を消していく。
十分しかない休憩時間も数人のわがまま生徒たちのおかげでゆっくり出来ない。
そのうちの一人が隣で必死にしている一真。
前の席の亜衣とまったりと話していると、どうやら終わったのか片付けていた。
「げっ! あと三分しか残ってねぇ!? 俺はウルトラマンかってーの」
デカイ独り言を言いながら、席を離れていった。
それにしても……ウルトラマン。
三分以内にこの席に戻らないと死ぬってか?
「笹木君、やっぱおもろいねぇー」
一真の後ろ姿を見送りながら、それにウケたらしい亜衣は肩を震わせて笑っている。
休憩時間の三分なんてあっというもので、すぐに終わりを告げるチャイムが鳴った。
少し遅れて席に着いた一真は、ハッとして借りていたものを手にした。
「ウルトラマンは倒れてないとダメじゃん」
「……あ? あーさっきの。俺様には予備バッテリーというものがついてるから平気」
「都合のいいヤツ」
「コレ、サンキュ。こういうの見ればお前も女だって思えるもんだな」
「――もう貸さない」
「ウソウソ。すっげー助かりました」
偉い人に献上するかのように私の筆箱は戻ってきた。
早くからお願いしいてれば、休憩時間を削ることもなかっただろうに……。
私も同じことをしなければいけないから、ややこしくなるかもしれなかったけど。
あのペンが使いたいのにっ!とか。
……ってことは、私が全て終わってからの方が気兼ねなく貸し借りできるってことか。
そこまで考えて――……?
さっきまで騒がしかった生徒たちが静かになったので、先生が到着したんだと気づかされた。
最後の授業だけあって、気も緩め始める昼下がり。
よりにもよって苦手な数学。
あくびを噛み殺していると、ふと先生と目が合ってしまった。
「いい度胸してんじゃないか、藍本。この問題解いてみろ」
「えーーー」
バレないようにしていたのに、何故わかる!?
苦手なことは周知のとおり、過去にも笑いの神様が降りてくること数回。
渋々、前に出てその問題を見上げる。
――……。
授業も後半になって、前の復習じゃあるまいし……。
なんで……?
思っていることがつい身体に出て、首をかしげてしまう。
「藍本ー。大丈夫かっ?」
後ろから都留が揶揄(やゆ)をしてくる。
いつもならここで受け答えをしているけど、今回はその余裕がない。
わからないのではなくて、全くその逆だから。
……なんでわかるんだろう。
――……そっか!!
いつの間にか、レッスン計画で予習をしていたんだ!
私はそれに気づかないまま、勉強をしていたんだね。
「はぁーーーーー……」
「ギブアップ?」
思わず深いため息に白いタオルをちらつかされる。
わからなくてそうしたと思い込む周囲の人々。
――ゴメン、洸くん。
こんなおバカな藍本で申し訳ない!!
チョークを手にとって、先日のレッスンを思い出しながら数式を解いていく。
しかも、略さず丁寧に。
私にしたら有り得ないことだった。
「できました」
「お……じゃ、席に戻れ」
私の解いたものを確認していると、先生は眉間に皺がよった。
たぶん……正解だと思うんだけど。
「……完璧だ。藍本、どうしたんだ? 悪いモノでも食ったのか?」
「はぁ!?」
「いつもなら、細かいミスでみんなを笑わせるお前が……」
確かに、途中から勝手に数字が変わってたりとかしてたけどっ!!
「たまにはこういう時もありますっ!!」
少し自慢げに言いながら、白く汚れた手を払い落とす。
そんなに私はバカキャラなのかっ!?
「あいも、すごーい! あたしわかんなかったよ」
「次。その前の新山」
「えぇーーー」
亜衣までもが目を輝かせてきたのは一瞬で、次の問題を指名され半泣きになる
――……。
一応、成績は上の下あたりなんですけど?
みんなの反応が悲しくて、哀愁を漂わせてしまう。
「これも『レッスン』のおかげだな」
「……みたいだね」
「復習どころか予習までしてたってトコだな」
「そう……みたい」
「当てられて気づいたのも嬉しいやら悲しいやら……。先生カワイソウ」
「反省してますっ」
本当に感謝してます。
藍本、これから変身したいと思います!