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とうとう一ヶ月の予定表に定期考査が浮かび上がってきた。
さすがにここまで近づいてくると、まだまだだからっていう言い訳は通用しなくなくなるわけであります。
響崎先生の時間の許す限り、尚且つ、生徒会メンバーのかつてない私へのご協力のおかげで、なるべく不自然にはならないように取計らわれた。
あんな事を言っていた割には、学校という環境からなのか、さほど怪しい雰囲気にはないみたいで助かった。
それもそのはず、いつ・誰が・どのようにして現れるかがわからないから――……と私なりの解釈をしてみる。
廊下から足音が聞こえてくると、少し身構えてるのにも関わらず、そのまま通り過ぎてほっとする。
時には油断していると、いきなりここのドアが開けらて私たちは驚く。
「お疲れー! 葛葉ちゃん、『脳トレ』は進んでるかい??」
「せめて、十代は保ってもらわないとね」
脳トレだってっ!?
先輩たちが心配してか(?)時々こうやって顔を出しにやってくる。
――……だけど!!
その前に、私の脳はまだそこまで老化してないってばっ!?
少し疑問系があるのが情けない……。
時々、頭の回転が鈍い時があるのは自分自身感じるのはあるっ!
おいおい、自画自賛するなってーの!
「脳トレか……。今度、実際にやらせてみようか??」
「ぜひともっ! 藍本の脳内年齢を聞いてみたいなー」
「誰か『あのゲーム』持ってるのか??」
まさかまさかで、先生までその話にノリ出して、そんなことを言い出した。
その反応に、千夏先輩もそうこなくっちゃ!と言わんばかりに盛り上がってくる。
あのゲームといえば、今売れに売れてる例の携帯ゲームのことだと思う。
なかなか手に入らないって話じゃない?
「んー、ちょっと聞いてみないとわかんないですね。――……一真君が持ってそうな気もするけど」
「確かに」
思い当たる人を探せば、超身近なところにいたりするもんだ、とみんな納得。
自分で公言してるように、あいつはゲームが好きでよく男友達とその話題で盛り上がっているのを見かける。
一つが八千とかするやつがあるらしいのに、よく買うもんだ。
そんなにお小遣いもらってんのぉー?
と、その前に――。
「あたしはまだピチピチの十六歳ですよっ!? 今年はセブンティーン!! まだ老化現象は始まってませんってば!!第一アレは、『大人のため』のじゃないですかっ!!それに、一真がうまい具合に持ってるわけがないっ!!!」
はぁーーー……。
勢いよく話したので深く深呼吸をすると、みんなが目を丸くして私を見つめている。
少しの間、沈黙が訪れる。
「じゃ、一真が持ってたら、即実行だよ?」
梶島先輩がさわやかスマイルで恐ろしいことを口にした。
使い方間違ってるってっ!!
「あれだけタンカ切ったんなら、自信あるのよねぇ??」
「うっ……」
「え、違うのー??」
いつものごとく、ニヤリと意地悪そうに笑う千夏先輩にいじられる。
男性軍は遠巻きに女のやり取りを傍観するらしく、口を挟んでこない。
響崎先生をチラリと見るけど、そこには洸くんではない彼がそこにいた。
みんなが悪魔に見えるーーーっ!!
「やればいいんでしょ、やればっ!!」
「あらそう」
この答えがどうやら予想外だったのか、少し驚いた表情を見せる千夏先輩だった。
でも、こう言ったのには他に理由があって。
「ただし! アレをするのは、一真が持ってたらですよ!! 他の人はノーサンキュー!!」
「じゃ、それで決まりね?」
「――……いいですよ」
売り言葉に買い言葉。
まさしくこれが当てはまる。
言い出すと後には引けないこの性格――絶対損だわぁ。
「次回はあのゲームを持参して、俺たちは参上するんで。今日はこの辺りで邪魔者は退散することに」
「先輩! まだ決まった訳じゃないでしょ!?」
「――あ。そうだったね」
「ま、どっちでもいいじゃないの。あたしたちはこれで。バイバイー」
早とちりな梶島先輩に突っ込んだのに、千夏先輩の切り返しで二人はこの場を去っていった。
その際に一瞬窺えたあの表情は何なんだ!?
先輩という存在は、やはりどこの世界でも恐ろしいもんで、勝てる気が全くしない。
いつか、千夏先輩のように男を手のひらでコロコロと――……!!
「……手のひら見て何を考えてるんだい?」
「――……っ」
「い……いや。なんでもないよっ」
「ふーん」
いつの間にか手で転がしているのを想像していたら、見つめていたのを不思議に思ったらしい。
さほど気に留めなかったのか、深く追求されずに終わってよかった。
茶化すだけ茶化して気が済んだらさっさと帰るかって、ニヤリと笑い私を置いて下校して行くなんて、なんてタチが悪いのさっ!!
あの二人の悪魔の微笑みがムカツクーーー!!
帰ってからなにしようかなーとかどこそこに買い物行こうっとか、私がやりたいことをわざとほのめかしたりしてさ!
だったら、勉強しなよ、勉強ーっ!!
――……って、面と向かって言ってやりたいけど、無理に決まってる。
中断されていた勉強もまたスタートして、教科書とノートのにらめっこが始まる。

今日は珍しく朝から雨が降り続けている。
湿っぽい空気が校舎を包み込む。
廊下を歩いていると、上履きの滑りが悪くなって音がやけに響き渡る。
移動授業で外を歩かないといけないときなんて最悪だな。
休憩時間で机に座ったまま、亜衣とダラダラと話をしていると勢いよく教室の後ろのドアが開いたので、気になる人たちが振り向いた。
「時間変更で次の時間は音楽になったから、移動してくださいー」
今日の日直が情報を仕入れてきてみんなに伝える。
「えーーー」
「文句は先生に言ってくれ」
案の定、大ブーイング。
ここの教室から音楽室は一番遠くて、しかも、渡り廊下を歩かなくてはいけない。
今日の日課じゃ、移動授業はなくて安心していたのにこの仕打ち。
文句をたれながら仕方がない、と言わんばかりにおもむろに立ち上がり準備をし始める。
教科書がないんじゃって?
そんなことは無問題!
置きっぱなしの教科書たちはいつもロッカーでスタンバってるのを先生たちも承知済み。
油断していると『検査』が入って、罰があるからいつもとは限らないけど。
残り少なくなっていた休憩時間に急いで行く人、そっちの都合なんだから少々遅れてもっていう考えの人。
私はどっちかというと中間の人間。
早くもなく遅くもなく。
「あ、忘れ物したっ! 先に行ってていいよー!」
急に思い出したのか、亜衣が返事も待たずにUターンして走り出す。
「早くおいでよーっ! ――……きゃっ」
振り返りながらそう叫んでいると、誰かにぶつかってしまう。
その彼女も移動授業だったのか、その拍子に筆箱が落ちていたのでそれを拾い上げる。
「ごめんなさい」
「……いいえ」
会ったことのあるような顔だったので、たぶん同学年なんだと思う。
少しだけ微笑んで、私が差し出した筆箱を受け取ると、そのまま素通りをされる。
連れの友達が私を一瞥しながら、その人の後を追っていく。
「――……」
職業柄(?)そういう視線には慣れているけど――愛想悪いなぁ。
――……はっ!時間がなかったんだ。
また、廊下を走り出して外に出ると、少し気温が低くて背筋に悪寒が走った。
身震いじゃなく背筋に悪寒。
――まさしくその言葉が相応しかった。