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よく私は一真の部屋に乱入する。
お邪魔じゃなく、乱入という単語を使うのはその意味のとおりだから。
本人の意思に関係なく、いきなり現れて部屋に入れろと騒ぐのだ。
一真にとってはかなり迷惑な客だろうけど、幼馴染の特権ということで。
今夜もベランダを利用して、お隣さんの家へとやってきた。
冬の時期は気温が寒いので頻度は落ちるものの、春になって暖かくなってきたのでまたお邪魔する回数も増えてきそう。
最初の頃は窓の鍵が閉まっていたけど、今となっては私のためなのか解放されている。
カーテンが開いていたので中を伺いながら、すんなりと侵入をする。
「お、葛葉か」
誰かを確認するとすぐにテレビに向き直る。
というか、ここから私以外の人が現れることはないんだろうけど。
今夜もせっせとゲームの攻略をしているようだった。
「いいわねー。あんたは気軽にゲームができて」
「何、こってりとしぼられてんのか?」
「……そうでもないけど」
私はいつもの定位置にあるクッションの上にしゃがみこむ。
そこからはテレビの画面も、そして自分の家の様子も見れるベストポジション。
「ふーん……」
ゲームに集中したいのか、一真はそこで会話を終わらせる。
「勉強って単語がねぇ……」
「生徒の代表が勉強嫌いなんです!とか笑えるな」
「何とでも言って」
一真と話しながら、時々家の様子も伺う。
「別になー、お前も頭悪いっていう訳じゃないと思うけど、いかんせんキャラがなー」
「はいはい。このガサツさがいけないっつーのね」
「というか、俺の前が一番ヒドイよな。せめて、いつも先輩たちといるくらいに抑えてもらえると助かるんだけど」
「なんで、一真に気を遣わなきゃならないのよ?」
「まぁ、今更猫かぶられても気持ち悪いんだけど」
「矛盾してるだけど――……!!」
「だから――……あれ??」
一真が私がいた方向に顔を向けたけど、すでに私はそこにはいない。
「もう帰るのか?」
「階段の電気がついたのよ。洸くんがあがってきてる」
「だから、いつまでも猫かぶってたらしんどいんじゃないかってコト」
私に対しての助言らしい台詞を後ろで聞きながら、ベランダへと向かった。
なるべく音を立てないように、かつ迅速に自分の部屋へと戻る。
両親の寝室は一階にあるから、上にくるのは用事があるときくらい。
と思って油断していたらなんのその!!
洸くんは二階のゲストルームで寝起きをし、絶対的に私の部屋に来ておやすみの挨拶をしに来る。
最初は親に言われてしてたのかなと思ってたけど、これが初日からずっと続く。
さすがに飲みの日とかまでは律儀にしないけど。
毎朝毎晩、普通課のアイドルの先生の拝めるなんて、私って贅沢っ!!
世間様に知られた日には、きっと呪われるわぁっ!!
「くーずはっ」
「――っ!!」
妄想にふけっていると、いきなり声をかけられて思わず後ずさる。
「部屋の中にいないから、どこに行ったのかと思った」
「え……?」
あたりを見渡せば、まだそこはベランダであって、部屋まで戻っていなかった。
と、とりあえず、適当な理由――……。
「ホラ、今夜は天気がよかったからこんなに星空が」
私の言葉と同時に彼は夜空を見上げる。
一通り観察した後、私に向き直った。
「本当だな」
そう言うと、私に一歩近づいてきた。
その場凌ぎの嘘、見抜かれた……?
動揺が顔に出ないように、私は必死に平然を装う。
こういうところで日頃の成果を見せないとね。
――使い方間違ってるけど。
「へぇ……。葛葉にこういう趣味があるとはね、以外」
「……趣味?」
にじり寄られながらも、愛想笑いを取り繕う。
「星を眺めるコト」
「そ、そうそう。なんか癒されるでしょー??」
「俺はくぅで癒されるけど?」
そんなことを言われて、瞬時に顔が赤くなってしまう。
えらくサラッと簡単にそんなことを言える人だね、この人はっ!
もしや言い慣れてるとか??
きっと何人もの人にそうやって言ってきてるんだよ、じゃなきゃこんなクサイ台詞誰が……。
「この言葉、知ってるか? 目は口ほどに物を言う」
「――……」
「今の葛葉の目つきは、かなり疑わしい目で俺を見てる。この人、こんなことを平気で言ってるよって」
「そんなコト――……」
「くぅだから言えるんだ。――嘘だと思うか?」
「いや――あのっ……」
ベランダの隅に追いやられ、逃げ場を失う。
ちらりと洸くんを見るけど、絶対あれは楽しんでる顔だっ!!
ゴツン!とおでこを当てられて、私は視線をそらすことが出来なくなる。
「くーぅ」
たったその一言で、私の鼓動が高鳴る。
せこい!ずるい!反則っ!!
この至近距離でその声で甘く囁かれて、誰だってドキドキしちゃうよ。
無言で私に催促をしてくる。
少し躊躇した後に、軽く瞳を閉じた。
すると、数秒後にキスが落ちてくる。
お風呂上りなのか、いつもより温かい。
それとも、外にいた私の身体が冷えてるのか……――外!?
「――っ!! 洸くん!! 一真が――……!?」
慌てて唇を離し、一真の部屋に顔を向ける。
そこにいるはずの一真の部屋は――暗くなっていた。
「一真君ならさっきお風呂に入りに言ったみたいだよ」
「そっか……よかった」
「俺がそんなヘマすると思うか?」
「確信犯」
「何か言ったかなー?」
私のぼやきは確実に聞こえてたらしく、洸くんの両手で顔をサンドイッチされる。
「星空もいいけど、そろそろ部屋に入ろう。身体が冷えてる」
洸くんにそう促されて、今宵の逃走劇はここで終了したのだった。