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「ふーーーん……」
怖い……そのタメが怖いんですけどーーー!!
半ば無理矢理奪い取られた私の成績表を洸くんは無言で眺めていた。
明らかに、今までの中でダントツに悪い成績になった。
ほら、アレやコレやとイロイロ今までにないことが起きすぎて、テストどころじゃなくて……。
きっと、そんな言い訳なんて通用しないだろうし。
うわーん……。
「ふぅ……」
軽いため息をついて、成績表から目を離した。
何を言われるかビクビクしながら、洸くんを見つめ返す。
「悪くはない成績なんだけどね……。前にも言ったとおり、仮にも総代なんだから、それなりのメンツも保たないといけないと思う」
「――はい」
「みんなにも公言したように、レッスン計画開始だからヨロシク」
顔は微笑んでるのに、言ってることは真逆なことを言う彼が恨めしい……。
私は勉強嫌いです。
なんて言っても、きっと笑顔の圧力で負けてしまうんだ。
どうせ私は頭じゃなくて、キャラで選ばれてるんですよーだ!
えーい、成績がなんなんだ!!

怒涛の春のイベントも落ち着きを見せ始めた頃。
私にとっては、一休憩する時期なのに――。
生徒会室で、何がたのしくて教科書たちとにらめっこ!?
「なんでだっ!!」
生徒会メンバーのお手製の張り紙が眼に入る。
『一に勉強、二に勉強。三四がなくて、五に勉強』
どっから持ってきたのか、習字で達筆に書かれていた。
……誰の字よ?
「テストが近いとかいうならわかるけどさぁー。一ヶ月以上も先の話をされても、やる気が……」
生徒会室に誰もいないので、文句を言いながら教科書を眺めていた。
よくよく考えたら、自らの意思でここにいることがすごい。
逃走するのも一つの手だとは思うけど――……。
この部屋にきて、かれこれ三十分たっていた。
「――……」
よし!と、一人で頷いた。
机に広げていたものをカバンに入れ、ドアに近づいた。
そろーっと開けて、廊下の左右の確認。
グットなタイミングで誰も見当たらなかった。
「チャーンス!!」
素早く部屋を出て、鍵を閉めようとした。
「わー! 急いでるのにっ!!」
こういう時に限って、一発で鍵穴に差し込めない。
わたわたとしてると隣に気配を感じて、その人を恐る恐ると見上げた。
極上のスマイル。
きっと関係ない人が見たら、キャーって盛り上がっちゃうんだろうな。
――だけど、今の私にとっては全身が冷や汗をかく。
「今、来たばっかり??」
「えっ、あ……。そうです。鍵を閉めようとしてただなんて、滅相もない!!」
「閉めてどこに行こうとしてたのかなー??」
「……」
とりあえず、廊下で立ち話もなんだったので、ドアを開けて中に入る。
だけど、さっきまでの考えが頭をよぎり、入口付近で立ち止まった。
先生は向かい側にある窓を開け、少しこもった空気を入れ替える。
「なかなか来ないから帰ろうかなって……」
そんな彼の背中に向けてつぶやく。
窓の下に生徒がいたのか、手を振って挨拶をしている。
「もう少し早く来る予定だったんだけどなぁ……。生徒たちに捕まってしまってね」
「ま、そのおかげで時間潰れたからいいけどっ」
「あのなぁ……」
呆れ顔な感じでそこら辺にある椅子に腰をかける。
「俺も鬼じゃないんだから、こんな時期からみっちり勉強なんてさせないさ」
「それならそうと早く言ってくれればいいのにぃ」
その言葉を聞いた現金な私は、そそくさと先生の隣の席に座る。
「いいねぇー。その素直さ」
「でしょー? よく言われますっ」
「でも、相手の言葉の裏を読まないと――」
いきなりグイッと引き寄せられ、顔が近づいてくる。
え、え、え――……!?
こんなところで!?!?
ギュッと目を瞑ったのに、一向に何も起こらない。
――……。
恐る恐る目を開けると、キス寸前で止めていた。
「こんなコトされるよ」
そう言った後に、軽くキスをされてしまった。
いつ誰がくるかわからないのに。
「学校で先生と生徒がこんなことしてたら、不謹慎もこの上ないな。――俺がしたいのは、どっちだと思う??」
「――……」
私の本心を探るかの如く、伺ってくる。
――どっちだろう。
先生が勉強を教えてくれるに、わざわざ学校でする意義とは……?
不謹慎なコトをしてたのしんでる――?
なんて考えていると、鼻をつままれ思考を中断させられる。
「本当のコトは、教えません」
「自分から言ってきたくせに」
「あははは」

その後、少しだけ勉強の話をして、いつの間にか夕暮れ時になっていた。
部活で運動場が賑わっていたのも、終わりに近づいてきた。
「そろそろ終わりにするか」
「やった」
先生は腕時計で時間を確認する。
部屋にも時計がかかっているけど、腕時計を身につけている人には用無しみたい。
携帯を持ち始めてから、時間の確認はそれでしてしまう。
そして、遅刻しようが絶対に取りに帰ります。
それぐらい、携帯依存症。
家にいても携帯を手放さない姿を見て、先生も苦笑気味だった。
「――でも、薄暗くなってきたし。一人で大丈夫か?」
「こんなのよくあるコトだし、大丈夫だよ」
「でも、それは一真君あっての話だろ。その彼はいないんだぞ」
「あ……そっか」
「ったく。言わなきゃ、気付かずそのまま帰るつもりだったのか」
「あはは」
生徒会室にいるせいで、いつものクセで一真がいるということを勘違いしてしまった。
そっか、今は二人きりなんだよね。
「あと――……一時間くらい待ってもらえるなら、一緒に帰れるけど?」
「本当!?」
地道に歩いて二十分かけて帰るか、一時間待つか。
「待ってるのか?」
「……うん」
「じゃ、後でな」
その返事に先生は笑顔を返して、この部屋を出て行った。
―――彼の、一番好きなところ。
いつからか、この笑顔を見ると安心するようになっていた。
もちろん、意地悪な笑顔の時もあるけど。
笑った時に、目尻にシワができるのがチャームポイント。
きっと、彼を好きな人なら気付いている。
だけど。
今は、私の――……。