2-1



二番目の最重要機密機構。
『学校の先生と同棲してる上、付き合っています』
こんな展開ってあるんでしょうか。
いや、あってはならないと思うんですけど。
『先生と生徒』。
坂口先生を眺めてるだけで十分満たされてたんだけどなぁ。
話してるだけで、癒されるっていうか。
恋愛対象に入ってませんでしたよ。
ただ、好きになった人が教師でした……ということ??
これが俗に言う『禁断の恋』ですかぁーー!?
まさか、この私がこんなことになるなんて……。
これだけ学校のために、身を粉にして働いている私が学校に秘密事を抱えるなんて!!
誰かに言ってはならないことに関わってしまうと、予想外に神経を使ってしまう。
関係ないように話せばいいのだけど、洸くんの別の顔を知っている身としては……。
「はぁーーー」
「なんだもう疲れたのか?」
ただ今、新入部員争奪戦の食券のニセモノを防ぐために、生徒会専用のハンコを押して、それらをまとめている。
生徒会室で一真と二人きりで仕事をしている私はついつい気が緩んでしまう。
「お前はいいじゃないか。そうやって、ペッタンペッタンとハンコ押してりゃいいんだから。こっちはそれを数を数えてまとめてるんだぞ」
「あ。違う違う。――先生のコト」
「あ、そ。それにしては、幸せそうなため息に聞こえなかったけど?」
そろそろ終わりに近いので、互いに手を休めて休憩する。
「なんかねぇ……」
回転椅子に座っている私は、机を押し出すとクルクル回る。
やがて、勢いがなくなって椅子は止まる。
「今の状況に甘んじてるだけなのかなって」
「そうか? 別にいいんじゃねーの?」
「なんか流されてるだけのような気がするんだけど……」
珍しく弱気な私を見て、驚いている様子。
私だって、悩みの一つくらいあってもいいんじゃない?
「葛葉の両親がいなくなったのも”偶然”」
「洸さんが葛葉の家に来たのも”偶然”」
「そして、洸さんが葛葉に惚れたのも”偶然”」
「全部の偶然が葛葉に与えられた状況なんだから、楽しんでもいいと思うけど?」
「だって……」
「学校に対して申し訳ないってか? お前真面目すぎんだよ」
何か最近は、よく一真に説教をされてる気がする。
前は私のほうが怒っていた様な気がするんだけど……。
「そんなことを悩むより、洸さんのこと気にしたほうがいいと思うけど?」
「え?」
「ほら、受け持っている生徒とかアタックしそうじゃん。先生ー、よかったらコレ食べてくださいっとか」
最後のほうは、ちょっと声色を変えて身振り付きで説明する。
「先生、ここがちょっとわからないんですけど、とか?」
「そうそう、誰もいなくなった教室で二人きりになってさ」
「それはダメっ!!」
ちょっとそれを想像してみたけど、無性にムカついた。
「そういうの聞いてねぇの?」
「――そういえば」
「それに、渡辺先生のことも」
「……」
そうだった、渡辺先生とのこと忘れてた。
下級生より断然気になる!!
なんか雰囲気よさ気なんだもんなぁ……。
美男・美女って感じで。
しかも、隣の席っていうのが痛い、痛すぎる。
受け持ったクラスが隣同士だから、必然的にデスクも隣になってしまう。
毎朝見ないようにはしてるものの、やっぱり気になって見てみると、何かと話したりしてるし。
この前なんか、コーヒーを入れてあげてたもんな……。
私が入れるのに!!って心の中で叫んでたけど。
あぁ、なんでこんな気持ちになっちゃうんだろ。
最初は、渡辺先生のこと好きだったのになぁ。

その晩、洸くんと二人で食器を片付けている時に、タイミングを見計らって聞いてみる。
「洸くんのクラスはどんな雰囲気?」
「そうだなぁ……。そんな悪いコもいなさ気だし、いいクラスだと思うよ。ま、葛葉のクラスにいた盛り上げ役はどこにでもいるけどな」
テストの時を思い出して、私は遠い目をする。
「ホント、つるとカメは……」
「なにそれ」
「やかましい男子が都留(つる)って言って、それに乗じてたのが亀吉(かめよし)っていう女の子。つるカメコンビと名づけられてる」
「おもしろいな、それ」
最後のお皿を食器棚にしまうと、お茶を入れてくつろぐ。
TVをつけて、ソファーに座る。
「かわいいコとか、いる?」
やっとの思いで言ったもの、思いっきり直球勝負になってしまった。
洸くんは黙って、手にしていたものを置く。
「くぅ。こっちおいで」
洸くんは最近こうやって私のことを呼ぶ。
こんな呼び方をされたのは、初めてで、ちょっと照れくさくて、それでもってちょっと嬉しい。
私もテーブルに置いて、洸くんの指示するところ――つまり、彼の膝の上になるんだけど。
「焼きもちしてくれるんだ」
「え?」
「思いっきり今のセリフは焼きもち」
「焼きもち――? あぁ!!」
も、もしかして。
「前に洸くんと一真が言ってたの、こういう意味だったの!?」
「今頃気付いた?」
「――……」
「もっとも、一真君はすぐにわかったみたいだけど? 俺の牽制球が」
「牽制球?」
「いーの」
洸くんは私を抱きしめながらも、肩を震わせて笑っている。
今頃気付く私も私。
二人の会話の中の『もち』は、頭の中では普通に漢字に変換されて、『餅』以外出てこなかったんだもん。
ここまで笑う洸くんもヒドイ。
それが伝わったのか、やっと笑うのを止める。
「ゴメン。笑いすぎた」
「ホント、笑いすぎです」
「そんなくぅもかわいくてさ」
ドキッとする。
洸くんの声でかわいいって言われると、一段と心が飛び跳ねる。
その声も好き。
「くーぅ」
私を呼ぶその声が一番好き。
そうやって呼んだ後は、触れるようなキスをしてくる。
唇が離れた後、見つめあう。
「もっとしていい?」
疑問系で言っているのにも関わらず、私の答えを聞かずにキスをしてきた。
いつもと違うキス。
深いキスをされ、苦しくなった私は息をしようと軽く口を開けた途端、洸くんの舌が進入してきた。
成すすべもないまま、洸くんの好きなようにキスをされ、私はカチンコチンに固まった。
やっと二人の顔が離れた時、洸くんの唇はやらしくてかっていた。
ということは、私も……
「これが恋人同士がするキス。早く慣れてネ」
そう言うと、洸くんは軽くベッと舌を出した。
「なに? もっとしていいの?」
軽く放心している私に更に追い討ちを掛けようとする。
「きょ、今日はコレで十分であります!」
「なーんだ、残念」
洸くんお得意のニヤニヤ攻撃。
彼の上から飛び降りようとするが、引き止められる。
「くぅが心配するようなことはないから、大丈夫だよ」
「ホントに?」
「くぅ一筋ですから」
「……」
照れて、答えが返せない。
「まだ、クンはのけてくれないの?」
耳元で囁かれる。
「まだダメです!」
「あーぁ」
すると、パッと掴まれていた腕が離れたので、自分の部屋に戻った。
ベットに倒れこむと、ついさっきのことを思い出す。
心臓バクついてます。
洸くんと一緒にいると、心臓もちません。
寿命が縮まりそう……。
世の中のカップルたちはあんなことをいつもしてるんだよね……。
てか、それ以上……。
「きゃーーー」
一人でベットの上でジタバタする私は、今頃になってふと思い出した。
一番肝心な、渡辺先生とのことを聞きそびれた――……。