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新任の先生たちがここにやってきてからの初めての週末の金曜日。
歓迎会をするみたいで、帰るのが遅くなるって連絡がきた。
居酒屋とかでお酒とかおいしいものとかを食べてるんだろうなぁ……。
大人って羨ましい。
それに比べ、私はインスタントラーメンを片手に、TVを見ている。
両親がここからいなくなって、初めての一人の夜。
いつ帰ってくるかわからない人を待つのってつらいかも。
ご飯を食べ終えて、暇つぶしに一真の部屋にでも乗り込みに行こうと二階へ昇る。
ベランダから覗いてみると、部屋の電気は付いてたものの、大きな声で携帯で誰かと話していた。
「暇なのは私だけか……」
窓を閉め自分の部屋に戻り、仕方なく前読んだ漫画本でも読もう。
「……」
久しぶりに読む漫画本は次の話が気になって、次々と制覇していき最終巻まで読み終えてしまった。
「お風呂にでも入ろっかな」
一人なのに湯船を張るのはもったいないけど、これも長風呂にするため。
たっぷりと半身浴をした後、髪もおろしてラフな格好に着替える。
とうとう深夜を過ぎた。
帰ってくる気配もないので、寝ようかどうか考え始める。
でも、父みたいに酔っ払って帰ってきて玄関先で寝てもらっても困るし……。
母と二人で必死にソファーまで運んだりした記憶がある。
もう少しだけ待っておこうかな。

パタン!
車のドアを閉める音に目が覚める。
いつの間にか寝てしまったらしく、電気もTVもつけっぱなしだった。
タクシーででも使って帰ってきたのかな??
迎えに行こうと、玄関にある自分用のサンダルを履いて外に出る。
「おかえ……り??」
――……。
しまったあぁ!!このパターンを予想してなかった!!
「あ……こんばんわ。――……」
顔を背けてこんばんわと言う私を、洸くんを支えている人は不審そうに見ている。
家の明かりしかない薄暗い玄関先で、あれ?あれ?と言われながら顔を見ようと必死である。
「――まさか、藍本か??」
その名を呼ばれたので、覚悟を決めてその人――坂口先生と対面する。
坂口先生は商業科が担当なものの、私が生徒会役員からか顔は知っていたみたい。
「そうです。藍本です」
「でも、ここ藍本の家だよなぁ……?」
表札を見て確かめる坂口先生。
その横では、酔っ払って出来上がった洸くんがムニャムニャと何かを言っている。
「いろいろと事情がありましてーーー……」
「ふーん……。どうしようかなぁ??」
「坂口先生、カンベンしてくださいよぉ。こっちも差し迫った事情があったんですから――ね??」
機嫌を伺おうとやんわりと訴える。
私が必死だったのが伝わったのか、軽くため息をつく。
「冗談だよ。これを上に報告したところで、俺に何の得があるんだい??」
「そうですよねっ」
「まぁ、コレは改めて、彼に聞くことにするから。今回は主役だったから、かなり飲まされたんだよ」
よいしょと、抱えなおす坂口先生の後ろで止まっていた車が目に入る。
チラリと盗み見ると、運転手が女の人なのがわかる。
「彼女さんですか??」
「そ」
助手席の窓が全開に開いていたので、そこから私は声をかける。
「すみません、わざわざありがとうございました。こんな時間にご迷惑おかけしました」
「いいえ。彼と同じ方向だったから、気にしなくていいですよ」
にっこりと微笑まれ、ふと疑問に思った。
この人、見たことがある……!?
さらさらストレートでかわいくて、すごく男受けしそうな――……。
「おーい。そろそろ、家の中に入れてくれ」
坂口先生も酔っているので、そろそろ体力の限界が来たのか催促される。
「すみません!」
私は慌てて、中途半端に開けっ放しだった門扉を開けて、家の中へと案内をする。
「どこまで運ぼうか??」
「いえいえ、ここで大丈夫ですよ。これ以上迷惑はかけれませんから」
そうか?と言いながら、洸くんを玄関先に座らせ壁にもたれかけさせる。
坂口先生はぽやーっとしながら、家の中を見上げている。
「なんか飲み物持ってきますね」
確か冷蔵庫にペットボトルのお茶があったはず。
洸くんは、いまだに半分寝たまま。
持ち運びサイズの冷えたお茶を差し出すと坂口先生はゴクゴクと飲みだす。
「サンキュ。ちょうど、のどが渇いてかたら助かった」
「先生の彼女って――あの人ですよね?? 見覚えが……」
「ん? なんだ、藍本知ってるのか?」
「偶然見つけちゃったんですよ」
「あー、そうか、アレか。内緒だぞ」
アレというのは、藤波学園の新聞部が隔週発行している会報のことだった。
過去の分を整理しているときにたまたま目に入ってんだけど……。
ふたを閉めたペットボトルを片手に人差し指を自分の唇に当てて、しーっとする。
私が何を見たかは思い当たる節があるらしい。
「ま、もう関係ないといえば関係ないんだけどな」
「――ですよね??」
「一応な。これで、互いにおあいこだな」
「はは……」
「じゃ、響崎をよろしく頼むな。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
坂口先生はまるで酔っていないかのように、確かな足取りで去って行った。
さて、これからどうしよう……。
さっきは思わず、遠慮して断ってしまったものの、私一人でこの人を運べるわけないし。
ふと、リビングに置きっぱなしだった携帯を取りに行くけど、こんな時間だし……と悩む。
とりあえず、本人を起こそうかな。
また、玄関先に戻り壁に寄りかかったままの洸くんに呼びかける。
「洸くん?? 家に着いたよ。起きて」
軽く揺さぶるけど、うーーんと言うだけで起きる気配なし。
「こーうくーん!! 起きろーーー!!!」
「ん……葛葉?」
耳元で叫んだのが功を奏したのか、私のことに気が付く。
「もう家だよ。だから、ベットに行かないと」
「も……俺ここでいいや……」
そういうと、洸くんは私に寄りかかってきてそれを受け止め切れなかった私たちは床に寝転んだ。
その勢いで床に頭をぶつけたので思わず声を上げてしまう。
「いったーい!!」
この状況もどうかしてると思うんですけどぉ!?
傍から見れば完璧に押し倒されてる状態。
洸くんは、お酒とタバコ臭いし。
うわーん、どうしよう。
「んー? 頭打ったのか、よしよし」
ふわっと私の頭を抱えると、その言葉通り打った辺りをさすりながらこっちを見つめてくる。
「葛葉」
「は……はい」
正気に戻ったのかな??ちゃんと名前呼んだよね?
「実は俺、ずっと前から――」
そう言いながら、洸くんの顔が近づいてきて――。
そのままキスをされる。
ええぇーーーーー!!
私は目を見開き、目の前にいる洸くんにキスされたまま動けない。
こんなことをされるとは、全く予想していなかったのでどうしたらいいのかわからない……。
カチンコチンになったまま、何をどうすることもなく洸くんの唇が離れる。
そのまま洸くんはコテっと眠りに入った。
「ちょ、ちょっと……」
自分の口元を両手で押さえながら、鼓動が高ぶってるのも赤面しているのも全部上に乗っかっているこの人のせいなのに!!
自分だけ寝るなんて信じられない!!
実は俺……ってなんなのよぉ!!ちゃんと最後まで言ってからにしてよ!!
「……」
携帯で時間を確かめると二時近くなっている。
一真はもう寝たかな?
夜中なんで、とりあえずメール。
すると、すぐに返事が返ってきたので起きていたみたい。
今からこっちに来てとメールを返すと、しぶしぶこっちに来てくれるらしい。
上の方でベランダ越しからやってきてるらしい一真が物音を立てながらやってきている。
その前に、洸くんを押しのけてひっくり返す。
こんなところを一真に見られたらたまったもんじゃないわ。
「なんだよ、こんな夜中にーー」
背中をかきながら階段を下りてくるが、すぐにどういう状況なのかがわかったようで。
「なにこれ。先生できあがっちゃってんの??」
「今日、歓迎会だったらしいのよ」
「だからか。なんか先生たちそわそわしてたのは。んで、俺にこの人を運べと」
「さすが、一真。わかってるぅ」
「俺を一体なんだと思ってるんだ、お前は」
ぶつぶつ言いながら、手を貸してくれるありがたい友だった。