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はぁーーーーー。
昨日の脅しが頭から離れない。
休み明けの実力テストほど、勉強をしたことがないというのに。
頑張って休憩時間の十分ごとに頭に詰め込んでいた姿を亜衣は不審がっていて、何か言いたげだったけど、ここは無視を決めた。
だけど、そんなインスタントで覚えられるほど私は頭がいいわけでもなし、万年トップ5に入ってる一真が羨ましい。
総代やっているからには、やっぱりそれなりの学力も保ってないといけないし、定期テストはちゃんと頑張ってるんだよ?
なのに、間が悪いというか。
昼の休憩がそろそろ終わる頃、最後のテストは一体誰が来るかな??なんて話が聞こえてくる。
先生によっては教室をうろうろ見回りしたり、いきなり掃除をし始めたりするもんだから、生徒にとってはたまったもんじゃない。
ま、次はHRだから担任じゃないかなぁ……。
私なりの予想を立てていると、チャイムと同時に先生が入ってきた。
教室が一瞬、静まり返る。
教科書を見ていた私は、それが気になり顔を上げる。
「先生が担当なんですか!?」
女の子が騒ぎ出すのも当然、なんたって噂の響崎先生がそこにいるのだから。
「はい。キミたちの教科担当になるから、様子を見に来ました」
「授業楽しみにしてまーす」
「ありがとう。じゃ、みんな、机の上ものしまって――」
ガタガタと周りが机を綺麗にする中、私は突然の出来事で呆然としていた。
「藍本ー。キミだけだぞ。堂々とカンニングするつもりかぁ?」
「……はっ!?」
いつも聞いてる声で苗字を呼ばれ、我に返る。
「先生、もう名前覚えたんですか??」
「ん……いや、藍本は生徒会で世話になるから知ってるんだ。当然のことながら、その相方の笹木もな」
前の方で話が盛り上がっている中、隣の席の一真が私の教科書を奪い取る。
「何やってんだよ!? 動揺すんのもわかるけどな、俺がせっかく覚えたこと忘れるからさっさとしまえ」
無理矢理、引き出しの中に入れようとするので、身体をずらす。
もしかして、一真も同じ戦法??
「笹木、藍本の面倒たのむな」
「熱い熱いー」
そんな所を洸くんは見ていたのか、みんなと一緒に冷やかしながら、テストを配り始めた。
「テスト配るから静かに。もう五分は損したぞ。藍本のおかげで」
「藍本ぉーー」
「すみませんでした。先生がかっこよかったんでトキめいてました」
クラスメートが冗談で言ってきて、いつもならここで反撃をするけど、洸くんが目の前にいてまだ騒ぐことはできない。
セリフはこんなんだけど、感情がこもってないように棒読みで言いふらす。
「藍本には笹木がいるだろー」
「先生まで、独り占めにしないでよねぇ」
テスト中なのに、ケラケラ笑いながらする二年D組。
あなたたちの知らないところでは、先生独り占めしてるんだけどねって口を黙らせてやりたい。
こんなことを自ら言う程馬鹿じゃないけどさ。
というか、その前にトップシークレットというのを忘れずに。
パンパン!
「ハイ、もう終わり! いい加減にテストに集中」
洸くんが手を叩いて場を打ち切ると、やっとテストをするような雰囲気になる。
――……。
あー、もう、わっかんないっつーの!
見事に覚えたことがふっとんでいた。
頭を悩ませながらとりあえずは解答欄を全部埋めたものの、実に微妙。
時間を確認すると、残り十分。
もういいかなぁーと、顔を上げると先生は教卓の前ではなく、窓際に立っていた。
なぜか向こうも偶然にこっちを向いて、誰も見ていないことをいい事にお得意のニッコリスマイルをされて、ちょっとドキり。
――と、思ったのもつかの間。
わざと自分の腕時計を確認して時間が余っているのに何もしないつもりか?みたいな顔をされ、慌ててもう一度テスト用紙と向き直る。
危ない危ない、このテストの裏主旨のことを忘れかけてたよぉ……。
キーンコーン……。
みんなが自主的に用紙を集めると、それは私の所にやってくる。
テストの時はランダムに座るため、回収の時各自で番号順に並べているものの、最終確認のためなのだ。
だったら、ランダムにするのをやめたらと思うのだけど、カンニング防止のためだとか。
私に回答を見られて平気なんだろうかっていつも思う。
ま、そんな事を気にするような人たちはここにはいなさそうだけど。
「はい、先生」
「ごくろうさん。何から何まで大変だねぇ」
「『この役目』は自業自得ですから」
何回か先生方から順番通りになってないと注意をされたので、仕方なく自主的にするか、と思ってやり始めたこと。
こんな自分がちょっと悲しい。
「じゃ、放課後のこと忘れないように」
「え、何をです?」
「生徒会の集合かかってるよ」
携帯を取り出してみると、メールのアイコンが表示されていた。
ちょうど、前の方に用事があってきていた一真に問いただすと、彼も知らなかったようで。
時間を確かめると、二人ともが黙々とインスタント方式で頭に詰め込んでいた頃だったみたい。
「似た者同士だなぁ。先生、餅を焼いちゃうよ? たっぷりと、一時間」
はは……と笑いながら、職員室に戻っていった。
二人ともその言葉に立ち尽くした。
「ねぇ、餅を焼くってどういう意味?」
「それもわからないのか」
「……」
そっかそっか、と頷きながら一真は廊下に出て行った。
どうやらトイレに行くみたい。
この時期に餅を焼くの?洸くんが??全然想像できないんですけど。
私はうなりながら、自分の席に戻ってくると亜衣が興奮していた。
「間近で見ると、ますますイケメンだね。やっぱ先生はこうでなくっちゃ、こっちもやる気がでないよねぇ。男子にもウケがいいみたいだし、人気でそうだね」

放課後。
生徒会室に一番乗りした私と一真。
開けた窓の向こうからは、運動場で部活を始める生徒たちの声が聞こえる。
春先の心地よい風が部屋を通り抜け、ほんわかした気分になる。
「みんなさぁ、なんでこう、あたしたちをくっつけたがるんだろ?」
「お前、知らねぇの?」
「何を?」
机に伏せていた私は、一真を見上げると、向こうもこっちを見た。
「まさに、お似合いのカップル。と校内で知れ渡ってるらしい」
「は……」
そんな事を言われてた事にカチーンと固まる。
この一真と??あり得なーい。
てか、本当にあり得ないんだけど!!
確かに、整ったいい顔立ちしてるとは思うんだけど、だからってねぇ……。
性格、知りすぎてるし。
互いに同じ事を考えてるのか、じーっと見つめ合っている。
バン!!
部屋のドアが思い切り音を立てて開かれる。
「キミたちはなに見つめ合ってんだい?? 餅投げるよ??」
餅といえば、うわさのイケメン先生、洸くんが次に現れた。
「あー、もうどんどん投げちゃってください!!」
「何言ってんのよ、本当に投げられたら痛いじゃないの」
「へぇー、笹木は餅投げられてもいいんだ??」
「ぜひ!! 待ってましたよ」
「えぇ!?」
この二人は、餅の投げあいをして何が楽しいんだろうか。
「なになに? 何の話??」
そんな中、現れたのが梶島先輩と千夏先輩だった。
「餅の話ですよ、もち」
「はぁ? なんでこんな時期に……」
手にしたキーホルダーをブンブン回しながらつまんないわと声を上げる。
他の委員が集まっていないことを確認すると、隣の仮眠室へと向かった。
もちろん、梶島先輩も一緒に。
――……怪しい。
この生徒会室は、ほぼ一通りの物が揃えられている。
冷蔵庫、テレビ、パソコンなど、隣の部屋には、簡易のベットが。
今、座っている椅子もそれなりの価格だと思われるほど、座り心地いい。
軽く一人暮らしができそう。
十分くらいすると、各委員が集まってきたので隣の部屋をノックする一真。
さっきと変わらない雰囲気で現れてくる生徒会長たち。
一体、何をしてたのだろう?
「みんな揃ったみたいだね、始めるよ」
「今、藍本が配ってますが、ご存知の通り。一週間後は新入部員争奪戦です」
そうなんです、部活をなさってる皆さんが待ちに待った、イベント。
学校総出で新入部員を確保するために、新一年生たちを追い掛け回すのだ。
「毎年恒例の行事なんだけど、今年はルールを変えようと思ってるんだけど、何かいい案はないかい?」
さすが梶島先輩、考えることが違う。
でも、急にそんなこと言われてもなぁ……。
周りを伺うと、みんなも同じみたいでコソコソと話している。
「いきなり、こんなことを言い出して難しいとは思うんだけど、やっぱり逃げる方にも、何かいい事がないとやる気が出ないと思うんだ」
「そう言われても……」
「なかなか思い浮かばないよねぇ?」
「てっきり、普通通りにやるものだとばっかり」
「いーい? 梶島がどういう人間なのかはあなたたちが一番よく知ってるでしょ? 最善のものを作り上げたいの。それがイヤなら、今すぐ辞めて頂戴」
「先輩……」
千夏先輩が、三年生の委員たちに喝を入れる。
こうして、本当に入れ替わることも少なくない。
「何も梶島さんの意見を否定してるわけじゃないんだ。ただ、時間がほしいんだよ」
「そうだよな……。じゃ、二日後にでも――」
「いい案があるよ」
「何ですか? 先生」
今まで、傍観をしていた洸くんが窓際から挙手をする。
「ここは、食堂が評判がいいんだよね??」
「まぁ、そうですけど――それが?」
「その食券を賭けるのはどうだい?? 彼らにとっても悪い話じゃないだろ?」
窓の下を見下ろしている。
たぶん、視線の向こうには一年生たちが下校しているのだろう。
「食券ですか……。いいかもしれないですね」
きっと今、梶島先輩の頭の中は猛烈なスピードでいろんなことを考えていると思う。
周りも気遣って誰も話をしない。
「よし、案が決まれば、ルールを決めるのはみんな簡単だろう?」
「テーマが決まれば、どんどんいけるぜ」
まずは、食券をどうやって手配するか、どのような配分にするのか、なんかその他イロイロ。
企画が苦手な私はこういう時は、書記に回る。
みんなが怒涛のごとく、アイデアを言ってくるから、こっちは走り書きになる。
あっという間に用紙がいっぱいになり、どうやらこの企画でいけそうな感じがしてきた。
一週間後に向けての準備がとても忙しくなりそう。