「この人と結婚する」

って、世の中そんな甘くない。
したくても出来ない人、無理矢理させられる人、そんなコトはしたくない人、いろんな考えがある。
簡単にするような事じゃないけど、藍本葛葉(あいもと くずは)、結婚します!!


1-1



超マンモス校・私立の藤波学園。
普通科・商業科各学年六クラス四十名ほどあり、学科の校舎は少し離れているので、同じ生徒といえど、なかなかすれ違うことがない。
その上、増築に増築を重ねたので、学園は入り組んだ仕上がりになってしまったらしい。
よく迷子になるとかならないとか。
その中で、各学年ごとに二名ほど学年総代として学期ごとに投票で決まる。
さらに、その下にモロモロの長が数十人いる。
もう数えたくないほど、学年総代を更新中の私と、もう一人の総代もとい私の相方、笹木 一真(ささき かずま)。
家が隣同士、学校も一緒、その上所属する所まで一緒。
なんかお互いにいつも一緒にいることが当たり前というか。
いやいや、私たちは周りがなんと言おうとただの友情が成り立っているはず。
「実は、付き合ってるんでしょ?」
誰がそんなことを考えたのかは知らないけど、そんなことは一切ありません。
違うって言ってるのにも関わらず、周りがそれを認めない。
そんなことってあっていいんでしょうか。
ちょっといいなって思った人がいても、二言目には――。
「あいもっちゃんには、笹木がいるからなぁ」
断じて違ーーーう!!
私だって、人並みに恋したい!!

そんな矢先の出来事。
船乗りの父が長旅から帰ってきた――ものの、とんでもない土産話を持ってきた。
「次に帰ってくるのは、三年後になりそうだ」
何ヶ月ぶりかの家族揃っての夕食を前にして、父はそんな重要なことをあっけらかんと家族に伝える。
そんな大変な話を聞いた私は、口に持っていこうとしていたおかずをぽろっと落としてしまった。
「あら、そう」
母は、何事もなかったように受け流す。
奥さん!!旦那が三年も家に帰ってこれないって言ってるんですよ!?
あら、そう。なんて一言で片さないでくださいよ!!
娘は驚いて、好物のからあげちゃんを落としたんですよ!?
「……じゃ、あたしも一緒に行こうかしら」
「はぁ!?」
ここは一発、娘の存在をアピールしとかないと。
「おお、そうか。そう言ってくれると思ってたよ、お前」
「当たり前じゃない」
ちょっと待て、娘はどうするんだ、娘はっ!!
「そういうことで、葛葉」
二人が、にっこりしてこっちを向く。
「そういうことって――……ちょっと!?」
「葛葉も十六年ここで暮らしていると、いろいろあるだろうしな」
「いろいろって」
確かに、生まれてこの方ここの土地を離れたことのない私にとって、また一から新しい生活をするのには勇気がいるけど。
こういうのって、みんなに親の仕事の都合で転校するの……ってシュチュエーションになるところだよね!?
泣く泣く、仲良くなった人たちとのお別れじゃないっけ?
「今の学校、気に入ってるんだろ? それに、お隣の一真君とも離れたくないだろうし」
なぁ?と、妻に話を振る父まで誤解をしている。
母だけは、一真との関係をはっきりと知っているものの、微笑んでうまくごまかしている。
「だからー、一真とは――」
「あら、でも。年頃の娘を一人にしておくのも不安だわ」
「でしょ!? だったら――」
「うーーん……」
両親は、真剣に悩んでいるようだが、だったら、母親がやっぱり残るわって言ってくださいよ。
何、この疎外感は……。
本当に、この家に一人で住めっていうの?
――そんな、冬の訪れだった。

来期の新任の中に、学園の会長の孫がいるらしい。
会長をおじいちゃんのように慕っている私にだけ、先行して写真を見せてくれた。
「どうだ、なかなかのヤツじゃろう?」
キレイに生え揃えた白い髭を触りながら、会長はニヤリと笑う。
なぜそんな笑い方をしたのか、その時の私にはわからなかった。
――とある日の、放課後。
孫とのご対面の召集がかかり、しんしんと冷える廊下を四人は歩く。
「会長の孫なんて事知れたら、周りはやりづらいの一言だよな」
「バレたら、バレた。別に悪いことじゃないんだからいいじゃない」
生徒会を仕切るトップの人、もとい来期の生徒会長の梶島 雅治(かじしま まさはる)はこの寒さを感じないかのように、凛としながら歩いている。
その隣を歩く副生徒会長の櫻井 千夏は、たぼっとしたカーディガンを羽織って、寒さをしのいでいる。
この二人が揃うと、なんだか空気が変わる気がするのは私だけ?
「せんぱーい。走りましょう、寒くないんですか?」
「そうですよ、はやく暖かい部屋に辿り着きたいんですけど」
その後ろを、一真とその場でジタバタしている。
「あとちょっとじゃないか」
そう言う梶島先輩の指差すところは、限りなく遠い。
寒さに耐えれず、見てるだけで暖かそうなガーディガンを羽織っていた一真に脅しをかける。
「ちょっと、一真。上着貸しなさいっ」
「何言ってんだよ、俺だって寒いんだよ。第一、葛葉もちゃんと着てるだろ!?」
「女の子に風邪をひかす気なのね!?」
「とか何とか言っちゃって。……ババシャツとか着てんだろ?」
「この私がそんなの着るわけがないでしょ!? いいから、貸しなさいーー」
ここは、実力行使でいこうとするが所詮、女の力でどうにかなるもんでもなく。
「てか、俺のデカすぎてやぼったくなるだけだ……って――……?」
そのセリフに私と一真は、ん?と思い前を向く。
「到着ーー」
「だから、もう漫才はやめてね」
他の部屋と比べて少し上品な扉の前に立ち止まった。
千夏に釘を刺され、慌てて表向きの顔を作りざるを得なかった。
「失礼します」
ドアをノックし、私たちは会長のいる部屋へと入る。
「おお。やっときたか。中に入りなさい」
エアコンで調節された、暖かな空気にほっとする。
「みんなに紹介しよう。こやつがワシの孫の響崎 洸(きょうさき こう)じゃ」
みんなで一礼をして、初のご対面。
写真を見て顔を知っているハズなのに、なぜかじっと見てしまった。
だって、向こうも見ていたから。

「ということで、来春から世話になるからよろしく頼むぞ、君たち」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。それでは失礼します」
一通りの事を話して、とはいってたいした話でもなかったが、これでどうやらご対面は終了らしい。
最後に一礼をして帰ろうとした瞬間。
「藍本はまだ話があるから、ここにいなさい」
「はい?」
会長に引き止められ、他のみんなはじゃ……と先に部屋を出て行った。
一体、何の話だろう??
さっきまで座っていた椅子にもう一度腰をかける。
「で、何の用でしょうか??」
「もう、堅苦しい話し方はいいぞ、くずはちゃん」
「え、……はい」
まだ、目の前にいる彼の存在を気にしながら頷く。
「前に、ご両親が仕事の関係で家を空けるって話があったろう?」
「……はぁ、そうですね」
今は、それより目の前の人が気になるんですけど。
「で、だ! こやつを用心棒として置くのはどうじゃ!?」
「えぇーーーーー!?」
いきなり何を言い出すかと思えば!
「なんでそんなことになるんですか!? 第一、両親が納得しませんよ!?」
ニヤリと不敵の笑みをする会長――……もしや。
「ご名答。ご両親は快く了解してくださったぞぃ」
Vサインを出す会長、そして、目の前にいる人はさっきからじっと私を見つめて何を考えているやら。
「てか、ほら、響崎さんが納得しないと思うんですけどーーー」
頼みの綱で話を振ったものの、なにやら雲行きが怪しい。
「俺はOKなんだ」
「……って、どうして!?」
「ずいぶん前から住む所を探してたんだけど、いい物件がなくて。そしたら、祖父がこの話を持ちかけてくれてさ」
「てさ……って、断ってくださいよ」
「かなりいい条件だったもんで。教師の月給なんてたかがしれてるだろ?」
裏取引を匂わす彼、そして、一番の諸悪の根源の会長。
「何か、一番重要なこと忘れてませんか? 二人とも」
「?」
「来春から私たちの関係は、教師と生徒になるんですよ? それでもいいと思うんですか? 世間が許しませんよ」
ナイス自分!これが表沙汰になった日にはPTAがタダじゃ済みませんよ!?
「わかってるじゃないか、くずはちゃん」
「ホラ、だったら――」
「これは今日から最重要機密事項じゃぞ、くずはちゃん」
「既に決定事項なんですね……」
本人の意思関係なしですか!?
てか、この人は何を考えてるんだ!?
じとーーーっと、未来の同居人を見ると、彼はにっこりと微笑み返すだけだった。
絶対秘密のトップシークレット、緊急発生!!