7-9



「ただいま」
「おかえり」
あの日の出来事はまるで何もなかったかのように、いつものように帰宅の挨拶を交わす。
でも、両手に抱えた大荷物は確かなことだった。
それをゴソゴソと掻き分けて何かを探し出す。
「はい、コレ」
「もしかして……っ」
白いビニル袋に入れられたたくさんの謎の小袋たち。
その中に今にも海晴は顔を突っ込みそうな勢いで覗き込んだ。
「本当に買ってきてくれたんだー」
「あちこちと行かせてもらったしね」
「嬉しー! ありがとうーーー」
本当にそうみたいでいそいそとソファーに座り込む。
袋を引っくり返して一つずつ紙袋から出しながら、一言ずつコメントをしながらはしゃぐ。
「コレ、かわいぃー。あ、コレはウケるね。こんなのにもなるんだー」
聖はそれを遠めで確認しながら、荷物の片づけを素早く終わらせる。
飲み物片手に海晴の隣に座る頃に、ようやく一通りのご対面は終わったらしい。
「そんなに嬉しかった?」
「うんっ」
「なーんか、俺が帰ってきたことよりも嬉しそうなんだけど?」
数々のお土産にご満悦の様子の海晴に嫉妬して、お構い無しに彼女の膝枕をさせてもらう。
「そんなことないってば」
明らかに棒読みな海晴に拗ねて横を向く。
「――にしても、どうするわけ? この『キティちゃん』。まさかこのまま使うわけじゃないよな?」
海晴がお土産にリクエストしたのは、地方限定キティストラップ。
地方を飛び回る聖にもってこいのものでもあり、一回でかなりの収穫だった。
「どうしようかな――……ねぇ」
「んー?」
「『あそこ』に飾っていい??」
海晴が指差した場所を辿っていくと、殺風景に広がった壁。
「いいけど――……穴、開けるなよ?」
「むむ、なかなか難しいことを……」
いずれは増えていくであろうものを穴を開けずにする方法なんてあるのだろうか?
ぶつぶつと唸りながら考えている海晴の耳をいきなり引っ張る。
「ウ、ソ! 気にしないから大いに開けていいよ」
「ヒドーい! 本気で考えてたのに」
ふとすれば二人の距離はとても縮まっていた。
その体勢のまま少し間が空く。
「ここであたしはちゅうをするべき?」
「――なんだそれ?」
「今日、『餃子』食べたも……」
「じゃ、ヤメとこ」
視線だけを逸らす聖。
「……ウソなのにっ!」
「――そうだと思った。もっと頑張りな」
頬に手を添えられて、その流れで唇を重ねた。

earl関係のあるスタッフたち全員出席の反省会。
責任者の三上が資料を読み上げながら、淡々と進めていく。
もちろん、その横には主役の三人が並ぶ。
「今回のライブツアーは、テレビの生中継も地方でのラジオも問題なく出演することが出来ました」
資料の内容の後付のために、各担当者も結果に対しての報告、今後の対策も挙げていく。
終わって間もないというのに、しっかりと回答は仕上がっていた。
抜かりがないようにスタッフも気を引き締めているのだろう。
あの三上だから曖昧な態度は許さないのを知っている。
「小さいトラブルは多少あったようだけど、みんなよくやってくれました。一番の主役が寝坊したとか風の噂で聞きました。以後、気をつけるように」
三上からは一番遠くにいた聖に対して、チクリと物申す。
「すみませんでした」
軽く頭を下げて謝罪をすると、納得したかのように次の話題へと繋げていった。
その後は、軽い打ち合わせなどをして、反省会は解散となった。
一番に出て行こうとするearlたちは三上に軽く一瞥をされて、一人だけはそこに残ることになった。
――最初からわかっていたことだったが。
会議室からスタッフもいなくなり、そこにいるのは三上と聖。
「あとで、社長室に来なさい」
ただその一言だけを残して、部屋から出て行く。
「社長室か……」
そんなところまで呼び出されるということは、話が長引くのだろうと予想してしまう。
今日は海晴もバイトに来ているので、一緒に帰ろうかと思っていたがそれを諦めることにした。
そのまま仕事の上がり時間になって、マネージャーが車を回してくると先に下に降りていく。
最後の一服、お茶の時間を楽しんでいる朔馬と魁。
「聖のやつ、どこに隠れてんだ?」
「……さぁ」
自販機の前で待っていると、違う人物が現れた。
「お疲れさーん」
「お疲れです」
正人も自販機で飲み物を購入して、その場で飲み始める。
「そういえば、正にぃはタバコやめたのか?」
最近、いつも缶コーヒーを飲んでいるので、魁は疑問に思ってしまう。
いつも朔馬とたむろって、タバコを吸っていてその煙が腹立たしくていつも二人に文句を言っていたのだ。
だけど、二人は辞める気配なんてさらさらなくて諦めていたのだ。
「――……あぁ。今、禁煙中。身体に悪いしなー」
あさっての方向を見ながら呟く姿に疑わしい眼差しを向ける。
「あれだけ俺が言い続けてもきかなかったのに……妖しい」
「な、なんだよっ」
「……別にいいけど」
最後は好奇の視線を送って、きっとプライベートで何かあったんだろうと勝手にこじつけた。
全てを飲みきった正人はポイッとゴミ箱に投げ入れる。
「聖、見かけませんでした?」
短くなったタバコを堪能している朔馬が去ろうとする正人に問いかけた。
ピタッと足を止めると、少し間を置いて振り返る。
「今日はハルっちと一緒に帰るんじゃないのか?」
「……そうだった」
「待ち損だ。早く消せっ」
「はいはい」
未練たらしくタバコを手にしていた朔馬に吠えると、大股で廊下を歩いていった。
また、歩き出そうとしたら正人はまた呼び止められる。
「正人さん! ……聖知らないですか?」
「――朔馬たちといっしょなんじゃないか?」
「さっき二人をエレベーター前で見かけたし、あがりですよね?」
ずっと探していたらしい海晴はどこか不安そうにしていた。
正人もすぐに嘘がばれたことに次の言葉が出ない。
「ハルっち……。あのな――」
「……」
「聖は、その……」
(もしかして――……)
もごもごとする様子に海晴ははっとしてその場から走り出していた。