7-8



タクシーを飛ばしてもらい、予定していた時間より早く戻ってくることが出来た。
その間も海晴の悲痛の叫びがずっと頭から離れなかった。
自分が良かれと思った行動は彼女を苦しめただけなのかもしれない。
――違う。
この別れがあるから、そうなっただけだ。
この状況が二人を苦しめてるだけなんだ。
再会した時の感動は一瞬で終わったようなもので、最後に結局泣かせてしまった。
また別れる時の『つらさ』までは考えていなかった。
あと二週間近く――。
会わなかったほうが良かったのか。
そんなことはないはずだ。
抱きしめ合ったあの時の気持ちは同じだったはず。
苦しませるために戻ったんじゃない。
自問自答を続けながら、見覚えのある光景を目にしてそろそろ到着だとわかる。
今日があるからあと半分が乗り越えられるんだ。
そう前向きにいこうと思い、タクシーを降りて第一歩を踏み出した。

既に動き始めているスタッフたちに見つからないように、こっそりと何事もなかったかのように場に溶け込む。
不穏な雰囲気もなく、何人かにすれ違いざまにいつものように挨拶をされる。
「……?」
表情には出さないものの、予想外の対応が腑に落ちない。
まずは迷惑をかけたメンバーの元へと急いだ。
――コンコン。
まだ部屋にいると小耳に挟み、魁の部屋にきっといるんだろうと呼んでそこへやってきた。
「誰だ?」
少し不機嫌そうな魁の声。
「――……俺だけど」
「おぅおぅ。不良息子が帰ってきたぞ」
朔馬にそう教えてやりながら、ガチャっとドアを開ける。
ばつの悪そうな顔をして魁と対面する。
「どうだったか? 愛しの彼女との密会は」
「――……っ、それは……」
なんと答えたらよいのやら。
チクチクと嫌味を言われ、珍しく聖が口ごもりながら朔馬に助けを求める。
「さすがに今回は……ムリだ」
誰に聞いたとしても、ほぼ百パーセントの確率で朔馬に賛同する出来事。
そうすることは調子がいいというものだ。
「泣きついてきたけど、それは間違いだったとか言われたんだろ?」
「――……聞いたのか?」
「んなヤボなことするわけないだろっ! なんだよ、図星かよっ」
鎌をかけたつもりがすんなりと認められて肩透かしを食らう。
「落ち込んでたのに急に態度変えたりして。そういうモンなんだよ、女って」
「魁が女を語ってる……」
「腐るほどねーさまたちを見てるし、人の相談事も――自分の場合も、そんな話はしょっちゅうだよ」
「あー、香織ちゃんね……」
もう一年近くの前の話を抉られて、魁は墓穴を掘って落ち込んだ。
「たかが二週間。されど二週間。もっと強くなれよ、聖。これから先、もっとしんどいことたくさんあるに決まってる。アイツのほうがお前より強いぞ」
「……」
「『全部自分が悪いから、聖を責めないでくれ』って。わがままプーだと思ってたのに、少しは大人になったと思うぜ?」
聖の居場所を確認した後に、海晴が懇願してきた。
いつにない彼女のそんな態度に困惑して、ついわかったよと答えてしまった。
だからといって説教をしないわけではない。
一方的に責め立てても、こういう場合は逆効果に成りかねないからだ。
「なんでそうなるコトが出来たのかわかるか? その答えがわかればお前も大人になることができるさ」
「もうそろそろ時間だ」
頃合を見て朔馬は吸っていたタバコを揉み消し立ち上がる。
「パワーもらってきたんだろ? ライブでブッ飛ばしてもらうからなっ!」
魁のその言葉に二人が注目する。
「あぁ。やってやるよ」
交互に互いのこぶしを軽く当てて気合を入れる。
言いたいことを言えてスッキリした様子の魁は鼻歌を歌いながら、二人の前を歩いていく。
そんな後姿を見ながら、朔馬は軽く微笑んだ。
「たまにはイイコトいうやん? 口が悪いけど」
「――そうだな」
小さい身体してるのに、ガッツでパワフルな魁の背中を見て聖は微笑む。
本当に似た者同士だなと苦笑するしかない。
「あと、マネージャーにも感謝しとけ。お前がいなくなったことはスタッフには漏れてないから」
「だからか……」
「単なるお寝坊さんとしか見られてないさ」
「そのくらい構わない」
「ただ……上の報告まではわからない」
二人の視線の先にはマネージャーの姿。
少し硬い表情の聖の肩を軽く叩いて、場を持たせてやるために側から離れた。
すぐにスタッフを分け入ってつかつかと聖に歩み寄ってきた。
「そんなに私のことを信用出来ないわけ?」
思わぬ質問にきょとんとしてしまう。
「わたしには隠さなければならないコトなんでしょ?」
「――それは……」
簡単には答えられない。
こんな場所で軽々しくしたくない話だ。
聖が自ら話してくれることを期待していた翠だが、わざとらしくため息をつく。
「……今回は朔馬に免じて『中身』は追求しない約束よ。リーダーに感謝することね」
「いいこと? 次、勝手なことしたらタダじゃおかないわよ」
指を指されながらビシッとそう宣告し、鳴り続けていた携帯電話をカバンから取り出し去っていく。
「一体誰を一番感謝すればいいのやら……」
ぽつりと聖はそう呟いたのだった。