7-6



「どこに行ったのか知ってる!?」
まだベットの中で睡眠を貪っていた朔馬のところへ翠が乗り込んでくる。
「寝起きにいきなり問い詰められても――……」
「――……っ!! ちょ……ちょっと待ちなさい!! まさか、あ、あなた……っ」
「――……はぃ?」
「ストップストップッ!! それ以上動かないで!!」
目をこすりながら身体を起こそうとする朔馬を翠は慌てて静止する。
「何か問題でも?」
「大有りよ、大有りっ!!」
ようやく、翠が何を言わんとしていたことがわかった朔馬はベットから降りようとする。
急いで部屋を出て行こうとする彼女の姿を見てクスクスと笑う。
「言っときますけど、断り無しで入ってきたのは翠さんですよ?」
「わ、わかってるわよ。ま……まさかあなたが裸で寝てるなんて……!」
「空調が効いてるから、こんなんでも平気なんですよ。――正確に言えば、パンツ一枚ですけど」
「似たようなもんじゃないの! さっさと着替えなさい」
「いくらでもライブとかで見せてるのに……」
パフォーマンスで時折脱いだりするので、それなりに身体を鍛えているので見られて困るような羞恥心もない。
「状況が違うでしょうが!」
「第一、男の裸見て恥ずかしがる子供でもないと思いますけど?」
「あ……当たり前でしょ。それは時と場合によるの!」
「はぃはぃ」
ドア越しに叫ぶマネージャーをからかうのもこれまでにしようと大人しくラフな格好に着替えることにする。

「おはようございます」
「……おはよう」
改めて顔を合わせて、朝の挨拶をする二人。
「で、誰の話をしてるんですか?」
「あなたたちがいつまでも起きてこないから、一人ずつ起こしに行こうと魁から部屋を回っていったわけ」
そう言われて、朔馬は改めて時間を確認すると、自分が予定していた起床時間は軽く過ぎていることに気がついた。
「魁は寝起きはご機嫌ナナメなのは知っているけど、そのうち起きてくるだろうと思って次に行ったら――」
「……聖がいないってことですか」
「そうよ。ベットメイキングもキレイなままね」
「悪いけど、何も聞いてませんよ? いちいち監視する年頃でもないと思うし」
「それはそうだけど――何か悪い予感がするのよ。携帯も繋がらないだなんて……」
「そう言われてもねぇ――……!」
「思い当たる節があるでしょ? 最近、ふとした瞬間にあのコ思い詰めてる感じがしたでしょ? 何か知ってる?」
原因は手に取るようにわかる朔馬は黙り込んでしまう。
ツアーが始まる前からぼやいてたことだ。
まさかとは思うけど、それを完全否定できない自分がいる。
こんな状況だけど、あいつならやりかねないなと思えて仕方がない。
「……大丈夫だとは思うけど」
「どこに行ったのか知ってるのね?」
「無責任な行動は取らないヤツだから、ちゃんと戻ってきますよ、時間が来れば」
その言葉には朔馬が聖に対する信頼が含まれていた。
翠との付き合いの長さを突きつけられて、何も言えなくて悔しい思いをする。
確かにまだまだ信頼関係は薄いけど、これからどんどん築いていこうとしているのにこの仕打ちだ。
自分がまだ信用されていないことを思い知らされる。
「――今回はあなたの顔に免じて『中身』は追求しないけど、一分でも過ぎたら徹底的に調べるわよ」
「……いいですよ。あ、魁のルームキー貸してもらえます?」
どれだったかを翠が探している間に、朔馬がひょいと抜き出した。
「リーダーは何かと頭を悩まして大変ね」
朔馬に向かって捨て台詞を吐きながら、勢い良く顔を背けて翠は歩き出した。
そんな彼女を完全に見送った後に、朔馬は思いっきりため息をついた。
「……ったく、何やってんだよ」
頭を抱えながら、自分の携帯電話を手に取ってまだ寝ているだろうと思われる魁の部屋に向かった。

携帯電話を肩に挟みながら、口にくわえていたカードキーをドアに差し込む。
音を立てないようにして中へ入っていると、掛けていた電話が機械的なメッセージへと切り替わる。
「俺すら繋がらないのかよ……っと」
もう一つの手段にすがるかと電話を切って、次のターゲット移る。
「魁ー。いい加減起きろって」
「……」
布団を抱き枕代わりにして半分眠りに落ちている。
朔馬に背を向けているが、その隙間から肌が覗いてるのを見て名案が思いついた。
洗面所に向かいしばらくして出てくると、すぐさま魁の元へと小走りする。
「――……っ!?」
一瞬で目が覚めた魁は言葉が出なくて、朔馬を睨んだ。
「おはよう。一発で起きれただろ?」
「……心臓に悪いだろうがっ!?」
寝起きに朔馬のにっこりスマイルを拝みながら、剥き出しになっていた自分の背中をさすりながら泣き叫ぶ。
洗面所で手を冷やしてきた朔馬はそれで魁の背中に触れて起こす戦法を取ったのだった。
「翠さんで起きていないのが悪い」
「は? いつ来たんだ?」
「……十分かそこら前じゃないかな?」
「知らねぇ……どっぷりと夢の中だよっ」
「その夢の中で翠さんの声が聞こえてただけか……」
ベットから降りて、乱れた布団を綺麗に元通りにする。
口が悪い魁のイメージとは裏腹に、部屋が片付いているタイプだ。
鏡を覗くと寝癖がついていたので、洗面所に身なりを整えに行く。
「――で、何の用だよ?」
数分後に軽く髪をセットして現れた魁はドスッとソファーに座り込む。
戻ってくるまでテレビを見ていた朔馬は、スイッチを切って隣へ座る。
「麗しの魁の寝顔を盗み見ようと思って」
「アホかっ! ちゃんとした理由があるんだろっ」
ポッと顔を赤らめる仕草をして茶化すが、すぐにツッコミが入ってしまう。
「なんだ、お見通しか。――聖が行方不明なんだってさ。翠さんがカンカンに怒ってんだよ」
「あーーー……。とうとうやっちまったのか」
聖の行動はこの二人にはお見通しのようで、行く先は一つに限られている。
そのうち戻ってくるだろうとはわかっているものの、他の人たちがそれを許さないわけであって。
「……みたいだな。携帯も繋がらないワケ。――で」
「……?」

部屋のどこかで着うたが流れ始めた。
眠りに落ちていた海晴はしばらくするとそれに気づき、うっすらと目を開ける。
「あたしのだ……」
海晴はどこに置いたかなと手を伸ばして辺りを探る。
でもそれをする範囲が今回は限られていた。
何故かというと――。
まだまだ寝息を立てている聖が後ろから抱きしめていた。
どっちを優先しようかと迷いながら、薄暗い部屋の中に着信で光る携帯電話を見つけた。
特に約束も入れた覚えもないし、まぁいいかと今の自分の総合的に判断して居留守を使う。
しかし、間を置いてまた着信が入ってきたことに無視をすることができなくなった。
身を乗り出そうとするのに、回されている聖の腕がなかなか解放してくれない。
「ハル……」
逆にまた抱きしめ直された。
起きてるんじゃないかと思い、様子を窺ってみるけどそんな気配もない。
「夢の中であたしが登場してんのかな……それにしてもなんであんな場所に……っ!」
ご丁寧に鳴り続ける着信が海晴の気を急かす。
聖の腕からほぼすり抜けている形でようやく手が届くが、今度は何かが邪魔をする。
「……なんでこんな時に限ってっ」
充電をしていたのをすっかり忘れていて、電源コードが刺さって手元に来てくれない。
これでもかというくらいに手を伸ばして、つりそうになりながらやっと手にすることが出来た。
その途中で一回切れたものの、またすぐに着信が入りサブディスプレイが光る。
「……なんでっ!?」
画面に表示される相手の名前に海晴は驚く。
自分のものなのに、何故それが登録されているのかがわからない。
なんで自分にかかってくるんだろう。
なんでこの連絡先が登録されているんだろう?
次々と出てくる疑問に整理できなくて、冷や汗をかいてしまう。
耳元に聞こえてくる音にようやく聖も気づいたのか、少し唸りながら海晴に絡んできた。
「――……誰から?」
こんな時に、こんな時間に、という意味で問いただしてしまう。
こんな時にはまだしも、時間は朝にしたら遅い方だ。
日頃聞かれない質問に海晴はあたふたしながら、ディスプレイを隠す。
「いや……あの……。間違い電話」
「……。じゃあ、何で隠すの?」
「ほ、ホラ。眩しいじゃん」
「――……妖しい。まさか……平山からかっ?」
「違うって……なんでたけの名前が出るかな」
もうあれから随分時間が経っているのに、すぐにその名前が出てきたということは何よりも一番気にしていること。
海晴にとっては既に終わったことだけど、聖は未だに根っこに引っかかっている。
「男じゃないなら隠す必要なーし」
(い、いや、あんなんでも男なんですけど!?)
いとも簡単に海晴からそれを取り上げ、表示の名前を確認する。
「――なんで知ってんの?」
「さ……さぁ」
「これハルの携帯だよ?」
「それに関してはあたしが聞きたいくらいだけど……」
本当に覚えがないらしい海晴の様子を見て、それ以上追求するのをやめるしかなかった。