7-5



その日の夜がふけた頃、インターホンが鳴り響いた。
海晴が出るわけにもいかないので、モニター確認だけすると、何故かそこにはいないはずの人がいる。
すぐにロックを解除すると、海晴も慌てて玄関に向かう。
当然、早くたどり着いて玄関のドアを開けて外に出る。
エレベーターホールから現れた人の姿が目に入り立ち尽くす。
「なんで――……!?」
「本当に言われたら、いても立ってもいられなくなった」
「そんな……簡単に」
「簡単に、戻ってこれた」
遠くにいたはずの聖がここにいた。
ずっとずっと心の中で願っていたことが現実になって、無意識のうちに走り出していた。
両手で受け止めてくれた聖を思い切り抱きしめて、会えなかった日々をたくさんのキスで補う。
しばらくすると、海晴が下を俯いた。
「……聞こえてないと思ったのに」
「ハッキリと聞こえました」
「だって……」
「――だったから」
「……何??」
こんな至近距離でも聞き取れなかった。
いつになく真剣な表情で見つめられる。
もしかしたら、その時初めて見たのかもしれない。
「――……俺も同じ気持ちだったから」
海晴の一言が最後の後押しになって衝動的にこんな行動を取ったのだ。
その思いに嬉しさで胸が一杯になって、思わず涙を浮かべてしまう。
「会いたかったよぉ……」
「俺も……会いたかった」
もう一度、強く抱きしめあった。
月明かりが二人を照らして、壁に一つの影を作り出していた。
夜の気温に吐息が白く染まり、聖は海晴の涙を拭う。
パジャマ姿の薄着の海晴を聖は自分のコートで包み込んでいたが、そろそろ手足がかじかんできた。
「そろそろ中に入ろうか。……こんな格好だし」

今頃になってようやく気づいた。
聖の家のはずなのに、何故インターホンを鳴らしたんだろう。
「家の鍵持ってくるの忘れたの?」
「ない。必要最低限以外は全部マネージャーが管理してる」
手ぶら同然でここに戻ってきたということは、秘密裏に出てきたことを示した。
きっと、あの電話を切った後、飛び出してきたのだろう。
片道二時間近くもかけて、自分の家に帰ってきた。
こんなにも嬉しいことなのに、身体は睡眠を欲しがってくる。
「眠い?」
「そうじゃない……。違うよ……」
「ウトウトしてる。寝ていいよ、ちゃんとここにいるから」
ベットで横になりながら、聖は優しく頭を撫でてくれる。
――もっとたくさん話したい。
なのに、なんで急に眠くなってしまうのだろう。
「あんまり寝られなかったんだろ?」
「ぅ……」
「俺も海晴の姿見たら安心して眠くなってきた」
(そうか。コレはそういうコトなんだ……)
ずっと睡眠不足だったのは、聖が原因だったのかと気づかされた。
お互いの存在がこんなにも深く求め合っている。
それが良いことなのかそうでないのかは、まだわからない。
今はなによりもそれがとても心地よかった。

ふと、海晴は目が覚めてしまい寝返りを打つ。
「……っ!?」
あまりの驚きに声を上げそうになった。
目覚めたばかりの頭には、記憶が混乱して状況がわからなかった。
ここに聖がいることは夢じゃないのかと思ってしまう。
「そっか……帰ってきてくれたんだよね」
それがちゃんとこの人に愛されてるなと実感する。
こちらを向いている聖の寝顔を愛おしそうに見つめた。
「少ししか時間ないのに……」
「それでもいいんだ」
閉じていた目がパッと開いて、海晴の独り言に返事をした。
いつもそうやって驚かされる。
「もぅっ……また!」
「これが俺にとっての幸せだ」
少し寝癖のついた海晴の頭を撫でながらそう囁いた。
そんな台詞を言われて、海晴はすぐにおとなしくなってしまう。
「なんだ、いつものように怒らないのか?」
「今日は――怒らないも……」
「ふーん。そうなんだ?」
何故か微笑みながら、聖はキスをする。
さっきみたいに勢いではなくて、たっぷりとその感触を味わうように。
音を立てて唇が離れると、海晴の口から甘い吐息が漏れる。
「……いい?」
「――……」
甘い声で催促されたら、拒否なんかできるわけない。
聖に抱きつきながら、海晴は小さく頷いた。