7-3



あれから、家のカレンダーにもライブツアーのカウントダウンのバツ印をつけるようになっていた。
日に日に迫ってくる開始日にとても辛くなる。
何週間も会えないなんて、今までになかった。
どんなに時間がなくても、少しだけでも会うことが出来て、ほんの少しの会話だけで元気をもらって毎日を過ごしている。
――あの時とは訳が違う。
自分から率先して離れていったのだし、弱音なんて吐く立場じゃなかった。
軽くため息をつきながら、一日の締めにカレンダーに印を刻んでいく。
今日と呼ばれた日は既に昨日と呼ばれる時間になっても、聖はまだ帰宅していない。
もう少し遅くなるのだろうとベットに向かう。
眠気なんてこれっぽっちもない。
――だけど、聖と交わした言葉が胸をよぎってしまった。
起きている自分を見て、笑顔を向けてくれる一瞬、切なそうな表情をしているのを見逃さなかった。
(あたしがしていることは嬉しいことでもあり、申し訳ないとも思ってるんだよね?)
だから、そんな顔を見せたくないために、先に寝ておこうと考えたのだ。
そうして、夜は更けていく。

お互いの時間がなかなか合わず、次々と増えるカレンダーの印。
ゆっくりと話すことが出来ないままライブツアーの開始日前夜。
「ここに来るの早いね」
「明日は五時起きなんだ」
いつもより早めに帰ってきたものの、いろいろとやることが多い初日は朝が早く、すぐに寝室へとやってきた。
身体を起こしていた海晴の隣に潜り込んできて、お風呂に入りたての暖かい体温が海晴をくすぐる。
「いつもアレコレしてて、身体冷やしてベットにくるのに」
「だから、ハルがあっためてくれるんだよなー」
「しないも……っ」
「――……最近、まともに寝てないから……」
海晴に寄り添い腰に手を回したまま、疲れからなのかすぐにウトウトし始めていた。
それに気付くと、しっかりと布団をかけてやる。
「おやすみ……」
「……」
聖の頬にキスを落とすと、彼は口元だけ笑って返事をする。
規則正しい寝息にすぐに深く眠ってしまったのだろうと、海晴はやんわりと微笑む。
いつもと違う状況をしばらく眺めていた。
「始まってもないのにこんなに疲れてて大丈夫なのかな……」
しばらくは見れないこの寝顔。
少しでも長く見ていたくて、訪れる睡魔に抵抗した。
「あたしのいないところで浮気したら許さんぞ」
正面切って言えない台詞を枕元で囁く。
「ん……」
まるで聞こえたかのようにゴソゴソと動いて、海晴に擦り寄ってきた。
この腕の温もりもこの寝顔も。
自分だけが許された『この居場所』は誰にも譲りたくない。
――この人が与え続けてくれる限り。

朝六時集合のために陽が昇っていない部屋の中、聖はゴソゴソと仕度を整えていた。
そのせいなのかそれとも彼と話したいがためなのか、日頃なら寝ているはずの海晴が顔を覗かす。
「ゴメン。うるさかった?」
今更小声で話す必要はないのにも関わらず、明け方のせいか小声で話してしまう。
「ううん。そうじゃないよ」
準備を整えたらしい大きい荷物を抱えて玄関に持っていく。
それを見送ろうと海晴も後を追う。
「……あ。忘れ物があった」
「何、取ってこようか?」
「大丈夫、忘れ物は『ココ』にあるから」
Uターンをして戻ろうとする海晴の腕を掴み取る。
そのまま抱き寄せて、キスをした。
いつものお出かけ前と違い、長いキスに海晴も思わず腕を絡ませる。
「このまま連れて行こうかな……」
「すぐそんなコトを言うんだから……」
頬を合わせて聖は呟いてしまう。
いたって本人は本気で言っているつもりだが、そういう状況ではないことくらい二人は承知している。
こんなにも欲しているのに、現実は残酷なものだ。
この空間はあまりにも甘すぎて、どうしようもない。
「はぁーーー。この感触もしばらくおあずけかぁ……」
「ん……」
少しでも覚えておこうと少し力を込めて海晴を抱きしめる。
「寂しくなったら、魁でも抱きしめたら?」
「手の回し具合は似てるけど、……この柔らかさがないんだよ、女のコ独特の」
「くすぐったいってば……っ」
後ろに回された手がコソコソと動き回り、それが海晴にはこそばゆくて身を捩ってしまう。
あまりじゃれ合っているとその気になってしまいそうで、聖はピタッと動きを止める。
「それに間違って魁にちゅうなんかした日にゃ、ブッ飛ばされる」
「あたしもブッ飛ばす」
「ハルの口から恐ろしい言葉が」
じっと見つめあうと、クスクスと笑いあう。
「そろそろ行かないと」
「……あぁ。いろいろと名残惜しいけど」
両手に荷物を抱えて立ち上がると、海晴が玄関のドアを開けてくれる。
「ありがと。じゃ……行ってくる」
「ん。いってらっしゃい……」
お礼ついでにもう一度、軽くキスをして聖は旅立った。