6-9



ジリジリジリ――!!
いきなり非常ベルが鳴り響く。
キス寸前だった坂東もその音に反応して、海晴から離れた。
「な――なんなんだ!?」
火事なのかと思い、あわてて海晴を置いて部屋を出て行った。
すると、そこには――。
「な、なんで、お前がここに――!」
「そんなコトより、服を乱してどうしたんですか?」
部屋の外で待ち伏せをしていた聖は、そんな姿を見て確信した。
あわてて服の身だしなみを整えている坂東を捕まえ、壁に押し付ける。
「あなたのしていたコトは全部筒抜けでしたよ?」
ずっと手にしていた携帯を坂東に見せ付ける。
「な――……っ! まさか、本当にお前たち――」
「いい歳した大人がこんなコトして許されると思ってるんですか?」
「くっ……」
やっと電話を切った聖はすぐにかけ直した。
「あ、三上さん? すぐに十五階の3−Gに来てください。火災ベルは誤報なんで。――来たらわかりますよ。正人さんも連れてきてください」
「あのHIJIRIが女子高生と付き合ってるなんて笑い話だね」
聖は携帯をポケットに入れ、両手で坂東を押さえつける。
「彼女に何をしたんだ!?」
「愚問だね。男と女が密室でやるコトなんて決まってるだろ?」
煽るかのように坂東は挑戦的な顔を見せる。
坂東を掴む手が更に強くなる。
「海晴ちゃん、とても感度いいよね。俺、ちょっと燃えちゃったよ」
「……っ!」
耐えられなくなった聖は、右手を振りかざす。
坂東は目を閉じた。

――バンッ!!

来るはずの衝撃に構えていたが、一向に来ない。
恐る恐る目を開けると、自分を殴るはずのこ拳は顔のすぐ横の壁を殴っていた。
「惜しいな。俺を殴れば、傷害事件に仕立てたのに」
最後の最後で坂東を殴ることが出来なかった。
彼の言う通り事件沙汰になると思い、あと少しの理性でそれを抑えた。
二人がにらみ合っている頃、ようやく三上たちがフロアに現れたのだった。

ガチャ――。
部屋が開いた音に身体を強張らせた海晴は、テーブルの影に隠れていた。
もう一度、鍵の閉まる音がして海晴はもう駄目だと思った。
テーブルの下に落ちていた携帯にも気付かれて拾い上げられる。
パタンと携帯を閉じる音が聞こえた。
足音が自分の近くに来て止まり、覚悟を決める。
「俺に電話をしてきたのはいい判断だったよ」
声を聞いて聖だとわかった海晴はホッとした。
彼が来てくれたことにすごく安心しているのに、声が出ない。
床に座り込んでいる海晴の身体は震えていた。
そんな彼女の前に座り込み、自分の上着をかけた後、そっと抱きしめる。
「もう、大丈夫だよ」
一番大好きな人の腕に包まれて、彼の顔が見たいのに。
――顔が上げられない。
「ハル……」
「――……っ」
「泣けよ。今まで堪えていただけ、たくさん」
「聖……!」
その言葉でやっと大丈夫なんだ、と思うことが出来た海晴の瞳には、あふれんばかりの涙。
聖にしがみつくと声を上げてその涙を流した。

海晴の涙が止まるまで、ずっと彼女の頭を撫でていた。
深呼吸をして息を整える彼女は話し出した。
「本当に飛んで現れてくれたね」
「だろ? こうして海晴を抱きしめられた」
「いろんな人に変な人に気をつけろって言われてたのにね。バカだね、あたし」
聖の胸に顔をうずめながら、ポツリポツリと呟く。
「そっか……」
「でもね、何もされてないよ?」
「ウソ言うなよ」
「ホントだよ。キスもされてないし。――そりゃ、イロイロと触られたけど」
「何かされてるだろーが」
「――だね」
「ぎゅーーーっ」
聖はそう言いながら、少し力を込めて海晴を抱きしめる。
「く……苦しいよ」
「あいつの感触なんてすぐに消してやる」
「聖――」
「いつでもこうしてあげられたらいいのに。こうして海晴の不安をかき消してあげたいのに。――俺はいつもそれをしてあげられない」
聖の心の底からの想いに、海晴は胸が苦しくなる。
(あたしは、あなたの想いに、応えられてる?)
聖ばかり悩ませ、負担をかけている、そんな気がしてならない。
今もこうして仕事を放り出して、海晴を助けに来たことがどんなに大変なことなのか。
(それが、嬉しくもあり、辛くもあるよ)
「――大丈夫だよ。ちゃんと、わかってる。聖があたしのコト想ってくれてるの、届いてる」
「海晴……」
「だけど――今はこうしてて」
二人はもう少しの間だけ、座り込んだまま抱き合った。