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「みなみさんは、三上さんの所へ行ってて下さい」
事務所に着いた二人は、すぐにエレベーターに乗り込んだ。
有無を言わさず翠を途中下車させた。
大方の眼星はついている聖は上を目指す。
「間に合ってくれ――!」
周囲にいる人は彼のただならぬ様子に声をかけられない。
電話のかかってきた相手、海晴の元へと急ぐ。
人通りの少ない十五階で降りると、思い当たる部屋を一つずつ調べ始める。
このフロアは会議室が続いていて、どの部署が使用するかなどの予定表が張り出されている。
さっとそれに目を通して、使われていない部屋を探し出た。
何個かのリストを頭に叩き込んで、廊下を走り出す。
記憶した番号の一つの部屋に明かりが付いていたのを見つけ、勢いよくドアを開けた。
そこにいたスタッフたちが、いきなり開いたドアとそれが聖だったことにビックリしている。
「すみません、間違いました」
ロクな挨拶もせずにすぐに聖は立ち去った。
繋がったままの携帯電話を片手にしながら、次の部屋を探す。
声が聞こえなくなっていたので、ますます不安が広がっていく。
次のドアノブに手をかけると鍵がかかっていた。
「――違うか」
誰もいないのだろうと思い次へ行こうとしたが、ふと思いとどまる。
ドアの隙間から光が漏れていた。
「くそっ……!」
何回もドアノブを動かすが、鍵が外れるわけでもない。
一息ついて、聖は辺りを見渡した。

「ちょっと三上さん!」
「どうしてここに?」
いるはずのないearlのマネージャーの姿を見て三上は驚いた。
「どうしたもこうしたもないですよ。聖が移動中に電話がかかってくるなり、いきなり事務所に戻れって言い出して・・・」
三上は聖の不可解な行動に考えを巡らせる。
「通話中なのかずっと携帯を手にしてるけど、話とかしないんですよ。変ですよね?」
「――……で、その本人は?」
「上の階の方へ行ってました」
「そう……」
聖が後先もなく行動する理由なんて一つしかない。
「――……まさか」
「え――?」
三上の呟きに翠は聞き返すが、反応がないので独り言なんだろうと思った。
受話器を手にすると、三上は内線の番号を押す。
「どうしましょう? 携帯もずっと通話中のままだし……」
「――少しだけ、待ちましょう」
「……でも」
「次の仕事の時間は?」
「余裕を持って移動していたので、まだ大丈夫です」
「きっと、あのコから連絡がくるわ」
なかなか出ない電話に少しいらつきながらも、不安になっているマネージャーを落ち着かせる。
三上は激怒すると思っていたのに、予想外な応対で翠は拍子抜けをした。
――その理由は、嫌な予感が三上の胸をよぎっていたからだった。

「いや……っ!」
海晴は壁に押し付けられながらも、必死で抵抗をする。
「こんなトコロまで付けちゃってラブラブなんだね。そういうの見てると、邪魔したくなる」
後ろから抱きついている坂東は、先日背中につけた跡がうっすらと残っているのを発見して冷やかす。
「やだ……、聖っ!」
とうとう耐え切れなくなった海晴は、彼の名を口にしてしまう。
その言葉を聞いた坂東の動きが止まる。
(しまった――!!)
明らかに動揺している表情は坂東には見えていない。
「ひじりってあのHIJIRIのコトかい?」
「――……」
「へぇー、彼のコト好きなんだ? 彼に近づきたくてバイトしてるかもしれないけど、所詮、住む世界が違うんだよ」
(違う――一緒だもん……)
坂東は二人の関係に気づくことはなかったが、現実的なことを言ってくる。
でも、ちゃんと愛されていることを感じている海晴は動じなかった。
くるっと反転させられ、二人は向き合った。
「雲の上の人より、俺の方がいいと思うけど? 結局、最後はみんなそう言ってくれたよ?」
(――……みんな?)
その言葉にあらゆる考えが浮かぶ。
(もしかして、伊東さん……)
海晴の表情でわかったのか、坂東は不敵な笑みを見せた。
「他のコはすぐその気になってくれたのになぁ」
顔をつかまれた海晴は坂東をにらみつける。
「いいねぇ。そういう顔もそそられる。次は逃さないよ――?」
今度こそキスをするつもりで坂東の顔が近づいてきた。