6-5



日付が変わろうとしていた頃、聖がゴソゴソと準備をしていた。
海晴は首をかしげてその様子を伺っている。
リビングを行ったり来たりしていた聖は急に立ち止まった。
「そっか! ハルに言ってなかったっけ??」
「ん?」
「今から一時から三時まで単発でラジオが入ってるんだよ」
「そうなんだ」
「ホラ、例の事務所の三十周年記念ラジオが年明けから週末ごとにやっててさ、今夜は俺たちの番ってワケ」
「ふーん」
(今夜も一人か――……)
一緒にいられると思っていた矢先にそんなことを言われて、気付かれないようにため息をつく。
「コラー。そんな顔するとおにーさん、仕事に行けなくなるぞ」
ソファーに座っていた海晴をうりゃーっと抱きしめる。
「どんな顔してても行かなきゃいけないクセに」
「海晴が行かないでって言えば行かないよ?」
聖は、真面目な顔でいかにも当たり前のような顔をしてあるまじきことを言う。
「そんなの……言わない」
「口ではね。心の中じゃ何度も言ってるだろ??」
「う……」
「海晴はいいコだね。俺に負担にならないように必死に頑張ってる。逆にそれが心配だよ?」
聖に覗き込まれ、心の中を見透かされそうで。
まっすぐな瞳に見つめられ、そんなことを言われると泣きそうになる。
(頑張りすぎ――?)
本当は今すぐにでも泣きつきたくて。
(行かないで。そばにいて)
そう言えたらどんなにラクになるんだろう。
不安をさらけ出したい。
だけど、そんなの無理に決まっている。
だから、そばにいてくれるだけでいい。
矛盾だらけの心にどうにかなりそうだった。
「平気だも……」
「あー、なんでこんなに頑張り屋さんかなぁ」
うっすらと涙を浮かべていたのがわかったのか、聖はますます抱きしめる。
海晴は顔が隠れている間に、せめて笑顔で見送ろうと必死に顔を作る。
聖にもそれが伝わっているのか、ポンポンと頭を撫でる。
「今回のはね、インターネットでもリアルに見れるんだ。だから、画面越しに会おう」

定番の曲と共に始まったインターネットラジオ。
earlたち三人のリアルな映像が全世界に向けて発信中。
「はい。先日からスタートしている『T-G三十周年アニバーサリーイベント第一弾、−先輩後輩関係なしに指名しよう!ラジオリレー−』」
「今日の担当はearlです」
最後のグループ名だけは朔馬と同時にあとの二人も声を合わせた。
「えー。メイン進行のSAKUMAです。インターネットラジオということなので緊張気味です。サブタイトルの方が長いのはご愛嬌ってことで」
そう言いながら自分でカメラを動かしているのか、映像が朔馬のほうにズレる。
そんなリーダーを軽く睨みながらカメラを定位置に戻して、魁の自己紹介が入る。
「KAITOでーす。カメラ好きなリーダーを持つと大変です。いつもならこのテーブルの上はぐちゃぐちゃなんですけど、今日はまだキレイ」
海晴も一視聴者となって、深夜だったのもあり軽くあくびをしながら、パソコンの前で見ていた。
「ハイ、そこの君ー。こんな時間だからって、あくびをしているといいところ見逃しちゃうぞー」
まさにそれをしていた海晴は開いた口が塞がらなかった。
「どうもー。HIJIRIでーす」
そのコメントをした聖が、一番最後に顔が映った。
カメラに向かって、ズームイン・アウトをしながら最後にイエイと親指を立てた。
(あ……)
もしかしなくても、今のは自分へ向けてくれたメッセージ。
この時間帯になると、あくびするクセも知っている。
最後に見せてくれたのも、二人の証の指輪。
(なんだかなぁー。もぅ……)
部屋には誰もいないのに、赤面してしまう顔を両手で隠した。
ラジオは彼らがT-Gに来た頃の話やデビューの裏話などで盛り上がる。
番組途中になると、視聴者からのメールやファックスを朔馬が読み上げていく。
それに対して、聖と魁が受け答えをしている。
「えー。次のメールなんですが――」
読む前にサラッと目を通したのか、朔馬は聖をチラ見する。
そんな細かな動きまでは映像には出ないので、三人は視線だけで合図をしたりしている。
もちろん、顔などをアップすれば意味はない。
「なになに。番組の始まりで、HIJIRIが言っていたセリフ通りのことをしていたので、まるで私に言われてるみたいでビックリしました!」
「HIJIRIはなんて言ってたっけ?」
「あくびしているといいところを見逃しちゃうぞ?」
魁の質問に自分も疑問系で受け答えをする聖。
「あー。こんな時間だと、あくびの一つや二つは出るよなー、うん。だけど、HIJIRIの言う通りそんなコトをしていると、イイトコロを見逃すかも」
「ホラ、こんなにも同じような人たちがいるみたい。滋賀県のリナさん、岐阜県のコトノさん――……」
朔馬が渡されたであろう、メールやファックスの束をカメラに向ける。
「ああ言ったら何人かいるかなぁって思ったんだけど、予想外に結構いるもんだね」
(違うも……、あたしにだけでしょ?)
うとうとしながらも、画面越しに愛しの彼を見つめていた。
少しするとCMに入り映像も違う画像になるので、少しの間だけearlたちは解放される。
「あのさー……、聖」
「おぅ」
「さっきのメールの件。何人かじゃなく一人に向けて、だろ??」
朔馬の鋭いツッコミが入り、魁も身体を起こして話に入ってくる。
「そーだそーだ!わざわざお前の話に乗っかってやったんだぞ」
「えー、わかっちゃった??」
「なんか、最近の聖のやることなすことが全てにおいて怪しく思えてくるな」
「そんな……ひどい」
「その通りだろうがっ! 公共の電波使って何やってんだよ」
「電波だけじゃないもーんっ」
「――……」
今回のは映像をも使ってでもあり、これはダメだ……と二人は諦める。
ここまで開き直られると、俺たちがなんとかしなければ――と思ってしまう。
あっという間にCMが終わりに近づき、すぐにearlのスイッチを入れる。 「明日の当番は俺たちの後輩の『double』でーす!――……」

―――早朝五時。
仕事が終わって、家に帰ってきた聖はそっと寝室へと入っていった。
「――あれ?」
ベットにいる気配がない。
ドアをそっと閉めて、辺りを窺う。
海晴の姿が見当たらなくて、不思議に思いながらリビングの階段を降りた。
「……あ」
ソファーではなく床暖の効いた床に直に座っていたらしい。
そして、そのまま横になって眠ってしまったようだ。
テーブルの上にあるノートパソコンの電源は自動的に落ちたようだった。
「こんな所じゃ風邪ひくぞ」
そんな聖の囁きも聞こえているわけもなく、彼女を抱きかかえる。
完全に深い眠りに入っているらしく、ピクリとも起きない。
「俺のメッセージ聞いてくれたよね? ――でも、あんなトコで寝てた罰」
自分のせいであそこにいたことは棚に上げて、聖は海晴に罰を残した。