5-7



――掴んだ手が熱くて。
その異変に気が付いた聖は、彼女の顔をあげた。
ボーーッとあらぬ方向を見ている海晴の顔は火照っていた。
「熱があるじゃないか!」
その顔を挟んで熱があることを確認する。
「はぁ!?」
三上たちも驚いて同時に声を上げてしまう。
魁を伝言板として部屋に残ってもらい、医務室へと行くとそこには誰もいなかった。
「留守なのかしら……」
三上が辺りを見渡すと、机の上にメモ書きが置いてあるのに気付き、それを読み上げる。
「今日も患者が来ないようなので先に帰ります――ですってぇ!?」
確かにもうそこそこいい時間にはなっているので、担当は先を読んで帰ったのだろう。
「……たく、これが大怪我とかだったらどうするのかしら」
毒を吐かずにはいられない三上は、そのままベットルームへと聖たちを案内した。
ベットに寝かしつけ、体温を計ると三十七度は優に越えていた。
「天咲ー。今、熱い? それとも寒い?」
「……熱い」
三上が海晴の枕元にしゃがみこみながらも優しく声をかける。
二、三回咳き込みながらもそう答えた。
もう誰と話しているのかわからないのかもしれない。
「こりゃ、ダメだ。今からどんどん熱があがるわ」
「……そうですか」
とりあえず、ベットルームから出てきた二人は今後について話し出す。
「風邪をひくようなコト、思い当たる節ある?」
「ちょっと前、雨に濡れられて帰ってきたとかー、――クリスマスの雪だとかぁ」
最後は尻すぼみになる。
「雪? 一体、何をしたのよ」
「そんなたいしたことは」
「――……」
無言の三上の視線が痛い。
「まぁ、いいわ。二人だけの秘密ってことなんでしょ? あんたを待ってたらキリがないから、今夜は私が送ることにするわよ」
「……ありがとうございます。――あと、彼女の無礼を許してくださいね?」
二重の感謝を込めて御礼をし、海晴の今後のことも考え聖が代わって三上に許しを請う。
「こんな状況で心の狭い私じゃなくってよ?」
もう帰る準備の支度なのか、髪を下ろしながら答える。
その言葉にホッと胸を撫で下ろす。
「そう言われなかったら、三上さんにどんな奉公をしようかと思ってました」
「あら? あなたがしてくれるの?」
「いえいえ、とんでもない」
三上はポケットから携帯を取り出し、リダイヤルを検索している。
「少しだけ時間をあげる。外で待ってるわ」
そう言い残し、これからの仕事の都合をつけるために電話をしに医務室を出て行った。
ドアの音に気が付き、海晴はその方向に顔を向ける。
「俺だよ」
「――ひじり……」
「やけに薄着してるなぁと思ったら、こんなコトだったのか。上に羽織ってたものあるんじゃないのか?」
「――! さっきまでいたとこに……」
「大丈夫。俺が持って帰るよ」
「気を……つけてね」
「何を――?」
海晴の言っている意味がわからない聖は聞き返してしまう。
話そうとするが咳き込んでしまって伝えられない。
「いいよ、ムリして話さなくて。うん、気をつけるよ」
「ごめ――。ひやっ」
聖は話しながら包装から取り出したものを海晴の額に貼り付ける。
「熱さまシート。世の中便利になったもんだね。これで寝返りを打っても大丈夫」
最初は冷たく感じたそれもすぐに違和感がなくなっていった。
片手を海晴の顔に添える。
「なんか俺の手が冷たいみたいだ」
そう言いながら、海晴に顔を近づけた。
「な……なにを」
「だってそんな潤んだ瞳で見上げられたら」
「そんなの知らない……」
熱が上がって少し潤んだ瞳になっていた海晴に、聖は何もせずにはいられなかった。
顔を背けたがすぐに元に戻される。
「きっと俺が帰ったら寝てると思うから、今のうちにおやすみのちゅぅ。誰もいないから安心して」
段々と顔が近づいてくる。
「風邪が――うつっちゃう……」
「いいよ、海晴のなら」
最後にそう言うと、唇を合わせた。

通路で電話をしていると、足音が聞こえたので三上は振り返った。
誰かを確認すると目で合図して、もう少し待ってくれと伝える。
彼、もとい武人が手にしているものを不思議に思う。
伝達事項が終わったのか、数分してやっと電話が終わる。
「魁から聞いて?」
「そうです」
「平山の嗅覚でここへ来たのかと思ったわ――それ、天咲の忘れ物?」
「はい。――それに、風邪をひいたらしいことを小耳に挟んで」
「以外にあなたも地獄耳なのかしら?」
「彼女に指示を出していた嶋木チーフがもらしてたんですよ。咳き込んでたって……。まさか熱があるとは思いませんでしたが」
「平山にはわからなかったの?」
三上はそれを受け取りながら、試すかのように問う。
そう言われた武人も少し考えた。
「そうなんですよねー。昔はよく気付いてたんですけど……」
「いい傾向じゃない」
「え?」
三上の言葉にきょとんとする。
「以前なら気付いていたことが今は気付かない。それは、前に比べてあのコのことが気にならなくなってきているっていう証拠」
「――……」
「あいつはすぐ気付いたわよ。まぁ、あそこまでヘたってきてたらと誰でも気付くかしら? 私にタメ口聞くくらいだったから」
さっきの海晴の状態を遠目で思い出す。
素面であんな口の利き方をしてた時には、どんな罰(仕事)をさせてやろうかと瞬時に考えた。
しかし、元から親しくない人には敬語で話してしまう傾向の海晴を不思議に思い、その考えはすぐに消えたが。
「三上さんのいうとおりなのかもしれない。俺はもう―――……」
「いいじゃない。若いんだからいっぱい恋をして人生を楽しみなさい! それとも、もう他に気になるコがいるのかしら……?」
「いや、別に、そんな」
「ハイハイ。いるのね。早く実るといいわね」
「一言もいるとは言ってないのですが」
「いーのいーの。悩むだけ悩め! 若人! あいつらもこんなに心配してくれる人がいてくれて幸せモンだね」
そう言って、ドアをノックして聖に合図を送る。
「じゃ、俺はこれで……」
「いいの? 彼女の顔を見なくても」
「そのつもりでそれを持ってきたワケじゃありませんから」
「?」
「聖さんがそれを持ち去るところを見られたらおかしいでしょ? 俺は同級生の関係を知られてるので平気ですから」
武人の意図がわかると三上は彼の肩を軽く叩いた。
「いい男なれよ、平山」
励ましの言葉をもらってすぐに武人はその場を去っていった。