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「けほっ……」
「大丈夫?」
「あ……。今、休憩?」
「……まぁ、そんなトコ」
今日のバイトは、武人のところでピンチヒッターとしてやってきている。
時々、こういうコトもあり昔のこともあって互いに気まずかった。
だが、時間が経過すると共にそのわだかまりもだいぶ薄れてきて、普通に話すことが出来だした。
武人は頭をポリポリと掻きながら、ある方向を指差す。
そこは喫煙ルームだった。
「最近は、タバコ吸う人たちも肩身狭いらしく大変らしい」
身近にいる朔馬のことを海晴は思い出し苦笑する。
「そういえば。クリスマスはどうだった?」
つい先日、終わったクリスマス。
「まぁ、それなりデス……」
「俺なんかも仕事あるくらいだから、聖さんなんて当然の如くあるだろうけど。あ、歌番組とか出てたね」
「そ、そうそう」
「――……。妖しい」
「な、何が?」
「別にぃ」
明らかに動揺した海晴を見て、武人は勝手に納得して深くは追求しなかった。
「今年は最高だったろうね。ホワイトクリスマス」
「――だね」
終業式の日から降り出した雨が続いて、そのまま雪へと変わった。
ちょうど、二十四日から二十五日にかけて。
「けほけほっ……」
「ホント、大丈夫か?」
「のどの調子が悪いだけだから」
「そうか……」
そろそろ頃合と見て、武人は海晴の側から離れて仕事に戻った。
(――なんかのどが痛くなってきたな)
さっきから少しずつのどの調子がおかしいと思い始めていた。
いつもとは違って、暖房をたっぷりと効かせた部屋だからだろうか。
あちらの方では、悠美が率先して空気の入れ替えをしている。
他のみんなは大ブーイングだが、そんなことはおかまいなし。
悠美は寒いのにめっぽう強く、他人の寒がる顔を見たいだけなのかもしれない。
でも、部屋の環境としてはその方がいいのだ。
(アメでも食べたいなぁ……せめて、飲み物プリーズ)
なんとかのどを潤したい海晴はそうしたいが、次々と与えられる仕事に息つくことなくやり続けていた。

「……あれ?」
武人がふと海晴を見たら、彼女は上着を珍しく脱いでいた。
寒がりなことをもちろん知っていた武人は不思議に思う。
暖房も入っているし、テキパキと動き回っているので暑くなったんだろう。
そう受け止めて、気にすることはなかった。
(あっついなぁ。温度上げすぎだって)
設定温度は何度にしてるんだ!?と、海晴は多少心の中でキレていた。
「天咲さん、今日はやる気満々だね」
「へ?」
「腕まくりなんかしちゃって」
「暑くないですか?」
「言われればそうかもしれないな。でも、そう思っているのは動き回っている俺たちだけだよ、きっと」
座り込んだままほとんど立ち上がることなく打ち合わせをしている武人たちのことを示唆している。
海晴に指示を出しているのは、随分前に顔を合わしたサングラスのよく似合うチーフだった。
立場上、動き回る必要性はないのだが、本人の性分で部下たちの手伝いをよくしていた。
海晴も最初は戸惑っていたが、仕事をしながら他愛もない話をしながらだったので、時間が過ぎるのが早かった。
「うちの聖とはその後もうまくいってるかい?」
「えぇ――?」
いきなりこそっとそんなことを言われ驚愕する。
(なんでそんなコト知ってるんだろ……?)
なるべく顔には出さないようにしていたが、チーフに苦笑される。
「いつだったか、打ち合わせ中にヤツに用事があってきたことあっただろ? 見てすぐにわかったよ。付き合ってんだなぁコイツらっとな」
ニヤリと笑う四十代後半の男がいた。
海晴は返す言葉がなく……というか、言葉が見つからず黙り込んでしまう。
「大丈夫だって。ヤツにも俺だけの秘密と言ってやったから」
彼女の立場を考え、そうやってフォローを入れる。
それでやっと警戒心が解けた海晴はホッとする。
「そう――ですよね。気をつけてはいるんですけどね」
「あいつがいくら演技でカバーしてても、キミがそうだといつか困る日がくるよ」
「――ハイ」
図星を指されてどうしようもなくなった海晴はシュンとしてしまう。
「ヤツも身内だからといって気を抜いていると、快く思っていない人間にバラされるぞ――と、コレは本人に言わないとな」
「――伝えておきます」
「じゃ、彼女さんに頼みます! あと、少しでここでの仕事も終わるから頑張れ」
そう促され海晴はまた仕事をするため、チーフから離れていった。
「後は、よからぬ人間があのコに手を出さなきゃいいんだけどな。――そう言う俺も今のを見てカワイイと思ってしまったが。――いかんいかん、”いいオジサン”で止めておかないと」
一人でボケとツッコミをしたチーフは海晴と同じくらいの歳の娘のため、家族のために仕事を再開した。

「―――っ!? でさぁー」
ガシッ!!
衝撃を受けた聖は言葉を詰まらせながらも、会話を続けようとしていた。
「ってオイ! 何もなかったフリなんかすんなよっ」
「さっさとその腰ぎんちゃくを元に戻してきてらっしゃい!」
魁と三上が同時に声を上げた理由は――。
聖の身体にくっついていたのは、こっちへ戻ってきた海晴だった。
部屋に入ってきて聖の姿を発見すると、一直線に立ち話をしていた彼にしがみついていた。
それを誰かを確認した聖は何事もなかったかのように、話をそのまま続けようとしたが失敗した。
あっちよ、あっち!と海晴が元いた場所の方向を三上が指差しする。
「そんな拾ってきた猫じゃあるまいし、――なぁ、ハル?」
「――……」
「まだ仕事中でしょうが!」
「終わったもっ――!」
顔を聖に引っ付けたまま、三上にそう告げる。
その返答の仕方に他の二人が驚いた。
三上にそんな口の利き方をするのはそういないのだ。
それを言われた三上だが、珍しく顔色が変わっていない。
が、聖と魁はそれに気付かず、この場をどうやって収めようかと考える。
「海晴ちゃーん。ボクもこうしていたいのは山々なんだけど、あの二人が目のやり場に困るからって言うからさぁ―――」
「そうそう」
魁もその場を和らげようと、言ってもいない言葉に賛同する。
聖は自分にしがみついている海晴の手を解いた。
「――ハル??」