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もう一度インターホンが鳴り、マネージャーが部屋の前までたどり着いたことがわかる。
聖は玄関のドアノブに手をかけたときに、何気なく辺りを見渡した。
「……あぁ!」
足元を見れば当然の如く、海晴の靴がそこにあることに気付き、すぐに備え付けのシューズボックスに入れた。
鍵のロックを外し、寒い中待っていたマネージャーを家に招き入れる。
「お待たせしました」
「酔いつぶれてるかと思ったのに、意外に平然としてるのね」
「そりゃ、みなみさんが家にくるとなれば、酔いもさめますよ」
「なんか私が来たらマズイ様な言い方ね」
「そんなコトないですよ」
リビングに案内をして、ソファーに座ってもらうことにした。
「以外に綺麗にしているのね。もしかして、部屋を片付けていたのかしら??」
クスっと笑いながらそんなことを言われる。
ソファーに落ち着いて座ることが出来ない聖は立ったままである。
「というか、最近はここに寝に帰ってきているだけの状況でしたからね」
「――それもそうね。やっと、少しは落ち着けるんじゃない?」
「……そうですね」
「あら、こんな時間なのにカーテン閉めないの? 無用心だわ」
マネージャーがそう言いながら、立ち上がって自ら閉めに行こうとする。
「俺がします! 俺がっ! みなみさんはお客なんだから座っててください」
何故か聖があわててそれを制して、バルコニーへと続く窓へと向かう。
少しだけ外を眺めながら、軽くカーテンを閉める。
「なにか暖かいものでも入れますね」

一方、海晴の状況といえば。
「……っくしゅ――寒い……自分で言ったものの大失敗だ」
何故寒いのかというと。
そこは、バルコニーだったのだ。
他の部屋だと、もしかしたら覗くかもしれないので、とっさに目に付いたここを選んだ。
もう少し冷静に考えれば、クローゼットの中でもよかったのではと後悔をする。
しかも、この寒い冬の時期でなんの防寒具もつけずに外に出てしまった。
こうなると、マネージャーが早く帰ることを祈るのみである。
さっき、聖が窓際に来て謝罪の眼をしながらカーテンを閉めた。
これで少しは落ち着けるものの、自分の体力がどこまでもつかが問題である。
「うーーー」
海晴は自分の身体をこすって暖めていた。
「窓一つ隔てた先は暖かいのに……」
じとーっとカーテンで遮断された窓を見つめる。

「よし。これでお宅訪問も終了。ゴメンね、こんな時間に……」
「いいえ。みなみさん以外だったら無視してましたが」
多少の嫌味を込めながらそう返事をする。
「あとの二人も同じコトしなきゃ。聖だけだと不公平よね」
「そうですよ。抜き打ちでしてくださいよ?」
「はいはい。じゃあ、明日ね」
エレベーター前まで送ろうとしたが彼女に制されたので、聖は玄関先で見送る。
マネージャーの姿がなくなった途端、踵を返してリビングに戻った。
「ゴメン。待たせた」
「聖……」
バルコニーにいた海晴に自分の上着とさっき一緒に入れた紅茶を差し出す。
海晴がそれを受け取ったのを確認すると、聖は彼女を後ろから抱きしめる。
「こんなに冷たくなるまで――ゴメン」
「大丈夫だって。なんとかは風邪ひかないって言うじゃない」
「ハルはそのなんとかなのか??」
「――……」
自分で言ったものの、逆に突っ込まれるとはっきりと断言はしたくなかった。
「俺に気を遣わなくていいよ? こうなったのは俺の都合なんだから」
「聖のバーカ」
「ホントに俺はバカです。愛しのハニーをこんな所に放り出すとはダーリン失格です」
カーテンを閉める時に、すごくためらいがあった。
こんな薄い布で、海晴だけが一人別の世界にいるようで。
聖は早くマネージャーに打ち明けようとそう思った。
「ぎゅってしたら、許してあげる」
海晴が健気にもそんなことを言うからますます心に誓う。
「じゃ、その前に中に入ろう」
「ダメ」
「どーして?」
「中に入ったら、きっと、それ以上のコトするに決まってるも……」
「決まってる」
聖は海晴には見えないが、真顔でそう答える。
それを見なくても海晴には十分わかっているようだった。
「今はしんみりと夜景を眺めたい気分なの」
することがなかったので、夜景をずっと見ていた海晴はもうちょっと見ていたいと思い始めた頃に聖が現れたのだ。
海晴の気分を読み取ったのか、話すことをやめようとした。
「じゃあ、俺は黙ってホッカイロになっておこう」
「ダメだよ。すれ違いの時間だけ、今、話してよ――」

二学期の終業式の日。
下校時間になった頃に、雨が降り始めた。
生徒たちはどうしようかと帰りの手段を相談していた。
もちろん、その中にも海晴はいる。
「茶美はどうする?」
「母に電話して迎えに来てもらおうか」
そう言いながら、携帯を使って自宅へと連絡をする。
なかなか話し出さないところ見ると、どうやら不在のようだった。
「――そうだった。この時間はまだ仕事中」
いつもは学校が終わるのは夕方だけど、今日は昼前に終わっている。
茶美の母親は昼すぎまで仕事をしているので、まだ自宅には帰っていなかった。
「そかー。コンビニで傘を買うしかないか」
「そうだね」
学校の近くにあるコンビニに寄ると、そこにはすでにビニール傘は売り切れていた。
「――他の人も同じコトを考えるってか」
「――だね」
海晴と茶美は互いに顔を合わせ苦笑する。
あとの手段といえば。
「……走るのみ?」
「今日で最後なのに最悪だね」
「明日からの休みのため、頑張るしかないぞ」
空を見上げて、止みそうにない天気に二人は毒づく。
走って帰れば十五分くらいの距離を、雨の中走り出した。
「雨も滴るいい女ってトコかしらぁー」
「茶美って前向きー」
カバンで頭を隠し茶美に突っ込みをしながら、家路に着いたのだった。