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酔っていても、自分の携帯だというのがわかるのか、ポケットに手を当てて探している。
やっと取り出したものの、通話ボタンを押す手が定まらない。
「はい」
海晴が代わりにボタンを押してあげた。
電話に出ながらも、近づいていた海晴をそのまま腕の中に抱きしめた。
「もひもひ?」
ここまでくると酔っているのかどうかも妖しくなってきた海晴だが、電話中なので口を閉じている。
「みなみさん? もー。心配しなくてもちゃんと家に着きましたよ」
(みなみさんって誰よっ!?)
自分を抱きしめているのに、他の女の名前を口走る聖にムッとくる。
「俺だっていい加減大人なんですから、わきまえて飲んでますよぉ……はい。わかってますよ……」
電話に集中していると思っていた聖の手が、海晴の脇腹をくすぐる。
「きゃ――……っ!」
「何なの!? 今の声はっ!」
電話の相手の声のボリュームが上がったので、側にいた海晴にも聞こえる。
「やだなぁーTVですよ、テ・レ・ビ」
慌てて片手で自分の口を押さえた。
どうやら、電話の相手には自分の存在が知られてはいけないようだった。
聖の行動に身構えていたが、それ以降は何事もなかったのでホッと一安心をする。
数分話して通話を切った聖は、電源の長押しをして電源を切った。
それをベットサイドに置くと、海晴に向き直る。
「んで、何してたっけ?」
「――……」
「! そうそう、おかえりのちゅうー」
また、キスをされそうになる。
――が。
「酔った勢いのキスなんていらない。それにさっきの電話の相手誰?」
力では到底勝てないが、それでも彼を押しのけてみる。
「電話――? 彼女、マネージャーだよ?」
「この間会った時、男の人だったじゃない」
「最近、変わったんだ」
「――……」
「本当だって」
じとーっと見つめる彼女をなだめようと頭を撫でている。
「じゃあ、なんで今日はキスしてくれるの?」
聞かないつもりだったが、その場の勢いで問い詰めてしまった。
「やっぱり気になってたよな」
トローンとしていた聖の瞳が、いつもの優しい眼差しに変わる。
「ラブストーリーの上、向こうといる時間が長いのに、海晴にそんなコトできないだろ? だから、この日を待ってた」
「酔っている人の言うことなんて聞かないも……」
「聞いてくださいっ」
「ヤダ……」
「海晴が納得するまで何度でも言うよ」
聖を押しのけている彼女の手を捕まえ、指を絡ませる。
「ずっと海晴とこうしたかった」
抱き寄せられて、キスをして。
何ヶ月かぶりの甘い抱擁。
「ぅ・・・タバコ臭い」
キスの合間に海晴は呟く。
聖が実際に吸っているわけではないが、周囲の人間が吸っていたためにその香りを纏っていた。
「今日はカンベンして。俺とのキスはほろ苦いとかみんなに言うのナシだよ?」
「言うも……」
「ウソを伝えちゃダメだよ。……こんなに甘々なのに」
「――……んっ」
さっきよりさらに深い口付けをする。
「やっと海晴と独占してイチャつける。相手が女の人であろうと海晴が間接キスなんてイヤだし」
「――……はぃ?」
「俺が女優さんとキスをして、そして海晴ともキスをして――そうなるだろ?」
「そうだけど――」
「だから、ずっとハグだけで耐えてきたんだ」
「じゃぁ、聖が恋愛ドラマに出演してる時は、ナニもできないね?」
海晴が挑戦的な瞳で聖を見上げる。
「コラ。言うようになったじゃないかぁー」
そのまま勢いよくベットに押し倒す。
「うっ、重い……」
「興奮したら酔いが回ってきた……」
(やっぱり酔ったフリだったんだ)
自分の上にぐてっとなっている彼を抱き返す。
「いいコはおとなしくしてなさい」
「うわーん……」
珍しく海晴のほうが聖の頭を子供をあやすようになでる。
その心地良さとお酒が入った心地良さが相乗効果で眠りを誘う。
「ホントに寝ちゃうかな」
寝て欲しかったようなそうでないような気分だった海晴。
「――……」
(……あれ?)
もう一度しっかりと彼を抱きしめ返すと、不思議に思った。
海晴がそんなことを考えていると、インターホンが鳴り響く。
その音にむくっと聖は起き上がった。
そして、何事もなかったかのように海晴に覆いかぶさる。
「ま……待った」
「ハル……」
「ぁ――」
耳元をくすぐられながら、ドキッとしてしまう。
ピンポーン、ピンポーン――
今夜の来客は諦めることなく、インターホンを鳴らし続ける。
「出ないと……」
「こんな時間に来る人なんか知るかよ……」
そう言いながらも、海晴に戯れる。
それでも続くチャイムに聖は仕方なくインターホンに出ることにした。
画面に映った人物に顔色が変わる。
そして、海晴のところへ戻ってくると、彼女の肩をガシッと掴んだ。
「ヤバイ、ヤバいぞ!」
「誰だったの?」
訳がわからないまま、聖に身体を揺さぶられている。
「マネージャーだよ。みなみさん!」
聖は腕を組んで、リビングに出てせわしなくウロウロする。
そこに来た海晴はソファーに座る。
「まだハルのこと知らないんだよ」
「だから、さっき……」
「そう。だから――」
「どっかに隠れよっか」
海晴が考えて指差した方向を二人で見る。
「大丈夫か?」
「でも、他の所じゃバレそうだし……」
「ゴメン。すぐに帰ってもらうから」
海晴は頷くと指差した場所へと身を隠すことにした。