5-3



「…見た?」
休み明けの学校の休憩時間、茶美が遠慮がちにも声をかけてきた。
「その後にリアルタイムに本人と顔を合わせたよ……あーゆー時に限って早く帰ってくるもんだね」
「うは! なかなかない体験ー」
「あのね!」
「ウソウソ。やっぱイヤだよね――?」
茶化していた茶美も、海晴の心境を察して真面目に聞いてみる。
「いいの! あたしにはコレがあるんだもん」
カバンから取り出したMDウォークマンを見せびらかす。
「何が入ってるの?」
「内緒ー」
「とか、言いながらヘコんでる気がするんですけど」
言葉とは裏腹に机に伏せていたので、そう言われても仕方がなかった。
「くすん……」
「よしよし」
暖房が効いている教室は、ほとんどの生徒たちがざわついている。
その中で、二人には沈黙が訪れた。
茶美は机にひじを突いて、ボーっと前を見ている。
そんな彼女に海晴は顔だけを向けた。
「一応ね。割り切ってはいるんだよ」
「えらい」
茶美は視線だけを海晴に向ける。
「でもね――」
「ん?」
「――……てくれないの」
「?」
あまりにも小さく呟いたので、聞き取れなかった。
茶美は身体ごと海晴に向けもう一度聞いてみる。
そんな彼女の真剣な眼差しにますます言いづらくなる。
「キス、してくれない」
「――……」
はぁとわざとらしいため息をついて、元の体勢に戻る。
「あのねぇ、彼氏のいないあたしにそんなコトを聞かれてもねぇ――……っ!」
茶美の異変に気付いた海晴は顔を上げる。
「ちょうどいいのがいるじゃない」
「はぁ?」
「恋する乙女の味方の参上よ」
休憩時間がそろそろ終わりなのか、席に戻ってきた涼がいた。
「とうとう天咲の恋バナか!?」
「え――っ! いや、あの……」
海晴の恋愛相談とわかると、涼は喜んで席に座った。
「何聞いてんの?」
「コレは誰にも聞かせないの!」
顔を上げていた海晴のイヤホンを取ろうとするが、本人に止められた。
涼の手からそれを奪い取ると、すぐにカバンの中に戻した。
「そう言われると、余計に気になるよな。なー?」
「なー?」
話を振られた茶美も同感していたのか、同じ反応をした。
「教えられませんっ!」
「ケチ」
かたくなに譲らない海晴のコメントに、見事に二人の言葉が重なった。
「で。肝心の恋バナは?」
「んーと……。――ホラ、先生来たよ」
「またまたぁーまだ、チャイム鳴って――」
とりあえず、教卓のほうを振り返った涼は唖然とした。
チャイムも鳴っていないのに、教科担当が既にスタンバイしていたのだ。
「てか、早っ!」
涼は立ち上がってリアクションすると、周囲にいた生徒たちがクスクス笑った。

十二月も中旬になり、冬休み間近のある日。
例のドラマも残すところ最終回のみとなった。
いつもにない物音がしたので、海晴は気になってそちらへ向かう。
玄関に向かうドアを開けると、そこに倒れこんでいる聖がいた。
「ど、どうしたの!?」
慌てて近寄ったものの、すぐに後悔をすることになる。
(お酒とタバコ臭いテ……)
日頃にない香りを感じて、戸惑ってしまう。
「やーーっとさぁ、ドラマもクランクアップしてさぁ。打ち上げだったのはいいけど、ここぞとばかりに飲まされた……」
「どうやって帰ってきたの?」
「マネージャーに下まで送ってもらった」
「なら、ここまで送ってもらえばよかったのに」
「そこまで情けないことはできません」
「とか言っちゃって。今、そこから立ち上がることできる?」
「……」
返す言葉がないのか、返事をすることができないのか。
うーん……と唸っている聖をどうしようかと思う。
近くに座り込んで、彼を見つめてみた。
彼の手が何かを探していた風だったので、とりあえず自分の手を差し出してみた。
それが正解だったのか、きゅうっと手を握り返してくれた。
それを見て海晴は顔がほころんでしまうが、場所が場所なだけに我に返る。
「ここ玄関だし、中に入ろ」
聖の腕を掴んで立ち上がらせようとするが、力の抜けた彼の身体は重たかった。
ふらつきながらも聖を運んだいたつもりなのに。
――そのはずなのに。
「な……なんで、ベットの上――っ!」
玄関からリビングのドアを開けてすぐに寝室がある。
その部屋のドアはなぜかいつも開け放たれている。
最初の頃は海晴はちゃんと閉めていたものの、慣れからか聖と同じことをするようになっていた。
今夜の場合は、それが仇となる。
(実は酔っ払ってないんじゃないの……?)
何故かベットに一緒に倒れ込んだ海晴は、くてっとしている聖を睨む。
そんな彼は眉間にしわを寄せながら何かに耐えているようだった。
お酒を飲んだことのない海晴にはわからない何かがあるらしい。
「だ――大丈夫? 水でも飲む?」
ベットに横たわったまま、返事はない。
すると、いきなりガバッと聖が起き上がったので、思わずビクッとしてしまう。
「な――なに?」
「ただいまのちゅうしてなかった」
今までしてなかったのに、どうして今夜はするのだろう。
しかも、酔っ払っているということが気になる。
そう思うのに、彼のほうから言ってくれたことに反論できない。
(ズルイ……)
そのまま、自分の顔に両手を添えられて成すがままになる。
――寸前のところで、携帯電話が鳴り始めた。