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数日に分けて見たドラマもついに今週の回まで辿り着いた。
次回予告の前にストップしたものの、三回くらいしか残っていないのでそろそろ主役の二人の親密度も上がってきている。
ドラマを見ているときはそんなに気にはならないものの、現実に戻った時に虚しくなる。
演技なのだから、と心に言い聞かせる。
だけど、ある事を思い出した。
『共演をきっかけに付き合い始めました』
熱愛報道などでよく耳にする言葉。
演技だったのがそのまま現実に引きずって恋してしまう。
周りから聞いた話では、聖もそうやって話題にあがったことがあるとかないとか……。
単に共演者のよしみで食事をしただけらしいけど、周りがそう受け止めてくれるとは限らない。
(最近、イチャついてないけど――でもでも、ちゃんとあたしのこと想ってくれてるのわかってるも……)
そして、今夜もやっぱりふて寝行き直行便。
夜中に帰ってきた聖は、彼女が起きないようにベットに忍び込む。
少しだけ寝顔を眺めていると、海晴の手が聖の腕に絡んできた。
「聖……」
「……」
一瞬起きているのかと思って、返事をしようとしたが思いとどまる。
どう考えてもそんな風には見えなくて、無意識に口走ったようだった。
そんな海晴を思いっきり抱きしめたいところだけど、頭を撫でるだけで抑える。
「夢の中で俺とイチャついてるのか? 羨ましいなー、夢の中の俺」
そうぼやきながら、きゅっと掴んでいる海晴の手を離そうとするが以外に力がこもっていて逆に起こしてしまいそうだった。
「仕方ないなぁー……」
最初の頃は物音や今見たいなことをされると起きていた彼女も、この生活に慣れてきたのか、起きることが少なくなってきた。
夜遅い時は起きてくれて嬉しいような悲しいような。
「昨日みたいにプンプン怒られられてもなぁ……」
多少の葛藤はあったものの、結局そのままにしておいて逆に自分の方に引き寄せた。
「――これで許してネ」
軽く頭にキスをして、添い寝状態で眠りにつくことにした。

金曜日の夜。
(明日はバイトかぁー……)
最近は事務所にいたとしても、聖と会える確率は低くなってきている。
(別にそんな理由でバイト続けてるわけでもないけど――でも、ココにいるよりは確実に話すコトができると思う)
床暖に空調が整っているリビングは、だんだんと寒くなってきた季節には居心地がとてもよかった。
だけど、海晴が一人で暮らすには広すぎる家を見渡す。
今まで一人で家にいることがあまりなく、常に誰かが家のどこかにいた。
仲が良くても悪くても、家に誰かがいるということは、多少なりとも安心だった。
もちろん、このマンションのセキュリティーはちゃんとしてあるし、そういう方面では安心である。
こうたて続きに夜遅くまたは朝方に帰られると、不安な気持ちになってくる。
自分が寝ている間に帰ってきて、起きる前にいなくなっていることが時々あった。
(ホント、不規則な仕事だね……。こんなに近くに居るのに、顔が見れないなんて――寂しいな)
心の中ではそう思っても、きっと本人には伝えられないだろう。
「なんかヘコんできた……」
聖のことはなるべく考えないようにしてたものの、一度考え始めるといろいろなことを考えてしまう。
――何故なら。
つい先程、聖の出ていたドラマを見終えたからだ。
主役二人の気持ちも通じ合って、最終回に向けてのラストスパートに入ってきた。
(りっぱな濡れ場だったコト……。てか、女優が頑張ったぞみたいな)
ベットシーンに対してぶつぶつと物申していると、そのご本人が早く帰宅してきたらしい。
玄関で物音がした後、リビングのドアが開いた。
「おかえり」
何日かぶりの挨拶と、彼の顔を見てソファーから立ち上がる。
「ただいま」
「今日は早かったんだね。こんな時間だと小腹が空かない? あたしもおなかが空いたから、なんか作ろっか??」
「んー……、うん。頼むよ」
海晴の質問に、軽く悩みながら微笑んで承諾をする。

ラフな格好になった聖の目の前に、出来立ての夜食が置かれた。
「ゴメンね、こんなモノで……」
「大丈夫だよ。ちょうど食べきれるサイズで」
そう話した後、なぜか二人は黙々と夜食を食べる。
(何――話したらいいんだろ……)
なんだか久しぶりすぎて、緊張してしまう。
ほとんど会話らしい会話もなく、食べ終えてしまう。
海晴が台所からリビングに戻ってくると、聖はTVの前にしゃがみこんでいた。
ワンテンポ遅れてから、海晴はハッとする。
(あぁぁ!!DVD入れっぱなしだった!!)
悠美から借りていたものをDVDレコーダーから取り出すのを忘れていたのだ。
慌てて近づいてみたものの、既に遅し。
「へぇ、ハルも見てたんだ。これからすると、悠美ちゃんの仕業かな?」
DVDのプリントを見て、聖はそう判断した。
事務所用に残すために、悠美のオリジナルでDVDを印刷しているのだ。
「――成り行き上」
「そっか。――見たくないなら、無理して見ないでいいよ」
「べ、別に、無理してるわけじゃないけど……」
海晴は何故かゴニョゴニョと言葉を濁す。
DVDをケースにしまい、聖は立ち上がる。
「寂しくなったら、アレを思い出して」
「アレ――?」
聖は海晴に近づいて耳元で囁く。
それを聞いた彼女はドキッとしてしまう。
そして、頬に軽くキスをした聖はそのままリビングを去っていく。
『あの歌が俺の気持ち』
囁かれた言葉を思い出す。
(そう言ってくれても、キスしてくれないんだ……)
心の中の呟きは、当然彼には届かない。
海晴は前にもらったMDを探しすことにした。
その中に、あの歌が――『dearest』が録音されている。
ギターにのせて聖の声だけが入っている世界に一つだけのMD。
ここに戻ってきた時に、聖から直接手渡された。
家から持ってきていたMDウォークマンを使って、それを聞くことにする。
これをもらった時のことを思い出して、涙がこみ上げてきた。
(あの時も、こうやって泣いちゃったんだっけ……)
ベットの上にポツンと座ってリピートして聞いていると、聖が現れた。
ちょうど曲の切れ目だったので、イヤホンを外して海晴は立ち上がる。
「ねぇ、聖」
「ん、なんだ?」
「ギュってして」
「――……」
「お願い。それをしてくれるだけでいいから」
聖は少し困った顔をして、すぐに微笑んでくれた。
「こっちおいで」
差し伸べられた手を取ると、海晴は聖の腕の中に抱きしめられる。
お風呂上りでいつもより少し体温の高い聖に包まれながら、あの歌を思い浮かべた。
(聖がどう考えているのかわからないけど――あたしはここにいる)
最後に少しだけ強く抱きしめられた後、聖は離れた。
「ギュっはこれでおしまい」
「へへ……。ありがと」
少し照れながらお礼を言うと、海晴はその場を去っていった。
「海晴。ゴメンな」
彼女の背中を見ながら、聖はそっとつぶやいた……。