5-1



聖のところに戻ってきてからというもの、何事もなく生活を送っていた。
ここ数週間、すれ違いの生活が続いている。
ヒドイ時は、海晴より遅く帰ってきて、彼女よりも早く起きて家を出て行く。
そんな事情で互いに気を遣って寝起きをしている。
(ケンカもしてないのにー……)
今夜も一人でベットに入る海晴。
ちょっと寂しくなってきたので、聖の枕を抱きしめているといつの間にか眠ってしまった。
数時間後、聖が音を立てないように帰ってきた。
さり気なく寝室を覗き、それを見て軽く微笑む。
お風呂から上がって身体が冷えないうちに布団にもぐりこもうとした。
「あれ――?」
そっと布団をめくると、海晴が犯人ということに気付く。
自分はちゃっかりと枕を使って寝ている。
「俺に寝るなっていうことなのか……?」
どうしようか、と腕組みをしてゲストルームから枕を持ってきてそれがあった場所に置いてポムポムっと叩く。
「これでよし」
布団の中に潜り込んだ聖は、疲れた身体を休めるためにすぐに眠りについてしまった。

――次の朝。
ふと目が覚めると、すぐ目の前に聖の姿が目に入る。
自分は寝る前と同じ状態で、聖の枕元を見ると他の枕で寝ている。
手にしていた枕を聖の顔にバフっと押し当てる。
「どっから持ってきたのよぉー」
元から起きていたのか、聖はすぐに枕を奪い返す。
「枕がないと寝られないって知ってるだろ??」
「だから、あたしがこうやって持ってたの」
「……起こしちゃ悪いだろ?」
海晴の寝癖を撫でながらうとうとしている。
「起こして欲しかったの! ……聖の代わりにコレで慰めてたあたしを可哀想だと思わなぃ?」
「――慰めてた? ……やらしぃ」
互いに眠いので、会話がスローテンポ。
聖が言った意味をワンテンポ遅れて反応する。
「違うも……聖のばぁかー」
聖が抱えている枕越しに叩く。
その手を聖が掴み、互いに見つめ合う。
(――キス??)
そう思って目を閉じる。
すると――おでこにキス。
「そろそろ起きるか」
時間は早朝六時、今朝も早くから仕事らしい。
もう少し時間がある海晴はまた布団の中にモゾモゾと潜る。
「二度寝すると寝坊するぞ」
「だいじょーぶ」
(キス――して欲しかったのに)
ちょっとふてくされながら、自分が起きる時間までもう一度寝ることにした。
一時間後に鳴り出した携帯のアラームの最後のリピートが鳴り止む。
海晴はそれに気づいているものの、起きる気配なし。
すると、数分後にピピ!!と大音量で鳴り出した音にガバッと起き上がる。
「っ……!?」
音を頼りに近づいてみると、リビングのテーブルの上に目覚まし時計がセットしてあった。
すぐに止めて、そこに置いてあったメモ書きに目を通す。
『遅刻しちゃダメだよ?』
たった一行だけど、タイミングといい海晴のことをわかってくれている。
「遅刻しないも……」

週末限定のバイトは、朝から晩までみっちりとある。
ようやく慣れたバイトに、最初のころはちょくちょく顔を出していた聖も最近は現れなくなった。
その前に、事務所自体にいないからだった。
今は三人とも単独で仕事をしていると悠美は語っていた。
中でも聖はみっちり三ヶ月間、ドラマの撮影中で大忙し。
「海晴ちゃんってば、今期の話題のドラマ見てないのね!?」
当然、聖のドラマの話になってそれを見ていないことを告げると、悠美はとても驚いた。
(だって聞いた話じゃベタベタな恋愛話らしいし……)
いくら演技とはいえ、他の女の人とのラブシーンなんて見たくない。
逆に演技だからと割り切らなくてはいけない。
そんな海晴の心の葛藤を知ってか知らずか。
「もうそろそろ佳境にはいるのよねぇー」
うふふ……と不気味な笑いをしている悠美。
「久しぶりのドラマの上、結構話題にされているから、真剣そのものよ。帰りまでに、DVDに焼いておくから見てあげたら?」
「――ありがとうございます」
海晴は渋々お礼を言った。
「前の恋愛モノのドラマとは比べ物にならないわ。これも誰かさんのお・か・げ」
それには返事をせず、ただ黙々と与えられた仕事を続けていった。

その日はなんとなくドラマを見る気がせず、聖の目の届かない場所にDVDを隠した。
週末にあるドラマは、休み明けの友達同士の再会のネタで話が盛り上がる。
クラスの女生徒たちが、その話題のドラマを話しているのが海晴の耳に入る。
思わず聞き耳を立てていると、とんでもないことが聞こえてきた。
「見たー? 運命の輪」
「見た見た! もう、やっとーーってカンジよね」
「そうそう。しかも、今週は……」
「だよね! 予告じゃかなりキワどいところまで――」
「――はる。海晴ってばっ!」
すぐ隣にいた茶美がさっきからずっと話しかけていたようだった。
我に返った海晴の様子を見て、茶美はやっと話すことが出来る。
「茶美は見てる? あのドラマ」
「……あのドラマ? 一応、ね」
海晴が言っていることがわからなかった茶美だけど、彼女がドラマで気にすることなんてただ一つ。
「ふーん……」
「見てないの?」
「見てないけど――バイトの時に録りだめしたモノを手渡されちゃってね」
「じゃあ、今から一話目? ……でも、次の話――」
「ん?」
「……いや、なんでもない」
さっきの彼女たちといい、茶美といい、曖昧な表現しかしてくれない。
その後、チャイムが鳴って授業が始まった。

(なんかあんな言い回しされたら、見る気なかったとしても気になるんですけど)
先日手渡されたDVDとにらめっこしている。
それには悠美が作ったであろうDVDの印刷を見て、あの人らしいなと思う。
さらに彼女の感想がメモ書きで入っていた。
聖がいない日は実家に帰って夕食を済ます彼女。
今日はそんなに見たいテレビ番組もなく、聖の帰りも遅いだろうしコレを見る時間はたっぷりとある。
(かなりキワどいところまで、次の話……。そんなコト奥深くまで聞かなくてもわかってる。だって、恋愛ドラマなんだもん)
そう思いながら、DVDレコーダーの電源を入れて、DVDを中に入れる。
あとは、再生ボタンを押せばドラマ開始。
ゆっくりと再生が始まりかけた時、玄関先で物音がした。
「ひ――聖!?」
あわてて停止ボタンを押して、電源を切る。
こういう時、HDD付きのレコーダーは電源が切れるまで時間がかかる。
(早く、はやくーー)
テーブルの上にあったケースが目に入り、ソファーの下に投げ入れる。
電源が完全に落ちた後に、聖がリビングに入ってきた。
「お……おかえり。今日、早いんだね」
「ただいま。っていっても、またすぐに行かなきゃいけないんだけどさ」
本当にそんなに時間がなかったようで、三十分くらいたつとまた家を出て行った。
くしゃくしゃっと海晴の頭を撫でる。
まるで彼女の様子を見に帰ったかのように。
先に寝てていいよって言ってたから、今夜も帰りが遅いということが判明した。
今度こそゆっくりと見れる、と忘れる前にソファーの下からケースを取り出す。
『運命の輪』
主役の二人が出逢った場所は、合コン。
互いに人数合わせという立場で、そして運命の出会いになる。
しかし、二人とも親しくしている人がいて……。
そこから話は始まっていく――。