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放送でイベントの内容が発表される。
「ちょっと! さっきの二人どっちに行った!?」
「あっちに行ったと思うんだけど――」
数分前に聖と海晴の姿を見かけた女子生徒たちは周囲に調査をしながら二人を追いかける。
earlファンたちが一斉に三人の捜索を始めた。

海晴と聖は人気のない校舎に辿り着く。
息を整えながら、教室に入る。
「ここね、旧校舎だからそんなに人が来ないと思う」
二人は同時にため息をつく。
久しぶりに二人きりだな――とお互いに感じたのかもしれない。
そのまま話さずに二人は座り込んだ。
すると、遠くから足音が聞こえてくる。
「おい、どこでサボるかぁ」
「適当なところでいいんじゃないのか?」
「うわ!?」
海晴たちが入ってきたドアの反対側のドアが開いた。
しかし、男子生徒の叫び声と共にそれはすぐに音を立てて閉まる。
「おい、どうしたんだよ」
「い、いいから、別の教室に行こうぜ」
「なんなんだよ……」
友人の不可解な行動に文句を言いながらも、仕方なくその場を去って行った。
聖を隠すためにとっさにしがみついたのが、彼らには恋人たちの密会だと思ったらしい。
海晴が身体を張って隠したために、彼らには相手が男子生徒ではないことはばれなかったようだ。
自分の行動を恥じるかのように、すぐに聖から離れる。
「他の二人だったとしても、こうやって同じ様にその小さな身体で隠してくれた?」
「そ――それは……」
聖は海晴の左手を取り、薬指にキス。
その指から直結に心臓がドキリと音を立てる。
そうやって見つめられたら、もう逃げられない。
二人は引き寄せられるかのようにキスをした。
深く重ねられた唇の隙間から、柔らかな舌が忍び込んでくる。
聖の手が海晴の頭を捕まえて逃がさない。
「ん……っ」
思わず声が漏れてしまう。
海晴が息をしようとすると、その隙を狙って更に深く口づけされる。
十分に堪能したキスは、透明な糸を引いて離れた。
「怒らないの?」
聖と離れた海晴は涙ぐんでいる。
そんな彼女の両手を片手で掴み、壁に押し付けた。
もう片方の手は短いスカートから剥き出しになっている脚を触れる。
「や……ここ学校なのに――……っ」
「怒らないわけないだろ」
言っていることとは裏腹にしてることは甘美な行為だ。
確実に海晴のウイークポイントを攻め立てる。
「さっきみたいに、誰か来たら――」
「人気がないほうを選んだのは、キミだろ? さっきのはイレギュラーだったろうけど。第一、二人きりになるということは、こうなると思わなかった?」
クスリと笑うとその手はジャケットに伸びる。
少しずつ制服を乱されていく海晴は、両手を塞がれているので抵抗らしいことができない。
「他のコだったとしても、こんなことするの?」
「どうだろうね。俺がキミを選んだのは偶然だよ。そして、『こんなこと』をしているのも――キミが誘ってきたんだ」
「そんなつもりじゃ――!」
「おしゃべりな口だから、少し休もうか」
そうして、また唇を塞がれる。
昔と変わらないキスだ。
その時にやっと両手が動くことに気付き、聖を突き放した。
「やめてよ! 誰だってよかったんでしょ!?」
「そんなこと言うのか? もう――……わかってるだろ」
聖から顔を背け、軽くため息をついているのが聞こえる。
「俺が怒っているのは、海晴が自分の気持ちに素直にならないことだ。あいつのことが好きならなぜこのままなんだ?」
「え――?」
何のことかと聖の方を見ると、彼は二つの携帯を手にしていた。
片方の携帯は着信中になっている。
『坂上 聖』
そうディスプレイに表示されている。
「あ、あれ!?」
海晴は衣類を整えながら、自分のスカートのポケットに手をやるが、そこにあるはずの携帯が消えていた。
「いつの間に……」
「あいつが好きなら、俺のアドレスは消すのが礼儀ってもんだろ?」
呼び出しを切ると、海晴の携帯も切れる。
そして、残ったのは不在着信。
「こうやって、履歴に残るの待ってたんじゃないか? あの日、さようならと言わなかったのは、終わりにしたくなかったからじゃないのか?」
「それは――……」
言葉のトリックに気付かれてしまった。
精一杯の笑顔を作った。
後悔なんてしてない、と。
――でも、気付いて欲しかった。
そんなことを許される立場ではないのに、引き止めて欲しかった。
「海晴が消せないっていうなら、俺が消してやるよ」
許可も得ずに携帯を開き、アドレスを探している。
ボタンを操作していた手が止まる。
きっと自分のアドレスを見つけた合図。
その時になって、海晴が聖に近づいてきた。
「これはあたしのモノなんだから、勝手に触らないで」
聖が手にしていたものを奪い返す。
その瞬間に、チラリと見た画面にはまだ消してはなかったようだ。
少しの間、にらみ合いが続いた。
「じゃ、――『コレ』はいらないんだな」
聖には、最後の奥の手がある。
コレというものがわからないようで、海晴は口を開かない。
自分のポケットから取り出した海晴の指輪を見せ、教室の窓を開け放つ。
同時にガヤガヤと学園祭の喧騒が聞こえてきた。
しかし、この二人には全く関係なく、今後の話し合いの真っ最中である。
まさか、それを持ち歩いているとは思っていなかった海晴は驚く。
世界に一つだけのペアリング。
(アレは聖とあたしの――)
こうなったのもあの指輪が原因の一つでもある。
だけど、聖と海晴の心のつながりでもあり――。
(歌詞にあった『証』って、そのことでしょう……?)
さっき歌ってたdearestの中にあったワンフレーズ。
”いつも側にいて その証を見せて”
そう伝えてきた聖の意図が全く読み取れない。
あの歌詞なのに、今からしようとしていることは何なんだろう。
”いつも側にいるよ その証を見せるよ”
――なのに。
(あなたの左手には指輪なんて――)
今日、初めて会った時からすぐに気付いた。
彼の左手には指輪なんて嵌めていない。
そんな彼女の心の葛藤を知ってか知らずか、背を向けている。
聖は外にバレない程度に窓から顔を出して周りの様子を伺う。
ちょうどその下は花壇や小さな噴水があり、小さな指輪を探すには苦労しそうだ。
「『本当に』これで終わりだ。海晴」