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何曲か続けて歌った後、トークの時間になったので海晴はステージ横まで行くことにした。
「!!」
見覚えのある姿に海晴は立ち止まってしまう。
悠美と正人がそこにいるのだ。
正人が何気なく辺りを見渡していると、彼女の存在に気付き悠美に知らせる。
「ちょっと、そこのコ」
薄暗い中、海晴は自分を指差すと悠美が頷いたので仕方なく二人に近づいた。
「なんでしょうか?」
「ま、他人行儀ね」
「え、だって……」
「どう? ダーリンの勇姿は?」
「へ?」
「コレがあったから、最近バイトに来れなかったのね」
「?」
話がおかしい。
これは、まるで――。

「ということで、そろそろ歌のほうに戻ろうかと思うんですが」
「次に歌うのはここが初披露となります」
初披露という単語に会場がどよめく。
「この曲は作詞をSAKUMA・HIJIRI、作曲を俺が担当した初のセルフプロデュースです。この二人の衣装替えがあるまで、俺が一人でこの場を乗っ取りたいと思います」
魁がそう案内すると、朔馬と聖がステージ横に戻ってくる。
海晴はあわてて、正人の影に隠れる。
「ケンカでもしてんの?」
「あたしのこと内緒にしといてください」
悠美と正人は顔を合わせ、首をかしげる。
とりあえず、悠美が衣装を用意しに離れ、正人はその場を動かない。
「ケンカしてる風には見えなかったけどなぁ、聖は」
「……」
海晴はどう言ったらいいのかわからなくて、言葉を返せない。
すぐに着替え終わった二人の衣装はスーツ姿に変わっていた。
またしても、周りから感嘆の声が聞こえる。
「汗だくなのに、よくもまぁこんなのを着るわね」
「凛々しくないですか、俺たち」
朔馬はビシっと決めたスーツ姿を悠美にアピールする。
「バラードだから大人な感じで」
「はいはい。超・バラードね」
悠美は二人をステージに追いやると、正人たちのところに戻ってくる。
「聞いてるこっちが恥ずかしくなるわね」
「そうですね」
海晴は何のことかわからずに、正人の影から出てきた。
すると、それまで場を繋いでいた魁が戻ってくる。
「あちー……」
魁は着ている服を仰ぎながら、休憩に入っている。
椅子に座った途端に顔に何かが押し当てられた。
「つめて!」
「どうぞ」
「なんだ――お前か」
魁のお気に入りのキンキンに冷えたジュースを差し出す。
「おお! コレは」
それを受け取るとすぐにゴクゴクと飲み始めた。
「ふぅ……。今から歌う曲な、『dearest』って言うんだ。今度、辞書で調べてみな。辞書を投げたくなるから」
魁もそれと同じ事をしたのか、その時を思い出してわざと身震いする。
「dearest?」
スローテンポなイントロが流れ始める。
海晴はその場に佇んだまま、ステージにいる聖の横顔を見つめる。
聖と朔馬がスタンドマイクを使って、交互に歌い始める。
(これ……)
サビの部分になると二人の声が重なり、会場に響き渡る。
生徒たちは、ラブバラードに酔いしれて静かに聞いている。
聖が歌っている歌詞を繋ぎ合わすと、自分に見覚えのある歌詞の内容で動揺が隠せない。
「朔馬さんが歌ってる部分って……」
「辞書を投げたくなる気持ちがわかるって」
魁は一気に飲み干すと、次の準備のために立ち上がる。
最後まで聞き終わると、海晴は静かにその場を離れて、図書館へ向かう。
魁に聞いたスペルを思い出しながら、さっきの歌を思い出す。
”僕の心は君だけのもの そう感じている”
――最後のフレーズ。
高鳴る鼓動を抑えながら、息を切らせて図書館にやってくる。
人気はなく、英和辞書を探す。
きちんと利用したことがない海晴は、あちこちを探しながらやっと見つける。
パラパラとめくりながら、単語を探していく。
「……あった」
『dearest』
単語の意味がわかった海晴はそっと辞書を閉じる。

ライブが終了を迎えたが、一向にアンコールが止まない。
すると、朔馬が一人現れる。
「じゃあ、みんなのアンコールにお応えして、プチイベントを開催します!」
「キャー!」
「なにするのー?」
前のほうの女の子たちが声を合わせて朔馬に問いかけてきた。
「昔なつかし、鬼ごっこです。捕まえた人となーんと、『一日デート権』が与えられまーす!」
「ウソー!? ホントーーー!?」
「ホントにホントです。ただし、みんな足が速いから難しいよ。なので、ハンデとして複数で追うのも有。相手にまいったを言わせたら勝利。ということで、お互いに作戦ターイム」
そう言って、ステージから降りていった。
副生徒会長があわてて朔馬に近づいてくる。
「いいんですか!? そんなこと!?」
「自分たちで考えた最高の思い出のプレゼント。その代わり、そのデートはTV番組扱いになるけど」
聖たちが身なりを整えて戻ってくる。
「あとは、この二人と話し合って。俺もシャワー浴びてこよう」
早く汗だくから逃れたかった朔馬はすぐに体育館から出て行った。
「ちょっとお待ちくださいね」
頭をフル回転している彼女は、このゲームのルールを考えている。
そして、携帯を取り出して何人かと連絡を取ると、聖たちに向き直る。
「よし、やりましょうか」
「そうこなくっちゃ」
特別実行委員の召集が放送でかかり、ぞろぞろと各地に散らばっていた女子メンバーが戻ってくる。
その頃には、朔馬もさっぱりした様子で戻ってきた。
即席で思いついたルールを伝える。
「では、案内役をこのメンバーから選んでください」
朔馬と魁は女のコたちに近づいて選び出す。
聖はみんなを一通り目を通す。
そして、指を指す。
「このコに案内してもらう」
みんなが一斉に指差した方向を見る。
人影に隠れていた海晴を聖はちゃんと見つけ出した。
周りにいた人たちがなんとなく道を開けた。
一直線上にいる二人は見つめあう。
「ほら、早く行きなって」
「誰も怒っちゃいないからさ」
「ご指名入ったらどうしようもない」
周りの暖かい声に急かされて、とぼとぼと聖の目の前に行く。
にこっと見慣れた笑顔で聖は海晴の腕を取る。
「では、十分後に放送入れます」
そのまま、海晴を引っ張って体育館を出て行く。
通路に出た途端に歓声が上がる中、二人は走り抜ける。
「人がいないほうはどっち!?」
「――こっち!」
聖は海晴の言う方向に走り出す。