4-6



「あと一時間かぁ……どうする?」
学園祭開始までフリーな時間を与えられた海晴たちは校内の雰囲気を楽しみながら歩いている。
一時間を切った校内は段々と盛り上がってきていた。
さっきから茶美は押し黙ったまま、海晴の後を歩いていた。
「――茶美?」
「ゴメン、トイレ行って来るから、先に会場に行ってて!!」
海晴の返事を聞かずに振り返って人込みの中に紛れて行く。
「ちょっと……っ!?」
すぐに茶美の姿が見当たらなくなってしまい、仕方なく体育館で落ち合うことにした。

聖たちが部屋でくつろいでいると、誰かが訪ねてくる。
「どうぞ」
「失礼します」
朔馬に促されて入ってきたのは、茶美だった。
「高原茶美です」
聖は窓辺に立って学園内を見下ろしていたが、その名前に反応する。
「やっと――会えたね」
朔馬と魁が二人を見比べる。
「本当――なんですね、海晴と付き合っていたのは」
「もしかして、友達?」
魁が問いかけると、茶美はこくりと頷く。
「ちょっと待った。付き合っていたって――」
「別れたんだよ」
「お前、いつの間に――っ!?」
朔馬と魁は急な展開に混乱してしまう。
そんな素振りなんて聖は一つも見せていなかった。
普通に惚気たりして相変わらずの関係なんだと思っていたのだ。
「ほら」
ポケットから海晴の指輪を見せる。
それを見て、みんな言葉を失う。
「彼女のこと嫌いになったんですか?」
「――言っとくけど、俺がフラれたんだよ?」
「そんな――!? 海晴が嫌いになったんなら、なんであんなに……」
「あんなに?」
今度は聖が問う番になる。
聖に見つめられ、朔馬たちにも見つめられ怯んでしまう。
でも、これを言うためにここにやってきたんだと自分を奮い立たせる。
茶美は聖に向き直り、視線を合わせてもう一度口を開く。
「苦しそうにしてるんですか? それは、あなたのことが忘れられないからだと思うんです」
「彼女は最後に笑顔で別れたんだよ?」
「そんなの――ウソに決まってるじゃないですか!」
茶美は興奮して、聖を軽く睨んでいる。
朔馬と魁は話についていけないので、椅子に座って口を開く人物を見つめる。
「わかってるさ。だから、こうしてやってきたんだよ」
「のんびりしている間に、武人――彼が急接近してますよ」
「話には聞いてるよ。かなり、ご機嫌がいいらしくってね。事務所でも噂になってるくらいだよ」
朔馬と魁は顔を見合わせ、ひそひそと話をし始める。
「そういえば新人君、聖への態度がおかしかったな」
「なんか、優越感に浸ってた感じ?」
「うわぁー」
顔を合わせたときの場面を思い出して、ぶるぶると身を震わす素振りを見せる。
そんな二人を茶化すなというような目で聖に見られると、朔馬が片手で謝った。
魁も自分の口を自らの手でチャックを閉める。
「とられてもいいんですか?」
「俺がはっぱかけたんだもん」
「――っ! だから、武人のヤツあんなに……」
聖たちはその言葉にようやく事の成り行きがわかったらしい。
「昔はそんなコトなかったのに……」
「そんな彼の姿見たくないって?」
「――え?」
その言葉に茶美は我に返る。
あまりに唐突な質問だったので、瞬きが多くなる。
聖は軽くため息をつきながら、茶美に近づく。
あのHIJIRIにそんなことをされて怯んでしまい後ずさる。
「平山君のコト、好きなんだろ?」
「な、なにを言い出すんですか? 今は海晴の話を――」
「いや、関係あるよ。彼女の側にいながら君は違うことを考えている。何故、俺に押し付けようとするんだ?」
「そんな……押し付けだなんて」
「パッと見、彼女がかわいそうだって訴えてる感じだけど、実はそうじゃない。キミが平山君をとられたくないんだ」
「違う! あたしはそんな――……」
茶美は振り乱してその言葉を認めない。
そんな彼女を聖はつらそうに見つめる。
「無意識にやってるんだよ。彼女を助けることによって自分にチャンスが……ってね。――ずっと好きだったんじゃないのか?」
誰にも気付かれなかった想いを指摘されて、俯いてしまう。
「待っていても何も変わらない。何もしないで悩むくらいなら、何かをして後悔するほうが断然いいと思う。一歩踏み出すには勇気がいる。でも、それをすれば前に進むことができるんだ」
「……出過ぎたことを言ってすみませんでした。失礼します」
茶美はそこにいる誰とも顔を合わせないまま部屋を出て行った。
「大人になったなぁ……聖」
朔馬がしみじみとつぶやく。
「なんて。俺が一番しなきゃいけないことなんだけどな」
「今日、するんだろ」
魁はライブ前のようにニヤリと笑うと聖も大きく頷いた。

学園祭が始まり、earlの登場は午後からになっている。
昼前から入場制限がかかり、体育館はパニック状態だ。
必死に男子メンバーたちが整理をしているが、熱気はどんどん増す一方。
裏から見ている女子メンバーは心中複雑だ。
学園祭は楽しめないけど、earlに一番近づける場所にいれる。
彼らの目の届く範囲にいるのだ。
どう考えても、後者のほうでも構わないという意見が多い。
後から駆けつけてきた、マネージャー、そして、悠美と正人。
ステージ横で生徒会メンバーとライブの打ち合わせをしている。
そんな中、earlたちが衣装に着替えて現れる。
かっこいいーと女子メンバーの歓声が上がる。
「ちょっと待ちなさい」
悠美の厳しいチェックが入り、三人とも着こなしを完璧に仕上げられる。
「着回しだけど――仕方ないわよね」
「大丈夫ですよ。アレ以外にはこだわりません」
「ちゃんと持ってきてるわよ」
聖と悠美はチェックをしながら会話をする。
「あのコは?」
「逃げられちゃいました」
「かわいそー」
「でも、きっとこの会場のどこかにはいるはずですよ」
「自信過剰ね」
「じゃないと、この仕事やっていけませんよ」
「まあ、そうね」
体育館の明かりが落とされ、一斉に歓声が上がり、立ち上がる。
自然にコールがかかり始め、みんながearlの登場を待つ。
五分後、やっとアナウンスが入り、一斉に静まり返る。
「みなさん、長らくお待たせいたしました。――それでは、今日のメインイベント、earlの登場です!」
その放送と共に、緞帳が開かれて一曲目のイントロが流れ始める。
歌い出しと共にステージにライトが照らされ、三人が浮き上がり会場の興奮はピークに達する。
「すごいわね、この声援」
「若さだねぇ」
「ムカ」
「そういえば、彼女は?」
「この会場のどこかに逃げたらしいわよ」
「この状態で見つけろっていうほうが難しいんだけど」
「聖にはできるんでしょ」
悠美と正人はステージ横から彼らと会場の雰囲気を読み取っていた。
一曲目が終わり、すぐに二曲目が入る。
「飛ばすぜーー!」
「キャーーー」
魁の掛け声に会場も盛り上がっていく。
生徒たちの一番前を押さえているスタッフたちは既に悲鳴を上げながらなんとか場を押さえ込んでいる。
数メートル先にアイドルがいるのは、なかなか味わえない体験だ。
「『vertical infinity』」
聖がそう告げると、先日一位を取ったばかりの新曲を歌い始める。
その頃、海晴と茶美は聖たちの正面にいた。
体育館の二階の通路から見ていたのだ。
距離はあるが、それなりに楽しむことはできる。
この通路は関係者しか通れず、数名が同じようなコトをしてライブを眺めていた。
曲の途中で朔馬がわざとチラリと裸を見せると、黄色い声援がちゃんと返ってくる。
すると、他の二人もその真似をすると、同じような反応になった。
それを見ている悠美たちは、苦笑する。
「いつも思うけど、おもしろいわよね」
「同時にはもるんだもんな。嬉しそうな声が」