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最近、明らかに以前と違うような気がする。
どうしてだろう――。
「海晴、どうした?」
(なんで、あたしはたけと二人きりなのよぉー!!)
学校の帰り道、いつの間にか武人と二人きりで雑貨屋に立ち寄っている。
友達はなにかしら用をつけていなくなっていた。
この前に来た時に、目をつけていたぬいぐるみを手にする。
「コレ、かわいくない?」
「カワイイじゃん。その上、手触りも最高」
海晴が手にしたぬいぐるみを武人も触ってみた。
欲しいけど値段がなぁとぼやいていると、武人がそれを取り上げる。
「俺が買ってやるよ」
「え!? あ、そういうつもりで言ったわけじゃないんだけど」
「いいって。レジ行ってくる」
止める間もなく武人は海晴の側から離れる。
(本当、そういうつもりじゃなかったんだけど……)
仕方なく、海晴もその後をついて行った。
「はい、プレゼント」
店を出てちゃんとラッピングされたものを受け取る。
「――ありがと」
「何、改まってんのさ。よくこうやってあげてたよ? それに、そのカバンについているマスコットもゲーゼンで俺が取ったヤツ」
思わず、自分のカバンに付いているマスコットを見入る。
言われて思い出したのか、昔ゲームセンターでだだをこねて取ってもらった記憶が蘇る。
「そっかぁ……そうだったよね」
「忘れてたんだ」
「ちょっとだけ。――ありがとう」
もう一度、プレゼントを軽く持ち上げ、感謝の言葉を伝える。
(なにかがおかしいんじゃなくて、あたしが武人を意識してるからだ)
後もう少しで、海晴の家に着く頃。
「この辺でいいよ」
「そうか? じゃ、また……」
「うん、じゃあね。バイバイ」
別れを告げ、別々の道を歩いていく。
すぐに呼び止められたので、振り返ると武人はいない。
「あれ――?」
首をかしげながら、元に戻った瞬間。
「隙あり」
武人はうまい具合に海晴の視界から消えて、海晴にキスをした。
「な……!?」
すぐに海晴から離れると、走って帰って行った。
少し照れながら、でも何か物足りない自分にどうしようもなくなる。
あの時、あの手を取ったはずなのに、自ら手放してしまった。
時々、無性に叫びたくなる。
何が原因かなんてわかっている。
早く、忘れればいい。
早く――。

自分の部屋に帰ってきて、さっそくもらったものを並べる。
よく考えてみれば、結構な数が武人にもらったり取ってもらったりしていた。
(ここまでしてもらって、なんであたしは……)
武人は海晴の気持ちが追いつくのを待っていたのかもしれない。
そして、今も――。
「この部屋には、たけとの思い出がありすぎるよ」

学園祭前日。
今日は丸一日、学園祭の準備日となる。
特別実行委員は生徒会から呼び出され、生徒会室に集合して席についている。
前々から気になっていたお呼ばれゲストの発表だ。
ざわついている中、生徒会長が話し出した。
「えー、最後にみんなも気にしていたゲストの発表をしたいと思います。女子たち喜べ! 今年の学園祭はなんとearlが来てくれる事になりました!」
「えーー!? ウソ!?」
「だから、なかなか教えてくれなかったんだな」
「そうです。事前に噂が広まったら、本番どころじゃないからです」
副生徒会長が後輩に目配せをすると、スクリーンにメールが映し出される。
「えーっと、コレは事務所の方から当選のメールになりまーす」
確かにT-Gの名前があり、そして担当は中澤悠美。
その名前を確認した海晴は愕然とする。
(ほ、ホンモノだ)
動揺が隠せない海晴の隣では、武人がやっぱりなという顔をする。
風のうわさで話には聞いていたからだ。
今年は学園祭に参加する――と。
「なので、この大人数の理由はもっての他ありません。各学年ごとに彼らの警備をしてもらいます」
「警備ぃ!?」
「ほら、よくやってるじゃないですか。お客を押さえるガードの人たち。男子の方々頑張ってくださいね」
他人事のように話している副生徒会長の言葉に男子生徒は肩を落とす。
女子メンバーは喜びに顔が綻んでいる。
「ライブの後は、彼らが決めたイベントがあるそうです。そちらも、臨機応変にこなしていきたいと思いますので、皆さん、一致団結で学園祭を成功させましょう!」
最後は、生徒会長の言葉で締めて、最終の打ち合わせが始まりだす。
どうしてもあのメールが見たかった海晴は隙を見て生徒会メンバーに近寄った。
「すみません、もう一度メール見せてもらってもいいですか?」
「何か、疑いの面でも?」
副生徒会長がニッコリと笑い、海晴も思わず笑ってしまう。
「いえ、そんなわけでは――earlのファンなんでー、メールをもう一回見たいなぁって」
「やだ! あなたもファンなのね! いいわよ、どんどん見ちゃって」
彼女が目を輝かせると、応対がころりと変わる。
どうやら、彼女も彼らのファンのようだった。
メールの文書は、いかにも悠美らしい文面で書かれた内容だ。
そして、なぜかペットボトルの画像付き。
「これってどういう意味なのかしら――? みんなで考えたんだけど、イマイチぱっと思い浮かばなくて」
(これ――あの時の)
海晴が魁より先に飲んでしまったジュースだった。
ここに来たときにまた飲みたいのだろうか。
「たぶん――用意しとけっていう意味じゃないですかねぇ?」
「でしょー? やっぱりそうしか受け止めようがないわよね……一応、準備しとこうかしら」
他のメンバーに声をかけ、海晴は礼を言って席に戻る。
「海晴ですら知らなかったんだ、このこと」
「――うん」
「本当に、あの人なんだよね?」
「――うん」
どうしても画面上の人が海晴の恋人だったことが、茶美は心のどこかで信じられない。
しかし、このおかげで確かめられそうだ。
「どうする?」
「どうするもなにも――あたしが一番聞きたいよぉ!」

学園祭当日。
いろいろな考えが頭の中を巡り、まともに眠れなかった海晴は学園祭なのにテンションが低い。
一般生徒より早く集合がかかった海晴たち女子メンバーは応接室に集まった。
男子メンバーは会場の準備に追われている。
そして今、生徒会メンバーがearlたちを出迎えている。
女の子たちはそわそわしながら、鏡で自分をチェックしたりしている中、一人だけ落ち込んでいた。
何気に立っていた場所が廊下から一番近く、入ってきた瞬間に見つかってしまいそうだと隣にいた人にそこを譲る。
どんどんと奥へ奥へと場所を譲り、部屋の隅に行き着いた。
その上、茶美の影に隠れようとする。
「今、隠れても無駄だと思うんだけど――てか、余計に目立つ」
「だってぇー」
「ここまで来たなら、開き直って知らん顔しときなさい」
「それも無理ー……」
「ったく、このコは……」
縮こまっていたので、お尻を叩いて姿勢をよくさせる。
「胸張って堂々として出迎えるんだよ。本当だったら、知らない人たちなんだから……」
すると、廊下側の人が気配を察知するとそれをみんなに知らせる。
部屋のドアを開けて一番最初に入ってきたのは、案内役の副生徒会長だった。
「はーい。みなさん、お待たせしました! 『earl』のみなさんでーす」
すると、朔馬・魁・聖の順番で部屋に入ってきた。
久しぶりの聖の姿に胸が高鳴る。
earlモードの彼たちは、見ているだけで心がときめいてしまう。
騒いでいる彼女たちをが一瞥すると、一瞬で沈黙に変わる。
昨日から今日にかけて、彼女のスパルタぶりが発揮された。
情報漏えいはもってのほか、騒いでいいときとそうでないとき、その他諸々いろいろといろいろとしつけられたのである。
目に留まる行為があれば、即刻解雇になるのも伝えられた。
ライブにも勝るこの至近距離をみすみす逃したくないのもあり、彼女たちも大人しくするようにした。
「彼女たちが、今日一日裏方で働いてくれる生徒たちです。左腕に腕章をつけていますので、そちらで一般生徒と区別をしてください」
副生徒会長のお得意スマイルで説明をしている。
それを見習い、朔馬も笑って返す。
「カワイコ勢ぞろいだね」
そう言いながら、彼女たちを一通り目を通す。
部屋の隅にいた海晴にも当然気付いて、さりげなくウインクをした。
海晴はあわてて視線をそらしてしまうが、やっぱり気になってしまう。
――聖のことが。
少しだけでも見ようと視線を向ける。
なぜかタイミングよく彼もこっちを見ていて、思いっきり目線が合ってしまった。
とても切なくもあり――とても苦しくもあった。