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海晴は聖が登場してきたシーンからなんとなくわかっていた。
そして、それは美由紀と同じところで確信に変わる。
これが見納めだと思い、最後まで見ようと心に決める。
インタビューが終わり、スタンバイに入るために画面から消えた。
『今回の新曲は振り付けが激しくて覚えるのが大変だったそうです。それでは、今週初登場第一位を獲得した『vertical infinity』です』
三人のステージが始まり、いろんなアングルで映し出される。
今回のは久しぶりの激しいダンスで、時々衣装が乱れておなかの辺りも見え隠れしている。
聖のアップになり、海晴はドキッとしてしまう。
「……?」
その瞬間、あれっと思うことがあった。
すぐに画面が切り替わったので、諦めることにした。
(これでもう――)

「武ぇー、来て来て!!」
夕食をしていると、自分を呼ぶ声がするので仕方なく武人はそちらへ向かう。
「ほーら。あんたの先輩よっ!」
「俺は、何回か会ってるからいちいち呼ばないでくれる? メシ食ってんだけど」
「ヒドイ言い方。おねーちゃんが今の事務所勧めてあげたのよ? いやーん、さくまさんかっこいいー! 今度、写真ヨロシク」
好き勝手に言ってくれる姉に呆れながら、TVを見ている。
聖が指輪をしていないことに気付く。
確か今までTV出演していたときには見に付けていた気がする。
それよりも前に見かけたときにはしてたよなと少し首をかしげた。

「天咲さーん。お呼び出しーー」
次の日の三時限目が終わった休憩時間、クラスメートが海晴を呼び出す。
(やっとか……)
その人にお礼を言いながら、廊下に出ると彼女がいた。
「ごめんなさいね。遅くなって」
「何かのついででいいよ」
軽く微笑みながらそう答える海晴に目を丸くしながら、美由紀はデジカメを取り出す。
「なんか、もう過去の人になったのかしら? 指輪もなかったし、残念ね」
ピッと音を立てながら電源を入れて、データを探し出す。
「一つ聞くけど、最後まで見た?」
「いいえ。どうして?」
「――いや、なんもない」
「ホラ、これね。――ハイ、これで削除したからね。言っとくけど、コピーとかしてないわよ。あたし、そこまで外道じゃないんだから」
そっぽを向きながら、美由紀は電源を切る。
「――わかった。信じるよ」
「彼が同じ世界の人を選ぶならどうしようもないけど、こんな身近にいられたら許せないじゃない。でも、これくらのことで別れられる程度の関係だったのね、あなたたち」
「――……」
無表情になる海晴を見て、美由紀は顔をひきつらせる。
「ま、コレで会うことも少なくなると思うけど――元気でね」
そそくさと来た道を帰っている美由紀の背中を見送る。
「本当に残念なのはどっちかしら……?」
例え彼女が最後まで番組を見ていたところでわからなかっただろう。
二人を繋いでくれる『絆』――。
「今の誰ー?」
立ち尽くしていた海晴の隣に茶美が現れた。
見知らぬ人と話しているのが気になって様子を見に来たようだ。
「中学の同級生。貸したもの返しに来てくれたの」
「――この間、用事があるって言ってた?」
「やだなぁ。茶美には敵わないね」
「あっはっは。天才と呼んで」
「それ、坂口先生も言ってた」
「ヤダー、一哉も言ってたの!? もう、使わないことにしよう」

放課後、特別実行委員の収集がかかる。
茶美と涼は部活のほうに少しだけ顔出ししてくると、HRが終わった後すぐに教室を出て行った。
海晴も茶美と同じ部活なのだけど、幽霊部員なので今更と思い、学校を復活してから顔を出していない。
武人は仕事が決まってからは、まともに活動が出来ていない。
「昨日――見た?」
「何を?」
惚けてみせる海晴を不思議そうに見る。
「何って、聖さん」
「歌番組に出てたんだっけ?」
「そうだよ、知らなかった?」
「――もとから、あんま見てなかったし」
「そういえば、そうだよな。海晴ってどっちかって言うと……」
「TVゲーム派!」
「そうそう、だから涼たちと話が合うんだよな」
「ゲーマー……なんか、ヲタっぽい」
「あはは。俺たちオタクか!? 最近、なにやってる?」
「最近は――」
何してたっけと首をかしげる。
それは思い出さなければいけないほど、していないという証拠でもあった。
そんな彼女を見て、武人は苦笑する。
「――だと思った」
「え、なんで?」
「それをする『ヒマ』がなくなったっていうことだよ」
「暇――?」
「それが俺のせいじゃないってのが寂しいけど」
「じゃあ、そうする――?」
「え……」
意味深な言葉に武人がドキリとして海晴を見つめてしまう。
そして、彼女もそれを見つめ返す。
自然に顔が近くなる。
ガタガタっと音を立てて、誰かが教室に戻ってきたのと同時に二人はパッと離れる。
「わ! 俺、お邪魔ムシ!?」
「全然そんなことないよ。誤解しないでね、涼クン」
あわてることなく弁解をする海晴の隣で真顔な武人。
「そうかぁ? てっきり、キス――してんのかと」
「してない、してない。ね、たけ?」
「あ……あぁ」
「そうかー?」
疑わしい目で二人を見ているが、取り乱している様子がないので追求するのをやめる。
していなかったとしても、寸前であったことは間違いない。

「高原、聞いてくれよ」
「何?」
集会が終わった後、帰っている途中にさり気なく涼は呼び止める。
海晴と武人はそれに気付かずに先を行く。
茶美は少しずつ歩くテンポを落としながら、涼の横に並ぶ。
「俺さー、見ちゃったんだよ」
「何を?」
「生キス」
くいくいっと顔で合図をする涼の視線の先には――海晴と武人。
二人は普段通り笑いながら話をしている。
その二人を茶美が指差すと涼は頷く。
「二人はしてないって言ってるけどさ、角度的に」
「――……」
「それに、なんといっても天咲の表情といったら――男にはたまらんな。これが男持ちの威力か!?」
「葵だっているじゃない」
「ありゃ、お子様過ぎて話になんねーよ」
「へー、今度伝えておくね」
「ウソウソ! カンベンしてくれ。俺にだけきゃんきゃんほえてくるんだもんな、あいつ」
「それより、彼氏持ちの人が武人とそんなことしてる時点でおかしいと思わないの?」
「そうなんだよなぁ。現場見たとき、あれ!?って思ったんだけど」
唸りながら腕組みをして頭を悩ます。
茶美は本当のことを言うかどうか悩むが、変に事を荒立てたくなかったので正直に伝える。
自分が言うべきではないことくらい十分承知している。
「――あれ、してないでしょ」
茶美は自分の右手を見せるように差し出す。
その仕草に熱く語った指輪のことを思い出した。
「へ!? マジで? ラブラブって言ってたよな?」
「いろいろあったんでしょ。あたしも詳しいこと知らないわ」
「高原でも知らないことあるんだ。それがケンカの原因?」
さらっと核心を突かれ、茶美は軽くため息をつく。
「でもな、話していい恋とイケナイ恋があるもんだぜ」
「あたしにくらい、話してくれたっていいじゃない」
「まー、天咲の場合は、なかなかしなさそうだな」
「よくご存知ね」
「俺、恋する乙女の味方だから」
ブイとピースを作っておどけてみせる。
「一人でなんとかしようって考えると、それがいい場合と時には悪い方向に行く場合もある。天咲の場合はどっちに流れてんだろうな?」
「さすが、いろいろと恋愛相談受けているだけ言うこと違いますな!」
「こりゃ、改めて武人とひっつけ大作戦復活だ!」
ガッツポーズを決めた涼の隣で茶美は前にいる二人をただ見つめていた。