3-8



「じゃ、行こうか」
聖の仕事が早く終わった夜。
前から計画を立てていたデートをすることになった。
海晴は玄関の近くにある姿見で身なりを整えている。
「こうして一緒に出かけるの久しぶりだな」
「――うん」
そんな彼女を後ろから軽く抱きしめてから、靴を履きだす。
「ハァー。なんだかハメ外しそう……」
「外ではヤメて」
「うちならいいんだ?」
そんな冗談を言いながら、二人はデートに向かう。

夜の街中を歩いていると、いきなり海晴が立ち止まりUターンをする。
隣にいた聖は何だろうとその場にたたずんでいた。
(マズイマズイ……)
逆走をしながら海晴の心の中はさっきからずっとそう叫んでいる。
自然と早歩きになった頃、行く道を誰かに阻まれた。
恐る恐る顔をあげると、予想していた人がそこにいた。
「あら、天咲さんじゃない。元気?」
「――どうも」
足止めをした人物――中学時代の同級生だった。
今は藤波学園の普通科に通っている河崎 美由紀(かわさき みゆき)だった。
中学時代の三年間、同じクラスだったのでよく覚えていた。
はきはきしていて誰とでも話すタイプで、海晴と正反対の性格で必要以上に関わることもなかった。
二人はそのまま互いを見つめる。
「――逃げようとしてたでしょ」
「……気のせいだよ。滅相もない」
多少顔をひきつらせながら、そう答えるその態度は誰が見ても明らかだ。
「まぁ、それも無理ないかしらねー。デート中じゃ」
「――はい?」
「ホラ、あの人と――あれ、いない」
美由紀が指差す方向を海晴も一緒に見るが、そこには聖はいなかった。
みんなせわしなく歩いている中、二人は立ち止まって話を続ける。
「さっきまで、あそこにいたのに――あの人、かっこいいなぁって見たら、その隣にあなたがいたワケ。一瞬誰かと思ったんだけど……」
「あー、最近切ったから……」
「あら、そうなの? すごいイメチェン。天咲さんにも彼氏いたのね。あたしもこれからだけど」
負けじと自慢をしてくる彼女の姿は、少し大人げなワンピースの服装だった。
年上の人とでもこれから会うのだろう。
一方、海晴はフード付きのパーカーを羽織ってラフなスタイルにしていた。
中学時代を思い出しながら、今の状況からどうやって脱出しようかと考えている。
(聖はどこに行ったのかな……)
自分が勝手に離れて行ったために、怒ったかなと思ってしまう。
せっかく久しぶりのデートなのに、中断されてしまったら台無しだ。
「これからデートなら、時間大丈夫?」
「あ……あぁ、そうね。そろそろだったわ」
「でしょ? 早く行かないと怒られちゃうよ」
海晴にそう促された美由紀は仕方なくその場を去っていった。
やっと離れたのを確認すると、すぐに携帯を取り出し聖に電話をかける。
「――繋がらない?」
出られませんとメッセージが流れる。
「どうしよう……」
辺りを見渡すがそれらしき人物は見当たらない。
探しに行っても構わないが、すれ違いになっても困る。
とりあえず、聖と別れた辺りを探すことにした。
きょろきょろしながら歩いていると、何かにつまづきバランスを崩す。
「きゃ……っ」
地面に転ぶかと思えば、歩道の柵に座っていた人に助けられる。
そのまま、引っ張られて抱き寄せられた。
「大丈夫ですか?」
顔を見なくてもわかる。
聞き覚えのある声、見覚えのある服装。
「――足、ひっかけた?」
「だって気付いてくれないし」
「馴染みすぎだよ」
聖は立っている海晴の肩に頭を預けながら、くすくすと笑っている。
オーラを隠していたのか、普通に街並みに溶け込んでいた。
そんな彼に気付かなかった自分も情けないなと海晴も笑う。
「こうしてると、その辺のカップルと変わらないね」
言われてみれば、すれ違うカップルたちも身体を寄せ合いながら歩いていたなと思い出した。
「こんなに堂々とHIJIRIがいるとは想像できないかも……」
周りに聞こえないように小声で話す。
「だけど――いるんだよな」
かけていたサングラスを外し、海晴に軽くキスをするとまたし直した。
「行こっか」
手を差し出され、海晴は少し照れながらその手を掴み取る。
絡めた二人の手には指輪が光る。

「――くしゅん!」
辿り着いた公園から見下ろす夜景が綺麗で、そのまま話をしていると海晴がくしゃみをした。
聖が海晴の肩に腕を回す。
「そろそろ帰るか? 冷えてきたし」
「ん――もう少しいる」
聖に身体を預けながらそう答える。
「今日はこれ以上脱げないしな……。これかぶったら?」
上着を貸そうにもラフなシャツ一枚しか着ていない聖は頭を悩ます。
ファーが付いているフードが目に入り頭にかぶせた。
「うん、かわいい、かわいい」
「――そう?」
海晴は照れ隠しにフードを深くかぶり直す。
「うん、かわいいよ」
自然にそのままキスをする。
しかし、すぐに聖がキスを止めて、ある方向を見つめる。
「聖……?」
「――なんでもない」

「ねーねー、今度彼氏会わせて!」
「は?」
昼休みに葵に突然問い詰められた。
いつも彼女は突発的な行動を起こす。
「だってさ、武人をふってまで付き合ってる人でしょ? どんな人なのかなぁって」
「そう言われても……」
「えーいいじゃん! せめて、プリクラとか」
「うーん……」
「茶美も見たことないんだよね?」
「――うん」
「おーい! 葵!」
教室の向こうから彼氏が葵を呼んでいる。
そこまま無視していると、その名前を連呼してきた。
「もう! なんなのよ、一体」
葵は怒りながら、海晴の目の前からいなくなりホッとする。
「あたし、今嘘ついちゃったね」
「――うん」
以前、茶美は写メを見ていたが、今のタイミングで判明してしまうとまた葵が騒ぎ出してしまう。
それを見越して、思わず嘘をついてしまったようだ。
こうまで食いつかれると、いつか写メだけでも見せたほうがいいのだろうか。
しかし、前の写メだけでも茶美は腰を抜かしていた。
当然のごとく、あのわかりすぎる写メは他の誰にも見せられない一品だ。
それにしても葵たちが 彼氏のことについて質問をしてくるのかがわからない。
「ねぇ、海晴? もしもよ。今の『彼』じゃなくて、他の人が彼氏だったとしてら紹介してる?」
「――どういう意味?」
「だから、紹介しても差し支えない人だったら友達に紹介したかっていう意味」
「それは――その時でないとわかんないよ……」
「――そう」
どうしてこんな質問をするのだろう。
茶美の意図が読めないが、ふとその場合だったら――と考えてしまう。
もし、聖みたいな立場じゃなく、普通に同じ学生だとしたら。
そうすれば、みんなに紹介しただろうか……。
(そうだとしても――……)