3-4



「おかえり、聖」
ソファーに座り込んでいる聖に改めて挨拶をする。
その返事は同じソファーの隅に座る海晴をチラリと見るだけだ。
(えー……っと……)
珍しくきちんとセットされたままの聖の表情は固い。
そうしていると、まるでオンモードのHIJIRIのようだった。
その話しかけにくい雰囲気に海晴も表情が暗くなる。
「『今でも海晴が好きだ』――あいつからの手紙だろ?」
「う――ん」
「それ読んでどう思った? 好きだったんだろ?」
「――……」
「正直に言えよ」
距離を縮めてきた聖はその手を伸ばし、海晴の顔に手を添えた。
次の言葉が出てこないその口元に軽く指が触れる。
海晴はそうされたことに思わず息を飲んでしまう。
「……っ……!」
いきなりの口づけに戸惑って、反射的に上げてしまった両手が下ろせない。
顎に手を添えられたままそれから逃げることも出来ず、固まっていた両手も聖の片手で塞がれてしまう。
熱い舌が口内をなぞられ、抵抗できないことにぞくりと何かが背中を走る。
「……は……ぁ……、……んっ……」
息をつく間もなく繰り返されるキスに翻弄され始めてしまう。
こんな一方的なキスは初めてだった。
「俺よりも先にキスしてた?」
「して……ない……」
溢れ出た唾液を追うように聖の唇の位置が変わり始める。
首元まで降りてくると、そこをきつく吸われ、赤い跡が残された。
抵抗する間もなく、そのまま抱きかかえられてベッドまで運ばれる。
「なんで俺と付き合いだした? 寂しかったから? 都合よかった?」
「違……う」
見下ろされたその瞳は熱く一直線に海晴を射抜いてくる。
パジャマ越しに聖の熱い手が内股を撫で上げ、海晴の期待とは裏腹に肝心な場所には触れてこない。
そのじれったい愛撫に余計に身体が高鳴ってしまう。
「俺が有名人だし、お金持ってるし、ポイント高かった?」
自分が知らない間の海晴を同級生の武人は知っている。
ただそれだけで嫉妬の塊が大きくなった。
珍しく電話に夢中になっている彼女の姿を見て、気づかれないように帰宅した。
タイミングを見計らろうと、少しだけ盗み聞きしたのがきっかけだった。
話している相手はきっと彼なんだろう。
親しげに話している様子を見て、無意識に近づき手元にあった手紙を呼んでしまった。
水面下でそんなやりとりが行われていたことに対して、余計にでも問い詰めたくなる。
「――あたしを見くびらないで」
その台詞と共に乾いた音が部屋に響き渡る。
度重なる煽り文句に海晴が限界を超して、聖の左頬を叩いた。
「あたしは――……」
(あなたに何かを感じた……。だから――一緒にいたい)
その想いは口に出されないまま、上から見下ろしている聖を見つめ返す。
「――選べ。俺かあいつかを」
TVの向こうにいる世界のHIJIRIが目の前で恋の選択をさせようとしている。
普段の聖ならそんなことを考えもしたことがないが、今日は雰囲気が違うために他人事のような感覚だ。
まるでドラマのワンシーンの台詞のようだった。
「海晴」
自分の名前を呼ばれて、これは今、目の前で迫られていることなんだと気づかされる。
海晴はさっき自分が叩いた場所を軽く撫でた後、腕を回して抱きついた。
「あたしは聖が誰よりも好きだよ」
その言葉に聖の黒い部分が瞬時に取り払われる。
そういう思いにさせるのもそれを消し去るのも、彼女しか出来ない。
「海晴を離したくない。じゃないと――」
狂いそうだ――。
今度はさっきの貪るようなキスではなく、深く混ざり合うキスが始まった。
その合間に海晴は上着を脱がされ、露になった胸をまさぐられる。
「ん……」
その先端を口に含まれ、小さく吐息が漏れてしまう。
ゆっくりと舐め上げられると、少しずつその声も甘い吐息へと変化する。
その隙にパジャマのズボンとショーツを同時に引き抜かれた。
その手で太股を通り、秘部へ到着する。
「もうこんなにして……、何もしてないのに感じた?」
「……ちが……うも……、ぁ……っ」
ゆるゆると指先だけで刺激を与えられるだけで、蜜が溢れ出してくる。
「身体はそうですって言ってるみたいだけど」
「っ……!」
それを絡み取りながら、一気に奥深く指を差し込まれる。
身を捩りながらも逃げ出さないところを見ると、待ち望んでたのかもしれない。
そのまま敏感な場所を探り当ながら、抜き差しをすると濡れた音が響く。
「ん、ぁ……っ、やだ……っ!」
一番感じる場所に当たりだしたのか、一段と声が高まり頭を横に振り乱す。
激しすぎる感覚に逃げ腰になっている海晴だが、少し起き上がっているヘッドボードが邪魔をする。
頬を紅潮させながら息を弾ませ乱れる姿は目のご馳走だ。
広げられた足をびくびくと震わせながら、愛液が溢れ出す。
「やぁ……っ、も――……」
途端に指が締め付けられて、そこが痙攣し始める。
それを味わいながら、ゆっくりと抜き取るとそれを見せ付けるかのように舐め取る。
「イっちゃった?」
「はぁ……っ、はぁ……」
全身で息をしながら、その倦怠感に身体を預けた。
身を放り出していると、無防備だった胸のあたりにキスが下りてきて、また赤い花が浮かび上がる。
「まだまだ。今夜は寝かさないって言っただろ?」

――ふと、海晴は目覚めた。
二人共裸のまま雪崩込むように寝てしまったようだ。
向かい合ったままの聖を見上げるとまだ聖は眠っている。
自分にしては珍しいな――と心の中で笑う。
左手に違和感があったので、布団から出すと指にリボンがあった。
昨日、自分の服から取り上げたリボンが左手の薬指に綺麗な蝶々結びで括られている。
(知ってる? なんで、結婚指輪をこの指にするかを――)
胸元でもぞもぞと動かれたなのか、聖の瞳がうっすらと開かれた。
「おはよ」
「ん――おはよ。……早いな」
「なんか目が覚めて……ゴメンね。今日遅いのに」
「……いいよ。初めて起こされたかも」
モーニングキスをした後、海晴は起き上がろうとするが力が入らずへなへなと倒れこんでしまう。
昨夜の行為を思い出すと当然のようにも思える。
何度も絶頂を迎え、そして、幾度となく聖に抱かれた。
乱れた髪を直そうとして、リボンがまた目に入る。
「いつのまにこんなことしたの?」
「――さっき」
「じゃ、タヌキ寝入りしてた!?」
「そゆコトになりますかな」
(よかった……、変なこと口にしなくて)
少し安堵の表情を見せながら、散乱している衣服をかき集める。
「ゴメン――昨日のこと……」
ベッドの下に落ちていた服を拾い上げる動作がぴたりと止まった。
「そんな……あたしもヒドイことしたし……ごめんなさい」
「自業自得だよ。俺、あのまま帰ってたら海晴に何するかわからなかったから、お酒――一杯だけ飲んでたんだ」
(――だからか……。なんか雰囲気違うって感じたのは……)
後ろから聖が着ていたシャツを羽織らされる。
それを手繰り寄せて聖と対面して座り込む。
「気にしないためにしたのが、自制心が逆になくなってダメでした」
「も……バカ聖」
「それにしても――ここはさすがに目立つよな」
最初に付けられた首筋に手を伸ばしてくる。
あの時は場の雰囲気に飲まれて、気にもしなかったのだが――。
ベッドサイドテーブルに置いている鏡を取り出す。
「な……!」
それを手にした海晴の手が震える。
昨日の情事の跡は隠しようのないあたりに残っていた。
「聖の……バカァッ!!」
鏡を放り投げて、ベッドから飛び降りてその姿は遠のいていく。
この短時間でバカを二回も言われてしまったことに一人で苦笑してしまう。
あれは勢いでなくて――わざとなのだから。