3-2



茶美は未だ信じることが出来ず、半信半疑の状態だった。
いくら本人らしき人と話したといえど、姿が見えなければ本物かどうかの判別が出来ない。
しばらくすると、海晴の携帯にメールが届いたようで確認をしている。
「いいモノ来たよ」
開いたままの携帯を受け取ると、その小さな画面に三人の画像が表示されていた。
そのサイズでも顔の判別は出来たようで、携帯を持つ手が震えだす。
「うそーーーーーっ!」
気が抜けてしまったから海晴は携帯を抜き取る。
サービス心旺盛なearlが、つい今しがた撮ったであろうスリーショット写真がメールに添付されていたのだ。
少しでも足しになればと聖が気を利かせたらしい。
その直後に部屋がノックされ、茶美の母がお約束のおやつの差し入れを持ってきた。
「コラ! 茶美ったら、日曜の昼下がりからそんな大声出しちゃお隣さんに聞こえるでしょ」
「思わず叫ばずにはいられなかったもので」
「ま、何の話?」
「海晴の彼氏のはなし……」
「まぁ! 彼氏できたの? どうりで、前と雰囲気変わったと思ったわ」
「母さんいいから、あっち行ってよ。コレありがとう」
おぼんを抱えたまま座ろうとする自分の母親を即座に止め、追い出そうとする。
「いいじゃない。ママだって、恋話聞きたい。茶美ったら全然そんな話してくれないんだもん」
「はいはい。その時がきたら話すからあっち行ってください」
「本当かしら……」
娘の素っ気ない態度に渋々部屋を出て行く。
「ったく、かなり邪魔なんですけど、あの人」
「おもしろいと思うけど」
「いざ、自分の母親になったら――……ゴメン」
「ん? 大丈夫だよ」
失言と思ったのかすぐに謝る彼女に海晴はにこっと笑う。
「でも、どうすんの? 武人のこと」
「ねー……どうしよう……」
少しずつお菓子をつまみながら、しみじみしてしまう。
ついこの間、事務所で鉢合わせしたことも既に話していた。
「彼は知ってるの?」
「――いや」
「でも、部門は違えど、後輩になるんだからいつかはバレると思うけど?」
「そうなんだけどさ」
「『俺たちはライバル同士ですね』武人なら、このセリフ言いそうー」
キャハハと長年武人と一緒にいる茶美はそんな予言をした。
「ホント――言いそう」
「あー、たのしそう」
(いや、あたしにとっては笑い事じゃないんですけど……)
ひとしきり笑うと、茶美の携帯にメールが入りチェックしている。
その行動に海晴も何気なく自分の携帯を見て思い出す。
「あー! バイトがあったんだ!」
「あ、さっきの嘘から出た真のようなバイトね」
すぐに携帯を閉じる茶美はまた含み笑いをしてしまうと海晴に平謝りをしてきた。
笑い話ではないことは一応はわかっているらしい。
「夕方から行かないといけないんだよぉ」
「あ、そうだったんだ。やけにのんびりしてるからもっと遅いのかと思った」
「うわーん、シバかれるー」
半泣きしながらも、出されたおやつを平らげていく。
「あのねぇ」
苦笑しながらも、海晴の好きなようにさせる茶美であった。

「もし、武人に会ったら『ヨロシク』伝えといて」
茶美の伝言を抱え、T-Gのエレベーター前。
今日はなぜか人が多くて、一人で乗るのにためらう。
かといって、階段を使う気なんてさらさらない。
(どうしよう……)
PASSを手にしたまま悩んでいるといきなり肩を叩かれビックリする。
「よう! ハルっち。今日もバイト?」
「正人さん!」
冗談で言った正人の言葉は今日から海晴にとっては事実になってしまうようだ。
「三上さんに昨日のアレ――聞かれてたみたいで」
「マジかい!? 三上さんって見た目通り、地獄耳だから。あ、これオフレコだよ」
「――ですね」
正人と話していると、見覚えのある通路に着いていた。
いつものように、大荷物を抱えた正人の隣を歩きながら見上げている。
(朔馬さんより高そう……)
朔馬も百八十センチを超えているのだが、正人はその上をいく身長のようだ。
ますます百五十センチ台の海晴が小さく見える。
「彼に連絡取った?」
「いいえ。何話したらいいかわかんないし」
「そうだよな。もう、ハルっちは聖と――これ以上はおにーさんの口からは」
「何、変なこと言ってるんですか!?」
真っ赤になりながらも、わざと咳をする正人を怒る。
「と、とにかく、武人に会っても余計なこと言わないでくださいね!」
「わっかりましたー」
正人は荷物を抱えながらも簡単にドアを開けて、中に入っていく。
「聖ー。届け物だぞ」
「ん、俺にですか? ――わーい、ハルだ!」
「どーですっ!」
「惜しい! あと、五分だったのに!」
聖を素通りして、三上のところに参上する。
どーだと笑う海晴と惜しかったと指を鳴らす三上を聖はきょとんと見ている。
「あと五分遅かったら、なんかあったんですか?」
「何、聞きたい?」
「あーーーーー!」
聖と三上を割って入る海晴。
「約束は守ったんですから、言わないですよね? 三上さん」
「そうね、残念だわ」
実に残念と言いながら、二人から離れる。
「なー、ハル。三上さんと二人でなんの隠し事? 教えてよ」
ねーねーと聖は抱きついてくる。
(正確には三人なんだけど)
愛想笑いを浮かべるしかなかった海晴である。
三上は腕時計を確認すると、ニヤリと笑っているがその二人は気付かない。
「――失礼します」
そんなムードの中、誰かが挨拶をしながら入ってきた。
「おつかれ、今日もイイ男っぷりね。正人、みんな呼んできて」
三上の言葉に反応して、そのイイ男を覗こうと海晴は身を乗り出す。
そんな行動に聖はしくしくと泣いてしまう。
しかし、その人物を見た海晴は青ざめる。
隣の部屋から、呼ばれてきた悠美と朔馬と魁が顔を出してきた。
「えー、みんな知っているとは思うけど、今日が正式な顔合わせとなっています。我が事務所が来年から始める俳優(アクター)の第一期生。私の直属になります」
三上は、きっちりと上司風になって話をする。
みんなほとんど知っているようで、軽く頷いていた。
「初めまして。平山武人です。これからよろしくお願いします」
後ろにいるマネージャーらしき人も一緒に頭を下げる。
(どうか、バレませんよーに)
海晴は聖の影に隠れてその場を凌ごうとする。
逆にそっちの方が目立ったらしく、武人はそちらを見てしまう。
「あれ!? 海晴じゃないか!」
(――もうかい!!)
心の中で突っ込みを入れながら、渋々とその姿を現す。
「――ハルの知り合いなのか?」
「ここでバイトしてたんだ!」
聖と武人にほぼ同時に話しかけられて、頭が混乱してしまう。
今の主役は武人で誰もが注目して見ていて、今は彼氏に戻っている聖が問い詰めてくる。
どちらを優先すべきなのか――。
「ホラ、助かったでしょ?」
「アレはその場凌ぎのウソじゃないですか……」
三上と正人はコソコソと話をしている。
「彼は海晴とどういう関係なのかな? ん?」
「えっと――……」
笑っているようで目が据わっている聖に恐れをなして、海晴は一歩退く。
そして、近くにやってきた武人を確認してまた一歩。
――逃げたい。
今の海晴にはただこの一言に尽きる。
「早く吐いたほうがラクだよ、海晴」
その二人のやりとりに武人は疑問を覚えてしまう。
「もしかして、仕組んだんですか!?」
「彼女が言ったことを実現させただけよ。あとは、偶然が重なった――とでも言うのかしら? おもしろすぎだわ、あのコ昔から嫉妬の塊だもの」
わざと小指を立てながら三上は高らかに笑う。
そういうのを仕組んだと言ってもおかしくないですよ、と正人は心の中で突っ込む。
「キャーン! どうなってるのー?」
状況が読み込めなくても、色恋沙汰の問題だと気づいた悠美はわくわくしながらことの行く末を楽しんでいる。
壁に寄りかかっている魁とその隣に立っている朔馬も傍観者として見ていた。
武人のマネージャーも状況がわからない。
さらに野次馬が増えたことに正人は頭を抱えてしまう。
聖は海晴の胸元で括ってあったリボンを手にして解こうと遊んでいる。
そうされても困ると今日の服装のワンポイントでもあったリボンを押さえた。
ただの飾りのため取られたとしてもさ構わないが――気持ちの問題だ。
武人はそんな二人のやりとりが見たくなかったのか、間に入ってくる。
「失礼ですが――聖さんに彼女を呼び捨てにする権利あるんですか?」
二人が横を向けば、少々怒り気味の武人がそこにいた。
「おや? 君にはあるというのかい?」
聖はそのままの状態で挑発的な態度に出る。
「俺にはあります! クラスメートとしての『仲』がありますから。そうだよな、海晴?」
(――なんでこんな出会い方になるのよ!!誰かどうにかして!!)