3-1



「今日も悲しい夢なのか?」
真夜中に聖は海晴の苦しそうな表情でうっすらと涙を流している涙を切なそうに拭う。
(いやぁ!パパ!ママ!――……)
夢の中の自分の叫びで目が覚める。
――時々見る、事故当時の夢。
実際にはその現場にはいなかったと聞いているのに、まるでそこにいたかのようなリアルさだ。
幾度となく、それをいくら自分に言い聞かせてもその衝撃は拭い切れない。
一人だけを残していった両親を責めた時もあった。
(どうせなら、一緒の方が――……)
起き上がり呆然としていると、隣で寝ている聖を見つめる。
「あれ――?」
現実にも泣いていたのか、涙を拭いた後に気付く。
「聖……」
一度この夢を見ると、その日は眠れなくなる。
またその続きを見そうで目を閉じたくない。
起こしたら悪いと思いベットから離れる。
暖かいものでも飲んで気を休めようとホットミルクを作り、ガラス張りのテーブルに腰を掛ける。
「はぁ……」
九月も後半になる季節、夜は少し肌寒く芯から身体が温まる。
足も椅子の上にあげて小さく丸まっていると、音もなく抱きしめられた。
「ハル」
「あ、ゴメン。やっぱ――起こしちゃった?」
カップをそっとテーブルに置き、何も言わない聖に首をかしげる。
「もう、三時だよ? 明日も仕事なんだから寝なきゃ……」
そんな促しも聞いてくれる気配がない。
明日のことを思い、何の反応もないので諦めてベットに向かう。
何も話さない聖は海晴を抱き寄せる。
「俺、知ってるんだよ? 海晴が泣いて夢見てることも、それで眠れなくなってるのも――」
「……っ」
「俺がこうして海晴が眠れるのなら、いくらでもするよ」
聖の体温に少し安心する。
自分とは違う鼓動を聞いて、生きてるんだって感じる。
『今は』一人じゃないんだ――そう思うことが出来た。
聖はそのまますぐに寝てしまい、海晴も彼の優しさに包まれてうとうとし始めた。

「おはよ――やっぱり眠れなかった?」
朝起きると、海晴が珍しく起きていて聖を見ていた。
「おはよ。ううん、ちょこっと眠れたよ。聖の寝顔が見れたからうれしかった」
「どんな顔してた?」
「かわいい寝顔」
「夢の中で海晴とイチャイチャしてたのに?」
「もぅ」
ちゅっと軽くキスをしてベットから降りる聖。
「ねぇ? 一人だけ教えていい? 聖のこと」
「高原茶美ってコ?」
軽く背伸びをしながら、そう答える。
「なんで、名前――」
「この前、ノート借りてただろ?」
「――あ、そっか。そう、そのコ」
「いいよ。海晴が話したいって思うのなら」
聖が支度をしている中、海晴はぼーっとパジャマ姿のままTVを眺めている。
ソファーに転がっていた携帯が鳴り始めた。
「ケータイ鳴ってるよー」
キッチンのほうにいる聖に呼びかけると、最後の一口とコーヒーを口にしている。
聖に手渡すと肩を叩かれたために、彼を見上げた。
「んじゃ、行ってきます」
キスをされて、寝癖がついたままの頭をくしゃっとしてきた。
一人になって一息つくと、さっき話していたことを伝えようとメールを打ち出す。
送信した後に洗顔をしてこようと席を立つ。
家の用事を済ませてから、メールのことを思い出し携帯を覗くとやはり着信があったようで淡く点滅をしていた。
さっきの返信だろうと予測を立てながらメールを開いていく。
『もうそろそろだと思ってた!楽しみにしてたんだから。お昼前にくれば、ランチ付!』
『そりゃもちろん、ランチ付きで!』

またしても、高原家の食事をお邪魔したあとは茶美の部屋でくつろぎ中だ。
茶美は自分専用のパソコンに電源を入れている。
「で? 相手はどんな人なの?」
「――あのね、ビックリしないでよ」
「そんなビックリする人なの?」
「――だと思うけど」
パソコンが完全に起動すると、すぐにインターネットに繋ぐ。
「ねぇ、見て見て」
「ん?」
パソコンの画面を一緒に覗くと、見知った名前がHPに載っていた。
「T-Gプロダクションから俳優(アクター)の第一期生、平山 武人――」
名前の後に、簡単なプロフィールが続いていた。
「スゴイじゃん」
「もっとスゴイのは、掲示板よ」
『平山武人くんってどんな人か知っている人、情報下さい!!』
『私知ってます!某○○高校に通っているらしいですよ』
『違います!○○学園ですよ』
などと、真実と虚偽が入り混じった内容になっていた。
自分たちが知っている情報が一番正しいに決まっている。
「海晴の情報が流れるのも時間の問題だな」
腕組みをしながら回転椅子を回して茶美はパソコンに背を向ける。
「――そう?」
冷や汗をかきながら海晴はいいコトを思いつき、マウスを操作する。
メンバーたちのブログをよく見ているためにアクセスルートは簡単だ。
「話しそれたけど、海晴の彼氏って結局――あれ?」
また、パソコンに向き直った茶美は、ページが変わっていたことに気付く。
「海晴って、earlのファンだっけ?」
これが一番手っ取り早いと思った海晴は、聖を単独のプロフィールを出す。
「あたしの彼氏」
「――また、ご冗談を」
「本当」
「何を根拠に信じればいいわけ?」
「そう言われても……」
口だけでいうなら誰にでもできる。
確かなる証拠がなければ信じようがない。
逆の立場なら、確かに笑ってしまうようなネタだ。
いつもとは違うHIJIRIを見つめる。
すると、海晴の携帯が台詞を言い出した。
(――そうだ!)
「ちょっとコレ聞いて」
携帯のスピーカーの辺りを茶美の耳に当てる。
『ダーリンから電話だよ。――まだ出ないのかな? ……早くしないと――』
これ以上は聞かせられないと、通話ボタンを取ってその電話に出る。
「もしもし」
「ハル。結構焦らしてくれたね」
いつの間にか設定されていたオリジナルの着信音。
聖が個人的に作成したものらしい。
ちなみにあの後は他人に聞かれると困ることを言っているために、二十秒で留守電に切り替えるように設定していた。
「ちょっと今、手が離せなくって……」
「ふーん……あっ!!」
「どうしたの?」
「貸しなさい!」
電話の向こうで二人のやり取りが聞こえる。
(――なんかイヤな予感)
「あなた今日はココに来ないつもり?」
「へ?」
「だって――ココでバイトしているんでしょ?」
急に電話の相手が変わると、その予感は的中することになる。
三上が口に出した台詞はどこかで聞いたような話しだった。
気を利かせてか、最後の台詞はボリュームが落とされている。
(――なんですと?)
「悪いと思ったんだけど、丁度立ち聞きしちゃったのよね、昨日のは・な・し」
「え」
「せっかくだから、お言葉に甘えて働いてもらおうかと……。そうねぇ。昨日と同じ時間までに来ないと――聖にあるコトないコト話しちゃおうかしら?」
「行きます! ぜひ、行かせてもらいます!」
そこにはいないのに海晴は三上に敬礼の仕草をしている。
「あら、そう? 待ってるわ。ハイ、聖。彼女、喜んで来るって言ってるわよ」
三上に脅され、てんやわんやになっている海晴の耳に聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ハル? 三上さんに何か言われたのか?」
「い、いいや。そうそう! あのね――」
すぐそこにいる茶美に聞こえないようにコソコソと話す。
すると、海晴は手にしていた自分の携帯を茶美に差し出た。
「ん?」
首をかしげる茶美だが、とりあえず受け取った。
「もしもし?」
「あ、茶美ちゃん? 初めまして。海晴の彼氏の坂上聖です」
「ええぇ? ホンモノ!?」
「earlのHIJIRIです」
HIJIRIバージョンで定番のセリフを言うとわかったのか茶美は固まる。
「ホンモノだ……」
「海晴がお世話になってるみたいで」
「いえ、こちらもお世話になってます」
「今度、機会があったら会おうね」
「あ――ハイ」
「じゃ、海晴に代わってくれる?」
茶美は思わず平然と対処したものの、話し終わってから事実を把握する。
震えながら携帯を返すと、海晴は二、三言話すと電話を切った。