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珍しくいつもより早く仕事が終わった聖は、いそいそと海晴が待っている家に帰ってきた。
「今夜はたっぷりイチャイチャできるぞっと」
思わず口ずさみながら周囲を見渡すと真っ暗で人の気配がしない。
それはまるで一人で暮らしていたときのようで、無意識に上着のシャツを脱ぎ捨てた。
「――違う、海晴を探さないと」
唯一動いている自動センサーに行く手を小さく照らし出されながら、家中を探し回るが探し求める人は見つからない。
もしかして――と、海晴の私物が置いてある部屋にもう一度確認しに行くが、そのままにしてあったためほっと胸を撫で下ろす。
今まで家に帰れば海晴がいることが当然だった聖は心配してしまう。
「そういえば携帯――……」
いつも顔を合わせていたために、連絡先の交換をしなければということにお互いに気づいていなかった。
聖は自分の携帯を強く握り締める。
何かあったのでは――もしかして帰れない状況なのかも知れない。
すると、携帯が鳴り始めたのですぐに取る。
「もしもし!?」
「聖ー? 今、いつものみんなで飲んでるんだけどさぁ、お前も来ないか?」
「すみません、今日はちょっと……」
「それじゃ、仕方ないかぁ。また今度な!」
たまに一緒に飲みに誘ってもらっている事務所の先輩からだった。
いつもなら仕事も終わって喜んで行っているところなのだが、そんな状況ではない。
もしかしてと思ったのだが、そんな訳がなかった。
「番号教えてなかったな……」
そうつぶやいた聖は、今は要なしの携帯をソファーに放り投げる。
外に探しに出てもいいのだが、全く行く当てがない。
かといって、こうやって家で待っているのも苦痛であり、頭をぐしゃぐしゃにする。
「どうしたらいいんだよ!?」
自分の吐息しか聞こえない広い部屋で、ただ立ち尽くしている。
しばらくすると、投げ捨てた携帯をパンツのポケットに入れ、帰ってきてすぐ脱ぎ捨てたシャツを拾って羽織る。
じっとしているのが耐えられなくなった聖は玄関に向かうドアを開け放った。
そこには――。
「――海晴!」
「は、はい!?」
ちょうどタイミングよく、海晴が戻ってきていた。
彼女の姿を見た途端――。
強引に引き寄せられた海晴は前につんのめり、全体重が聖にのしかかる。
「ひ……じり?」
なんでこんなことになっているのかがわからない。
聖は何も語らないまま抱きしめてきたのだ。
「なんで部屋の電気ついてないの? もしかして、今帰ったばかり? そっか……今日は早かったんだ。でもなんでシャツがはだけてるの?」
とりあえず、今自分が思っていること全てを口にする。
それなのに、ただ余計に腕に力をこめられるだけだ。
「聖、くるし――」
それを訴えようと顔を上げた瞬間に、唇が重なる。
いきなり濃厚なキスだ。
「――……っ」
息をする間もなく、次から次へとキスをしてくる。
玄関の光が差し込む薄暗い部屋で二人は立ったまま抱擁を続ける。
「ん――、も……くるし……っ」
やっと我に返った聖は、勿体無さげに唇を離す。
「海晴が悪いんだぞ」
「え、あたしが?」
「こんな時間まで連絡もないから、何かあったんじゃないかと……!」
安心して力が抜けた聖はへなへなとそのまま座り込む。
当然、腕の中にいる海晴も道連れできゃっと声を上げる。
「ごめんなさい」
やっと、自分がしたことに気づいた海晴は素直に謝った。
(あたしには、こんなに心配してくれる人がいるんだ)
今日はなんだか、人のありがたみを勉強するには十分だった。
「あのね、叔父さんち寄った後、高校の友達の家に行ってたの。夕食までしちゃったからこんな遅くなって……」
「……」
「だって……今夜も遅くなるかなって思って……」
「そっか、何も教えてなかったもんな。どうやって帰ってきた?」
「友達のお母さんの車で近くまで――って言っても全然手前のあたりで降ろしてもらったよ」
「もしかして、公園の辺り?」
「そだね」
ため息をついた聖は、海晴を正座させると自分も同じことをする。
「いいか、海晴」
「――うん」
これから、説教が始まると思った海晴は目を合わさない。
「あそこの公園は昼はいいんだけど、夜は変な人たちがいるから一人で歩いちゃダメです」
「はい」
「あと、ボクに番号を教えるコト」
「はい」
「ごめんなさいのちゅうをするコト」
「ほぇ!?」
「最後のはいは?」
悪いことをしたので抵抗らしいことが言えない。
「――……はい」
「じゃ。ココにね」
自分で唇を指差しながら、ウインクをする。
「うぅー」
「ハルがしてくれるまで二人ともずっと正座だよ?」
「マジで?」
「大マジ」
なかなか行動に移せないので、二人は数分間正座したままだ。
だんだんと足がしびれてきた海晴は、窮地に立たされる。
聖の両脇に手をついて、軽くキスをする。
やっと正座から開放されると思った矢先。
「今日はステップアップしよか」
首をかしげる海晴に、心をときめかせながら聖はまた困らせることを口にする。
「やっぱちゅうするなら、舌入れなきゃね」
「……っ!?」
「ボクいっつもしてるでしょー」
「うぁーん……っ!」
すでに両腕をがっちりと固められているので、身動きが出来ない。
聖の顔がまともに見れなくなっている海晴は思いっきり頭を振りまくる。
「少しずつやったら慣れるって」
もう待っていられなくなったのか、片手で海晴の顔を捕まえると無理矢理キスをした。
公言した通りに聖からのアクションはほとんどなく、海晴の身体を引き寄せる。
「別にこのままでもいいんだよ? ここで二人で一晩越す? あぁ、でも、どうせならベットの上の方が安眠できると思うけどな」
だんだん本気に感じてきた海晴は顔をひきつらせる。
いくら温度調節がしてある床といえど、こんなところで寝るなんてまっぴらだ。
そう考えると、一時の恥を捨ててするしかないと自分で思い込ませ、再び聖にキスをする。
そして、恐る恐る舌を差し出すと聖が優しく迎え入れてくれる。
その後のリードは聖に移って彼の思うがままに堪能されてしまう。
「うん、よく頑張った」
「バカー!」
自分のした行動に赤面しながら、聖の背中を何度となく叩きあげる。
ふと我に返ると、一番最後の疑問がまだ解けていない。
「なんで、前が全開なの?」
「こうするため」
「――!?」
そのまま床に押し倒されて、これから長い夜が始まる。