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「いつからお付き合いをされているんですか? 他のメンバーは彼女の事知ってるんですか!?」
(――これって、もしかしなくても報道関係の人!? ……でも、なんで聖は落ち着いてるの??)
明らかに、マズイ状況なのに当の本人は一つも焦った様子もない。
「教えてくださいよーHIJIRIさん」
「――もうバレてますよ、早坂さん」
「やだぁー聖君、優香(ゆか)って、呼んでって前から言ってるのに」
やっと、顔が判断できる距離に近づき三十代くらいの女性に見える。
「声でわかりましたよ、いくら作ったトコで無駄ですよ」
「あーあ、いつもそうやって大人の対応するんだからぁー。なにちゃん?」
最後の質問は、自分に向けれてるだろうと思い、聖に眼で訴えるとにこっと微笑んだので答えることにした。
「――天咲海晴です」
「こーーぉんなカワイイ彼女作っちゃうなんて、ヒドイわっ!」
くすんと泣きまねをする彼女に対し、また始まったっと呆れる聖。
「あなたは旦那さんがいるでしょうが、旦那が」
「うふふ。今から食事に行こうとしてたのに、仕事が遅れるからちょっと待ってくれだって。腹が立つから、先に行ってぜーーんぶ食べてやろうかしらっ!」
「あの人もお忙しい人ですからねぇ……。チビ様たちは?」
「旦那のお母さんが見てくれてるわ」
この会話で結婚していて更に子持ちだということがわかるが、そうは見えないので海晴は驚いてしまう。
「今日はお泊りなのかしら?」
「内緒ですよ、優香さん」
「いやん、こういう時だけ名前で呼ぶんだからー。内緒にするに決まってるじゃないの! 今まであたしが裏切ったことないでしょ」
「――それもそうですね」
聖は過去に思い当たる節でもあるのか、遠い目をして相槌を打つ。
その仕草に少しムッとしてしまう。
「あのーー、あたしはまだかの――」
彼女じゃないんですけど……と言いたかったのに、聖に慌てて口を塞がれた。
「邪魔しちゃ悪いし、そろそろ行こうかしら。また、今度じっくりと聞かせてね」
「また改めて紹介します」
優香は聖の目の合図でわかったのか、そそくさとその場を去っていった。
「もーーー! あたしは彼女じゃないのに! それに同棲じゃなくって居候です、いそうろうー!」
家の中に入った途端、やっと開放された海晴はうがーーっと弁明する。
もう、それを証明したい相手はいないのだけど。
「はい、これ」
飲み物を手渡され、憂さを晴らすために一気に飲み干す海晴。
「これ――炭酸……」
てっきり、お茶だと思って飲み始めたのに自分の弱いものを飲まされ、ふらふらとソファーに倒れこむ。
「さっきの人は、お隣さんなんだよ。これからお世話になるだろうし、ちゃんとご挨拶をしておかないとね」
「あたし、ここんちのコじゃないもん……」
段々と酔いが回ってきているのか、じーっと耐えている。
「ここは海晴の家だよ」
「なんでこんなコト簡単に言えるの!? ふざけてあたしの事誘ったんでしょ!? 同情なんかでそんなこと気安く言わないでよ」
勢いよく立ち上がったものの、酔っ払っているので立ちくらむが根性で持ち直す。
もう、こんな所は出てやろうと荷物を取りに行こうとするが、簡単に聖に捕まる。
「最初は、半分ふざけてたのかもしれない。でも、酔って何を忘れようとしたのか知りたかった」
「そしたら、『帰れる所がない』って、帰るところはあるけど、そこには帰りたくないって言う海晴のことが気になったんだ」
「……」
「そんな君を俺はいつの間にか好きになったんだ」
鼓動が早くなる、酔っているせいだろうか。
(ここまできてまだ誤魔化そうとするの?)
聖に心臓の音が聞こえてるんじゃないかと思うくらいにドキドキしている。
「本当に?」
「本当だよ」
「ホントにホント? いつもみたいに冗談だったら怒るよ」
日頃の行いが仇になってしまったようで、聖は失敗したなと悔やんだ。
ああやってふざけてたのは親近感を沸かそうとしてやっていたつもりだが、相手にとっては軽そうにしか見えなかったようだ。
「海晴のこと、本当に好きだよ。だから、このまま朝まで――」

ふと、聖が目覚めると、大きめなシャツを羽織った海晴がハサミを握り締めてそこにいる。
しかも、思いつめた顔で。
「何してんだ!?」
慌ててハサミを奪い取る聖。
「――そんなにヤだった?ゴメン」
そっと手を離す聖を微笑しながら見上げる。
「聖はあたしにちゃんと聞いてくれたでしょ? 答えはイエスでした」
「じゃあ、なんでハサミなんかを――」
「こうするため」
また、ハサミを握り直すとさっきまで躊躇っていたのを振り切り、ざくっと切る。
「な――……っ!」
海晴は長かった自分の髪をざっくりと切ったのである。
「ストップ! それとどういう関係が……」
「過去との決別。もう、昔の天咲海晴はいません。今日から、坂上聖の彼女なんだからね!」
全て吹っ切ったように聖と向き合い、そう宣言する。
そんな海晴を見て確信したのか、聖はにこっと笑う。
「じゃ、俺も――今日から正式に天咲海晴の彼女になりました」
男にしては少し長かった髪をさっくりと切る。
「いいの!? 勝手に切っちゃって!?」
仕事に差し障りがありそうだったので、今度は海晴が慌てる番になる。
「いいんだよ。気まぐれで伸ばしてただけだし――それに」
「それに?」
「女性に髪を切らせといて、男が切らなかったら格好悪いじゃ 髪は女の命っていうし――ね」

互いに髪を綺麗に切りあった後、仕事がある聖が先にシャワーを浴び寝室に戻ってきた。
それに気づかないまま、一生懸命に後始末をしている海晴。
「うぅ。元から腰は弱いのに、さらにツライよぅ……」
時折、腰を押さえながら過激なことも平気で口にしている。
「なに? 今度ソレしてあげようか?」
後ろから抱きかかえられ、驚きながらも一人だと思って口にしたことを盗み聞きされ赤面している。
「――今の聞いてたの!? 信じらんないー」
顔が見せられないと両手で隠すが、それを見てクスクス笑う聖。
「それって、友達の経験談だよね?」
「そうに決まってるじゃないっ!」
くるっと顔を向けるタイミングを見計らって、キスをする。
「今度しようね?」
自分で墓穴を掘ってしまった海晴は、ジタバタするしかなった。

「昨日はすみませんでした! この通りざんげのつもりで、髪切っちゃいました」
本当は違うけど――内心ビクつきながらも、事務所のスタッフに頭を下げる聖。
だが、聖が想像してた反応はなく、そっと顔を上げる。
すると、みんなはきょとんとして見つめていた。
「あ……あれ? 昨日サボったこと怒ってるんじゃ?」
「それは当然。社会人としてなってないわよ。何が体調不良よ。もうちょっとマシな嘘をつきなさい」
聖の直属の上司、三上 由香子(みかみ ゆかこ)からたしなめられる。
「最近、お前らはまともに休みがなかったからなぁ。今回は多めに見てやるよ。まぁ、あとの二人が大変だったけどな。ちゃんと謝っておけよ」
T-Gの社長田中 亮二(たなか りょうじ)は、ちょびひげのナイスガイ。
育ての親でもある社長に聖たちはかわいがられている。
「あたしが教えてあげるわ! 今日もサボってたら半殺しだったのよぉー」
中澤 悠美(なかざわ ゆみ)は、衣装とOA関連の担当で、今年で最後の二十代をエンジョイ中。
そんな彼女の高笑いしながらのありがたい一言が、きつく胸に染みる。
なぜなら、朝のじゃれあいで今日もサボっちゃおうかななんて思ったからであった。
「あいつらは――?」
「ああ、隣の部屋だよ」
軽い打ち合わせなどができる部屋のドアを開けると、二人が既にくつろいでいた。
「おお、やっと来たか、サボり野郎が」
「三上さんがね、今月はがっつり働いてもらうから覚悟しときなさいだってさ」
魁の言葉に、やっぱり怒ってるじゃないかと半泣きしてしまう。
が、すぐに別のことを思い出した聖は朔馬に近寄る。
「ところでー、その後の展開はどうなったんだ?」
聖が朔馬に魁に聞こえないようにこそっと話しかけた。
「それなら今日」
「失礼します」
そう話しているうちに誰かが入って来て、その人物を見た魁は慌てて立ち上がる。
「香織……!?」
「うわさをすればってか」
魁の彼女が久しぶりに現れたのだ。
大体のこのあとの展開が読める聖は、なんだか魁がかわいそうに思えてくる。
「久しぶり……魁君。ごめんね、急にこんなところまできちゃって……」
「いいって、全然構わないよ」
なんとなく察知したのか、優しく対応している様子だ。
一応、業界人でもある魁の彼女は事務所の中にも入ることが出来たが、仕事中にという謝罪なんだろう。
「やっぱり、こういうことは直接言った方がいいと思って」
「――」
「お別れしましょ。あたしには、魁君を独り占めするにはもったいなさすぎだったわ」
「そんなこと全然ないって!」
「ごめんなさい。別れても魁君のことちゃんと応援してるから。――じゃ、仕事頑張ってね」
別れを告げた香織は部屋を出る間際に、もう一度振り返った。
「朔馬さんも頑張ってください!」
ちょっと照れながら、彼女は去っていった。
「そんな一方的に……。これでどう仕事を頑張れっていうんだよ」
この後、たっぷりと仕事があるのにやる気を失ってしまった魁を二人は見つめている。
「――……つまり、そういうワケ?」
「そーいうコト」
何のことかわかっているので、具体的に話さなくても通じ合えるようだ。
「へー、アレ以来、実行してなかったんだ、朔馬って我慢強いね」
「一応、はっきりさせてからにしようかと。まさか、もうミハルちゃん……」
とうとう聖とラブラブになってしまったのか……と、彼女の行く末を心配する。
「何をさっきからコソコソと――もしやお前ら」
ゆっくりと見上げると、魁が怒りに手を震わせていた。
「香織になんかしたのかぁ!?」
ばしっと一発、聖にパンチが入る。
「したのは、朔馬だけだぁ!」
「だーーぁっ! 聖、何言ってんだよ」
「お前が犯人かっ!」
ターゲットを変えた魁は、最高の一発を朔馬に与えた。
「あーー、スッキリした」
魁が一番最初に出てきて、テーブルの上にあった飲み物をがぶ飲みする。
周りにいるみんなは、なんとなく事情がわかったのであえて何も聞かない。
「どうだった? 魁の愛の鉄拳は?」
やっと現れた二人に、三上が冷やかしの言葉を入れる。
「愛が! 身に染みました」
「俺、ホント関係ないのに」
無関係なのに朔馬のおかげでネコパンチをくらった聖だが、周りの反応は冷たかった。
「ホレ、聖。今のうちにみんなに言うことがあるんじゃないか?」
社長が言いやすいように助け舟を差し出すが、聖には何のことだかわからない。
「どうせ、いつかはバレるんだから、早く言った方が身のためよ」
「ミハルちゃんのコトじゃないのか?」
三上はもう証拠は挙がってるんだぞと言わんばかりに脅してきた。
朔馬がもしやと思い囁いてきたが、そんな訳はないとまだ口を割らない。
「あんたが私らの許可なしに髪を切るわけがない!」
「何らかの心境の変化だよなぁ。わかりやすいよ、聖は」
ついさっき戻ってきたのか、買い出し担当の笹倉 正人(ささくら まさと)が輪の中に入っていた。
「さぁ、早く言いなさい」
「何があったんだ? お兄さんに言ってごらん」
みんなに問い詰められ、朔馬たちに助けてもらおうと視線を送るが、観念しろと諦めの視線が返ってきた。
「わかりました。言います、言わさせてもらいます」
「待ってました!」
とりあえず――深呼吸。
「彼女ができました」
「はぁ?」
面白みのない答えだったので、みんながっかりする。
「いつの共演者?」
なにかとうわさになるのは、過去に共演した女優ばっかりだ。
また聖の恋愛モードが入っちゃったのねとか、ったくいつの間にとか、散々言われている。
「――あのですね!」
まだ何かあるのかとめんどくさそうに話を聞く。
「今回は、マジで付き合ってるんです。一からのスタートです」
今までにない、真剣な顔で報告をする聖をみてざわつく。
「あの聖が、マジって……」
「なにがその気にさせたのか」
「これは彼女を見るべし!」
「あの――話、筒抜けなんですけど」
「なら、話は早い! 明日の朝一の仕事は彼女をここに連れてくることよ」