1-5



「もう、いい加減いいでしょ?」
「もう少し、いいじゃないか……」
「そう言って、何年たったと思うの?」
「あのコの状況わかってるだろうが。一人にはできないよ」
「ちゃんと頼んでるわ」
「なにを――まさか!!」
「いいじゃない、互いに条件があったんだから」
「そういう問題じゃない!」

「みっちゃん、どうしたの? 『学校』でなにかあったの?」

「――最悪」
ふと、目覚めた朝。
昔の出来事が夢にフラッシュバック。
綺麗な青空が広がる朝に台無しだ。
ここ最近は落ち着いていたのが、何故か急に現れた。
何かそれを彷彿させることがあっただろうかと考えてみるが思い当たらない。
やはり、そう簡単に割り切れるものでもないんだ――と、深くため息をつく。
身なりを整えてリビングにいくと、テーブルの上に置き手紙がある。
どうやら公開ラジオをするから見に来てということだった。
こんな一枚の手紙にも、ハートたっぷりで愛情が伝わってくる。
見るのがつらくなり、思わず目をそらす。
「バカみたい……」

しばらくボーっとTVを見ていたものの、特にすることも思い浮かばないので行ってみることにした。
詳しい場所までは把握していないため、人だかりが出来ている場所ではないかと近づいてみる。
聞き覚えのある名前があちらこちらから飛び交っている。
この集まりの先にどうやらお目当ての人物がいるらしい。
みんな我が先にといいポジションを奪い合っている。
黄色い声援が辺りを埋め尽くし、警備の人が危険がないようにと大変そうに押さえている。
どうしようかと人込みに紛れながら辺りを見渡していると、急に流れが起きた。
「えぇ……!?」
人にしがみつくかのように流れに身を任せるしかなく、なんとかこけずに済んだことにほっと一息をつく。
「えーー、十分程で次の方に交代になりまーす」
ようやく聞こえた案内がこれだった。
さほどブーイングがないところをみると、こういう場面では当たり前なのだろう。
若い女の子たちの中に中高年の主婦層たちは、そんなことはお構いなしにガラス越しのearlたちに夢中になっている。
十分おきで時間を計算すると――。
終了時間にやっとあのガラス張りのところに辿り着けそうだ。
しかし、この状況下で顔を合わせられるかどうかも謎だ。
別にそこまで頑張らなくても、家に帰れば会うことができる。
だけど、せっかくこうしてやってきたのだから、一目くらい会いたいのが乙女心。
それに本当にそういう世界の人かどうかもこの目で確かめたいのもあった。
それにしても――さっきから背中が痛くてたまらない。
並んだ時から気になっていた、後ろに立っていた同じ歳くらいの女の子二人組。
中で話しているラジオの声に、キャーキャーはしゃぎ、どうにか中が見えないかと飛び跳ねている。
周りの人たちもチラチラと見てはいるけど、それよりもearlの方が大事のようだ。
この騒ぎで頭が痛くなってきた頃に、やっと海晴のグループに順番が回ってきた。
しかし、前列ではないので時々しか見ることができない。
「――ということで、そろそろ時間が迫ってきたんですが……」
「えーーー!!」
SAKUMAが締めの言葉を言い出すと、みんな黄色い悲鳴を上げて抵抗をする。
「さすが週末というだけあって、学生さんが多い!」
「KAITOはそういう所しか目に入らないのかぁ?」
「なんだよー、HIJIRIだってどこの制服?って聞いてたじゃないか――」
「まま、とりあえず、この二人は置いといて。長いようで短かったこの二時間ですが」
エンディング曲が流れて、ラスト数分になる。
「うそぉーー!? ほとんど見れてないのに!」
「ったく、前にいる人変われってカンジなんだけどー」
後ろにいる女子高生ズがここぞとばかりに堂々と文句を言い出すが――それだけでは終わらなかった。
前に行こうと前にいる人たち=海晴をグイグイ押し出す作戦に出たである。
二人でやれば怖くない。
「ちょっと――」
仕方なく海晴も押し出される羽目になってしまい、一番前まで押し出される。
――が、勢いあまって前面にあった植木にこけそうになる。
「やだーぁ、もうラジオ終わっちゃったよ」
海晴の事はお構いなしに、ファンサービスのために残っている三人に釘付けだ。
音声は打ち切りになったが、この至近距離で見れるだけでも興奮してしまう。
「――おい」
「なんだよ――!」
魁が何かに気づき、聖に声をかける。
さり気なく向けた魁の視線の先に、まさかの人物。
前面にいた海晴に気が付いたが、周りの目もあり喜ぶことができない。
「まー、ラヴラヴなこと」
あちこちに愛想を振りまきながらも、この部屋は全く違うことに盛り上がっている。
朔馬が横から冷やかしを入れた瞬間に思わず聖が手を振ってしまう。
「あたしに手を振ってくれた!」
「違うわよ、あたしにだよ」
後ろにいた二人がさらにヒートアップする。
いろんな方向に手を振っているので、いろんなところからそんな会話が飛び交っている。
(なんだ、あたしじゃなかったのか……)
あれから、こっちを全然見ないので自分に気づいてないのかと顔をふくらます。
「えー、ラジオ放送は終了いたしましたので、速やかに移動をお願いします!」
警備の人が無線で連絡を取りながら、特に前面に張り付いている人たちに向けて叫ぶ。
どうやらearlたちのタイムアップのようだった。
「ホラ、聖。そろそろ行かないと、収拾つかないぞ」
スタッフの人たちに泣きつかれた朔馬が渋々訴える。
「行くぞ。第一お前らは、家に帰れば会えるからいいだろうがっ!」
魁が業を煮やして聖を連れて行くが、当の本人はどこかを見たままだ。
海晴の姿は当の昔にスタジオの前から消えているが、どうにか視界の隅に入る場所で誰かに捕まっている。
「みっちゃん!!」
振り向かなくてもわかるこの呼び声、そろそろ帰ろう途端に移動した時に呼び止められた。
このまま、気づかずに走ってこの場を去ってしまいたい。
こんなに人がいるのに、どうして見つかってしまうのだろう。
(あたしには、自由が与えられないってコト――?)
あんな夢を見てしまったからなのだろうか。
――思い出すべきではなかった。
会いたくないと思う時こそ、出会ってしまうのだから。
逃げたいのに――その場を動けない。
「やっと見つけたわよ」

こうやって顔を合わすのは久しぶりでなんとなく落ち着かない。
それを相手も感じ取っているようだった。
この二人と一緒にいたくないと思って、あの家を飛び出してきた。
「あれ、今日仕事は……?」
「何言ってるんだ、今日は土曜日だよ」
落ち着いて話そうと入ったファミレスは、夕食の時間が近いせいか家族や若者が多い。
その中に家族の集まりとして海晴たちも溶け込んでいる。
どうやら、休日になる度にこうやって海晴のことを探していたようだ。
「その曜日がわからないほど、何をしているの? 携帯に連絡も取れないし」
「何って、学校に決まって――」
「その学校から連絡があったわ。ここ数ヶ月娘さんの無断欠席が続いているので、ご連絡をさせてもらいましたって」
「毎朝、制服を着て出てるから学校に行ってるものだと思ってたのに」
(――無断欠席?)
「コラ、海晴。ちゃんと聞きなさい」
視線が合わないように遠くを見ていてたが、そう言われ仕方なく前を向く。
「挙句の果てに、『しばらく帰りません』なんて置き手紙だけして急に姿を消すなんて」
「……」
「高原さんの所に行ってるのかと思ったら、そうでもないし……」
「今からでも遅くないから、学校へ――」
「やめた」
その一言で、目の前にいる二人が驚いた表情を見せた。
「やめた――? その方がよかったのかもしれないわね」
「何言ってるんだ、お前は」
「あんなことになるくらいなら、行かせるんじゃなかった――!」
「誰のこと?」
そんなこと聞かなくても、わかっていた。
だからこそ、知らない振りをして問い詰めてやるのだ。
「それより、あなたどこで生活しているの?」
海晴の手を握りながら、一番気にしていたことを逆に問い詰められる。
しかし、触れ合うことすら嫌な海晴はその手を振り払う。
「親切にも、あたしの事気に入ってくれた人がいてね、そこに居候させてもらってるわ」
「――男ね!?」

「親だろうなぁ……」
急なトラブルが起きたため、聖たちは控え室でスタンバイ中である。
「あん?」
突然の待ち時間にイラついているのか、朔馬はどんどんと灰皿をタバコで埋め尽くしている。
「誰のことを言ってるんだ?」
機種変したばかりの携帯の説明書を読破しながら魁は問いかけをする。
「海晴が中年の夫婦らしき人に声をかけられてたんだよ。きっと親なんだろうなぁって」
「親だよ、親」
「さっさと、帰してやれよー。親の許可がないんなら、犯罪だ、犯罪ーー」
聖の方を見向きもせず、適当のようでそうでないような返事をする。
彼女話は聖にバトンタッチになってからというものの、毎日おノロケ話でいい加減飽きてきているのもある。
「なんだよ、お前ら。こんなに悩んでるっていうのに」
「聖、その悩みの解決策教えてやろうか?」
魁がその気になったのか、読書の手を止める。
「なんだ?」
「同棲をやめてしまえ」
痛いところをつかれ、朔馬に泣きつくとはいはいという感じで慰められる。
聖の見えないところで、ニヤリと笑う魁。
「なんか、家に帰りたくない理由があるんだ」
そうポツリと呟く聖だった……。

「また、男なんでしょ!?」
「……」
「きちんと愛情を注いでるのに、恩を仇で返すつもり!?」
「も……う、いや!」
こんな頭ごなしな話し合いは無駄だと判断した海晴は、テーブルを大きく叩いて立ち上がる。
周囲の人が、何事かとこちらを見るがそんなことはお構いなしに大声を出す。
「何が愛情なのよ! あたしは――いなくなった『娘』の代わりじゃない……っ!」
「――っ! どうしてそれを……」
立ち上がっっている海晴は、二人を見下ろす。
二人は動揺して話すことができない。
海晴に隠していたことを知られていたのだ。
その様子を見た海晴は、軽くため息をついてテーブルを離れる。
「失礼します」
足音を響かせながら、この場を去っていった。