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昨夜、ふと目に留まった彼女がこうやって目の前にいる。
その成り行きを思い出すと、気恥ずかしい感じがしてならない。
ライブが終わった後に何気なく外を見ていた。
正面の公園に若い女の子がいるのが目に入り、それがどうしても気になって早々と打ち上げを切り上げてきた。
誰かと待ち合わせをしていたのかもしれない。
――いなければ、それでよし。
そう思って公園行ったのだが、彼女はそこにいた。
我ながらとんでもないことをしてしまったなと思う。
事情を知ってしまった以上、あのまま放って置けないと思ったのも事実。
こうして自分の家に連れてきてしまったのだ。
――どうしてあんな時間に一人でいたのだろう。
――どうしてあんな寂しい瞳をしているのだろう。
聞きたいことは山のようにあるのに、なだれ込むようにベッドに倒れこんでしまったので、未だわからずじまい。
すやすやと眠る彼女を見ていると無理矢理起こす気にもならなかった。
そんな視線に気づいたのか寝返りを打ち、背中を見せられる。
「――!」
目が覚めて勢いよく起き上がった彼女は、この状況をどうにか思い出そうと頭を抱える。
少し酔っていたために、時系列がうまく繋がらない。
一体、どの人の家なんだろうと記憶を辿る。
「お・は・よ」
いきなり声が聞こえ、あからさまにビクッと身体を震わす。
恐る恐るそちらを向くと、サングラスをかけていた一番怪しかった男がベットサイドから見つめていた。
状況からして何かをされたのではとシーツを捲り身の安全を確認する。
「ひどいなー、知り合ったばかりのコに手なんか出さないって」
なんとなくそうしただけで、視覚で確認しなくても身体には異変がないことはすぐにわかっていた。
とりあえず、身の危険はないらしいようなので、その面については安心してもいいらしい。
「誘ったらイヤって言ったのに、ついてきたのはキミなんだからね」 
家にいるからなのか、昨夜とは全然雰囲気が違っていた。
クールな感じな雰囲気の彼だったが、髪形がラフなせいかちょっと優しい感じがして緊張が解れる。
「今すぐにでも出て行きます。一晩ありがとうございました」
自分の強制ではないことをアピールしてきたことに、さっき思ったことは何かの間違いだったと訂正だ。
身支度を整えをして出て行こうとする彼女を何も言わずにただ見つめていた。
「いきなり押しかけてすみませんでした。それじゃ、失礼します」
「行く当てはあるのか?」
「……」
「『帰れる所』がないんだろ?」
簡単に図星を指されてしまい、外に出るのに躊躇う。
確かに行く宛ては今のところ思い当たらない。
「あんな家には帰りたくない。だから、飛び出してきた」
「じゃ、『ココ』に居れば?」
互いのこともその真相をわかりもしないのに、いとも簡単にそんな台詞が返ってきた。
誘い文句の意味をわかっているのだろうかと彼女は男の顔を伺う。
今までにない、満面の笑みをしていたので少し照れてしまった。
「キミの事気に入っちゃった。嫌じゃなければどうぞ」

とりあえず、今はここに留まることにした。
互いの素性を知るために、リビングのテーブルで話し合いをすることになった。
差し出された飲み物を手で弄びながら気を落ち着かせる。
「とりあえず、互いの名前を聞こうか」
「――天咲海晴(あまさき みはる)。十六歳」
「学校は……」
「自主退学(やめ)た」
少し後ろめたいように視線をそらしながら呟いた。
「そっか……。俺は坂上 聖、二十二歳。昨日も言ったとおり、名は知れてるんだけど――」
「あたしにとっては、怪しいお兄さんなんだよね」
「優しいお兄さんがいいんだけど? にしても、なんで家出なんかを?」
警戒してますよと意味が伝わったのか、悲しい表情を見せている。
話題を変えようとしたのか海晴の話を聞き出そうとしてきた。
「別に関係ないでしょ、聖サンには」
「仕方ない――いつか教えてくれることを祈るよ」
速攻で切り返され、今はこれ以上の深入りすることは出来ないと察知した聖はあきらめることにした。
「ね、ホントに俺の顔知らないの?」
「知らないって言ったでしょ!?」
「そっかー」
「ちょっと! 知らないって言われてるのに、なんで嬉しそうにしてんのよ?」
名が知れている者ならば、自分を知らないといわれたら普通はショックを隠しきれないだろう。
それなのに聖はにっこりとしながら、何度となく頷いていた。

偶然、夕方までのフリーの時間があったため、生活用品を揃えようと街に出かけた。
「やっぱ悪いよ」
昨夜知り合った関係で、そこまでしてもらう義理は思いつかない。
幾度となく行われた押し問答は店の手前になっても行われていた。
聖は入口に立っていたが、次で丸め込もうと邪魔にならない所へと連れて行く。
時間に余裕があればゆっくりと説得できるが、なにせ二時間という強行突破のショッピングだ。
「何回も言ってるけど、気にしなくていいって」
「ただでさえ居候させてもらうのに、こんなことされても――」
「とか言う割には、顔が笑ってるけど?」
「あれ……?」
至れり尽くせりで嬉しさを隠せなくて、手で顔を隠していた――つもりだったようで、バレているようだった。
「いいんだよ。ボクからのプレゼント第一弾!」
「その代わりにーとか、言わないでね。あたしにはこの身体一つしか――!?」
海晴のその言葉ににっこりと微笑んでいるが、その意味がわからない。
しばらく頭を抱えていると、何を言わんとすることがわかり冷や汗をかいてしまう。
できれば気づきたくなかったかもしれない。
「大ビンゴ! 彼女になってくれるだけでもう十分なお返しです!」
手でハートを作りながら、海晴の手を引いて店に向かう。
「仲良くいこうね、海晴」
(いきなり呼び捨て!?)
いきなり下の名前で呼ばれたことに驚いたが、そこで言い返すとまた口論が始まりそうで口を開くことを諦めた。