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007号ニューヨークを行く
〈原題:Agent 007 in New York〉
ハヤカワミステリマガジン 2008年10月号掲載
1963年度作品
イアン・フレミング著
9月の終わり、ジェイムズ・ボンドはニューヨークにやってきた。
かつて英国情報部で働いていた(そして今はニューヨークで暮らしている)英国娘に、ちょっと忠告してやるだけの簡単で退屈な仕事の為だ。
午後に娘と会って、その後は明日まで自由時間。
ボンドは、一日の計画を立て始めるが…
イアン・フレミングが書いた“Thrilling Cities” (邦題「007号/世界を行く」「続007号/世界を行く」)って作品がありまして、フレミング自ら世界のアチャコチャに行った時の体験を、ボンドを主人公にボンド小説風の味付けをした半フィクションの旅行記なんですが、その中でこの「007号ニューヨークを行く」だけは、唯一邦訳されなかった(日本のファンにとって)幻の作品だった訳なんです(別に内容に問題があったとかじゃなくて、日本語版の元になった版にこれだけ載ってなかっただけなのですが)。
それがやっと“イアン・フレミング生誕100周年”記念ということで、ミステリマガジン誌で本邦初翻訳という運びに。
内容的には、ボンドが「あの店行ってあれ喰って、あの店行ってあれ飲んで、どこそこのあの娘を誘って、夜はさぞかし…(ニヤニヤ)」と夢想しているだけの話なんですが、実在の店や商品名が次々登場するいつものフレミング節で、こっちのスノビズムを刺激させられてる内に、気付けば「やっぱ本家は違うなあ」と満足させられてしまっているわけです。
翻訳も、故井上一夫氏ではないのは残念ながら仕方ないですが、殆どのベンスン作品を手がけている小林浩子訳なので、まあ妥当な所かと。
本編の最後に〈ジェイムズ・ボンド風スクランブル・エッグ〉のレシピまで記載されています。
そんなフレミングが好き(笑)。
【追記】肝心の“イアン・フレミング生誕100周年”記念特集の方は、なぜか新作映画タイアップの「それいけスマート」の小説とかフレミングに関係のない記事が多く、正直読むべき所のほとんど無い特集です。
わずか6ページの「007号ニューヨークを行く」の為だけに、800円出して良いと言う(引き返せない所まで来ちゃった)ファンでなければ、オススメしません。
新作映画タイアップならなぜ「慰めの報酬」の方を特集しないのかと一瞬思いましたが、「慰めの報酬」の原作は「007号の冒険」(創元推理文庫←ココ重要)だと言う事を思い出し、ハヤカワのケチくささにガックリうなだれる私なのでした。