ホーム〇〇七部屋 > その他書籍〈関連作品・パスティーシュ等〉「ドラキュラ崩御」

秋山草堂〇〇七部屋・その他書籍〈関連作品・パスティーシュ等〉「ドラキュラ崩御」

DATA

ドラキュラ崩御

1998年度作品
キム・ニューマン著

あらすじ

ヴァン・ヘルシングが敗れ、ドラキュラが生き残った世界。
闇の存在だった吸血鬼達は、今や公のものとなり、多くの問題を抱えながらも、温血者〈ウォーム〉と呼ばれる人間達と奇妙な共存をしていた。
そして月日は経ち、1959年。
ドラキュラ成婚に沸き返るローマ。
かつて、英国情報部〈ディオゲネス・クラブ〉の一員として、ドラキュラを英国から追放する役割を担ったチャールズ・ボウルガードは、愛するジュヌヴィエーヴに見守られながら、静かな余生を過ごしていた。
そんなある日、ディオゲネス・クラブの情報部員ボンド中佐が、ボウルガードのもとを訪れる。
ボンドは、ドラキュラ結婚の真の意図を探りに来たのだった…。

解説

ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」の続編でありながら、ヴァン・ヘルシングが敗れ、ドラキュラが生き残ったパラレルワールドを舞台にした「ドラキュラ紀元」シリーズの三作目です。

このシリーズの大きな特徴は、虚実入り混ぜた様々な登場人物が登場する事で、第一作「ドラキュラ紀元」では、原典「吸血鬼ドラキュラ」の登場人物は勿論の事、「シャーロック・ホームズ」からは、レストレード警部にマイクロフト、モリアーティ教授にモラン大佐まで(シャーロック本人は、強制収容所に入れられているという設定で登場せず(笑))、その他、あのジキル博士とあのモロー博士が共同研究していたり、フー・マンチューがキョンシーを操っていたりとやり過ぎな上に、実在の人物も(切り裂きジャックの犠牲者や容疑者から“エレファントマン”ジョン・メリックまで!)大勢登場する徹底ぶり。
第二作「ドラキュラ戦記」では、カリガリ博士にハーバード・ウェスト、“セイント”サイモン・テンプラーにドクトル・マブゼといった架空の人物と、実在の人物ではエドガー・アラン・ポオや“レッド・バロン”リヒトホーフェン、ウィンストン・チャーチル、ベラ・ルゴシ(!)まで登場。

で、続くこの三作目で、「エクソシスト」のメリン神父やフリッツ・ラング、オーソン・ウェルズ等に混じって、ヘイミッシュ・ボンド(ヘイミッシュはジェイムズのスコットランド訛りだそうな)が登場するって事で、この007コーナーで紹介している訳なんですが、とにかくこのボンドが情けない(笑)。
格好ばかりつけて、基本的に役立たず。
その上、周りに迷惑かけまくりで、ボンドよりも「エロイカより愛をこめて」のロレンスに近いかも(笑)。
でも、あまり気にならないのは、現実的&客観的に見れば、ボンドってそんな奴だろうと思うから(特に映画版)。
それに、何百年も生きた化け物がウヨウヨしているような世界の話なので、若造のボンドが役に立たないのも許容範囲に思えてしまう、ってのもありますし、本来の主人公達のキャラが立っていて魅力的だから、ボンドが噛ませ犬的(笑)に扱われていても気にならない、てのもありますな。

そんな情けないボンドですが、描写はさすがにツボを押さえてあって、読んでいてついニヤニヤしちゃいます。
アストンマーチン、サヴィル・ローで仕立てたタキシード、バーンズマーティン製のトリプル=ドロー・ホルスターに入れたワルサーPPK(銀の弾丸入り!)などなど。
中でも、一番印象に残ったと言うか、作者はこのシーンを書きたかったんだろうなと思えたのが、ヒロイン、ジュヌヴィエーヴが、人の死に慣れ過ぎているボンドに哀れみを感じて、「あなたもいつか誰かを愛して、そして失うのね」と言うシーン。
その言葉に動揺したボンドを見て、“思ったとおりだ。彼もかつてそれを体験したのだ。そして今後もまた同じ事が起こる。”と思うのです。
ヴェスパーとトレーシーの事に触れられると、007ファンは弱いですな。
猫にマタタビを与えるようなもので、簡単に喜んでしまいます。

作品の内容にも触れておきたいのですが、三作目と言うのも手伝って、ネタバレを避けて内容に触れるのがなかなか難しい作品です。
キャラクターが魅力的で、何よりその作品世界が魅力的です。
吸血鬼小説として読むもよし、キャラクター小説として読むもよし、バカ小説として読むもよしのオススメシリーズです(絶版ですが(笑))。

TOPページに戻る