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秋山草堂〇〇七部屋・その他書籍〈関連作品・パスティーシュ等〉「ジェイムズ・ボンド伝」

DATA

ジェイムズ・ボンド伝
〈原題:JAMES BOND〉

1973年度作品
ジョン・ピアースン著

あらすじ

イアン・フレミングの伝記を書いた著者に届いた一通の手紙。
ウィーンから送られてきたその手紙によれば、ジェイムズ・ボンドは実在すると言うのだ。
始めは全く信用しなかったが、興味を持った著者は独自の調査を始める。
やがて接触してきた英国情報部は、とんでもない提案を持ちかけてきた。
曰く、ジェイムズ・ボンドは実在し、彼の伝記を執筆して欲しいと言うのだ。
否応無しにバミューダに飛んだ著者の前に現れたのは、誰あろう、本物のジェイムズ・ボンドその人だった!

解説

イアン・フレミングの記者時代の助手で、実際にフレミングの伝記「女王陛下の騎士」を書いたジョン・ピアースンが、ジェイムズ・ボンドは実在したと言う想定の元に書き上げた贋伝記。
インタビューと言う形で、ボンドの子供時代からスカラマンガ事件までが語られます。
孫大佐事件に関しては、触れられつつも語られずに終わるのが、なんとも分かってるなピアースン!(笑)。

ジェイムズ・ボンドが実在するなら、フレミングの小説や映画は何なんだと言う事になりますが、この本では“ジェイムズ・ボンドを架空の人物だとKGBに思い込ませる為の工作”と言う理由で、小説や映画の存在を片づけています。……いや、むしろ、その作戦こそがこの作品の主題と言うか。
ボンドが経験した実際の事件をフレミングが小説に纏めていたと言う設定なのですが、ボンドやM、フレミングやモロニー卿それぞれの思惑が絡みあう、小説のバックストーリー的な要素がとても面白く、時には小説版の一部の描写はウソであると、いけしゃあしゃあと言い切ってしまう大胆さが気持ちいいくらいです。
3作目の「ムーンレイカー」に至っては、ボンドが架空の人物であると言う事を強調する為にフレミングが書いた、事実に基づかないフィクション作品という扱いになってたりします。
これは、「ムーンレイカー」と言う作品が、ヒューゴ・ドラックス卿とロケット“ムーンレイカー号”の事を英国中が知っていると言う設定で書かれているので、「ジェイムズ・ボンド伝」の贋伝記としてのリアリティを損なわない為の配慮なのでしょう。

「カジノ・ロワイヤル」以前の出来事や小説に書かれなかった事なども、フレミング作品のイメージを損なわないように上手く膨らましてあって、ジェイムズ・ボンドの物語として違和感なく受け入れる事が出来ます。
また翻訳も井上一夫氏が担当しているので、その辺りでも満足のいく出来です。

贋伝記と言う切り口ではありますが、フレミング以外のジェイムズ・ボンド物としては、かなり良くできた作品です。

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