007 赤い刺青の男
〈原題:THE MAN WITH THE RED TATTOO〉
2002年度作品
レイモンド・ベンスン著
宿敵ブロフェルドとの対決以来初めて、ボンドは日本の地にやってきた。
日本で行われるG8サミットに参加する首相の護衛をする為と、日本で暮らしていた英国人一家が謎の死を遂げた事件を調査する為だ。
それに日本に行けば、ボンドが消息を追っていた極右テロリスト・吉田吾郎の手掛かりも掴めるかも知れない。
再び訪れた日本で、タイガー田中との再会を喜ぶのも束の間、調査を始めるボンドの前に、次々と刺客の影が現れ……!
ベンスンの長編8作目(ノベライズ含む)。
日本が舞台という事で間を飛ばして先に翻訳されたのですが、日本で翻訳されるや、クライマックスの舞台になった瀬戸内の直島周辺が「映画化だー」「誘致だー」「島興しだー」と盛り上がっちゃって、「007 赤い刺青の男記念館」なるものまで作られるまでに(汗)。
でも、悲しいかなフレミング以外のボンド作家の作品は今まで一度も映画化されてないので、本気で映画化や誘致を考えているのならちょっと可哀相というか、記念館作る前に誰か気付かなかったのかと。
ま、こうやってネタにされる事での宣伝効果は、もちろんあるのでしょうが。
直島の事はさておき、内容の方はまあ、どうという所の無い、面白いとは言えませんが、駄作とも言えない、そんないつものベンスンです(笑)。
しかしながら、日本の事を良く調べてあって、いわゆるトンデモニッポン的描写は殆ど見られないのですが、細かい所では日本人的に違和感を感じる描写も多々あり。
部下や目下の者の返事は常に「はい!」だったり(笑)、ソープ嬢がある種の尊敬を集める存在と書かれていたり(花魁のイメージなんでしょうな)。
ま、元々そこまでの完璧さは期待していないというか、そう言った部分もガイジンが見たニッポンの楽しい所なので、「いいぞもっとやれ」ってなもんであります。
物語前半に登場するタイガーの部下の田村礼子と、後半に登場するソープ嬢のマユミ・マクマーンの二人のヒロインも、映画版の「007は二度死ぬ」へのオマージュなんでしょうな。
ダブルヒロインの場合、後半に登場する方が本ヒロイン扱いなのでしょうが、前半登場の副ヒロインの方が魅力的なのも映画「007は二度死ぬ」と同じで。
という訳で、アルマーニのパンツスーツ姿&メガネっ娘の礼子さんが、私の萌え属性直撃でタマリマセン(笑)。
有能で、程々に生真面目だけど、人好きのする性格もとても可愛く、彼女のお陰で前半は結構楽しく読む事が出来ました。
敵の手にかかって死ぬ所まで、映画「007は二度死ぬ」のアキと同じにしなくてもいいのに……。
一方、もう一人のヒロイン、マユミの方は、わがまま勝手な性格で、ソープ嬢にまで落ちぶれたのも自業自得としか思えず、どうにも魅力を感じられません。
先述の「ソープ嬢が尊敬を受ける」云々の捉え方の齟齬も、マユミに対する感情移入を余計に妨げているのだと思いますが。
ボンドは全然歳を取らないのに、タイガーの方は老いを隠せないのが悲しかったり。
小人の殺し屋の元ネタは、やっぱ乱歩でしょうかねえ。
映画「007は二度死ぬ」でも、「屋根裏の散歩者」よろしく天井から糸で毒薬垂らしてましたし。